第37話 お風呂も出来た
集落の我が家に帰って来てから10日ほど経った。
現在僕の目の前には今回のお仕事の依頼主であるマルテスさんが、
「アルマ君、これって湯沸かし魔道具だよね!?」
と、浴槽に溜まったホカホカのお湯を眺めながら驚いている。
現在集落の代理責任者であるマルテスさんからの依頼は、
【井戸場の横に簡易風呂用の竈を作って】
というご注文であり、勿論そちらも完成している。
こちらは騙し絵顔の大将さんに注文して作ってもらった魔合金のパイプを使って僕が錬金石粘土をコネコネして仕上げた自然循環式の薪釜風呂である。
しかも、ちょっとした遊び心で岩風呂風にしてある自信作で、湯船から釜戸へと伸びた上下2本に見えるパイプは実は繋がった1本のパイプであり、折り返し地点に作った風呂釜で薪を燃やせばパイプが熱せられて下のパイプから冷たい水を引き込みつつ、温められたお湯は湯船へと上のパイプを通って返されるというシステムである。
案外簡単な仕組みであるが、なんでもかんでもマジカルなパワーで片付けるこちらの方々には知らない技術だったのか、マルテスさんはお屋敷などて使われている高価な湯沸かし魔道具を購入してきたと勘違いしているらしく、
「えっ、追加で予算は出ないけど…良いの?!」
と、心配そうにしているので僕は、
「安心してください。 予算内で熱すぎた時に湯船に入れる水を汲み置き出来るタルから隣の簡易風呂用の大きなタライに、小さいバケツを改造した簡易シャワーまで全部買ってもお釣りが出ましたよ」
と伝えると、それを聞いて口をあんぐりさせて驚いているマルテスさんには、
「目隠しの小屋はまだ無いですが、騎士団から派遣されているカルパさんとソロさんが順番待ちをしておりますので、一番風呂をいただいちゃって下さい!」
と依頼人特権での一番風呂で使い心地を確かめてもらったのであった。
この日マルテスさんより
「思っていた以上でした」
というお誉めの言葉もいただき僕は無事に依頼達成となったのであるが、可哀想なのは大工の皆さんであり、
「空いた時間に風呂小屋を建てますから!」
と言って大自然の野ざらし風呂を楽しんでいたのは最初の1日はだけであり、現在集落に居る唯一の女性であるベテランメイドさんから、
『私も使いたいから早く小屋を作れ!』
という無言の圧をかけられているらしく、リデルさんのお屋敷兼役場の建設をストップしてまで脱衣所つきの風呂小屋の建設に励んでいる。
作った本人としても満足の仕上がりの薪風呂が完成してからは我が家の中庭に簡易のタライ風呂を借りに来る方々も居なくなり、
「よし、我が家のお風呂もグレードアップするか!」
と翌日から僕は、朝は厩舎のお手伝いをしてから畑の水やりの後で我が家の中庭にて薪釜風呂作りをして、夜は初級錬金術師の勉強と、前回ファベルの町の錬金ギルドにて大量に購入してきた材料で、失敗覚悟でポーションを作ること数日、
この日僕は、仮の役場にて初回のギルドからの派遣者となった商業ギルドのモンテさんに、
「久しぶりアルマさん、昼過ぎにはまたファベルに向かって出発するからチャチャッと済ませましょう!」
と、水やり中の畑から連行されて、
「低級ポーションと低級毒消しポーションに解熱ポーションをアルマ君の名前で納品すれば良いんですね」
などと夜な夜な作ったポーションの中で良さげな物を託している。
これで半月後に錬金ギルドから基準を満たしたポーションだったか否かの判定を受けて、僕の予定した満額買い取りであれば、
『初級錬金術師試験の時期が来た!』
と、来ている馬車に便乗して試験を受けに行くつもりである。
しかしポーションを受け取ったモンテさんは鞄からゴソゴソと資料を取り出すと僕に、
「実はさ、ファベル準男爵様からの依頼で幾つか物件を見繕ってきたんだよね」
と言って僕の目の前のテーブルにその物件の資料を並べ始める。
僕としては寝耳に水の話で、
「えっ、町に家なんて買える程もお金を持って無いですよ」
と慌てるが、モンテさんは少し呆れたように、
「スラムでテント暮らしって冗談だと思ってましたが、まさか本当だったとは…ファベル準男爵様から物件探しを指示されたウチのギルドマスターもビックリしてましたよ。 おかげさまで私もアルマさんが準男爵様から叱られたみたいにウチのギルドマスターからコッテリしぼられました」
と怨み節を僕に言ってから、少し商人特有のイヤらしい笑顔になったモンテさんは、
「アルマさんから多機能魔石式ライトについて製造や販売をファベルの町のギルドが一任していただいていたので、他のギルドのマスターとも話し合った結果、多機能魔石式ライトの製造権利をこの先5年はご領主であるボスケ伯爵家の治める領内に留める契約を結ぶ予定です」
というと、ニチャァ~っと更にイヤらしい笑顔になったモンテさんは僕にだけ聞こえる声で、
「アルマさんもファベルの町で作った多機能魔石式ライトを納品するでしょ? だから実質的に何の不利益もなくボスケ伯爵様からの契約料のみでここにある物件の一つや二つ買ってもお釣りがきます」
と言った後に普通の声量に戻り、僕たちの後ろの方でいつもの様に書き物仕事をしているマルテスさんや文官さんにも聞こえる様に、
「流石にファベルの町に来る度にスラム地区で野宿をされては我々ギルドサイドも不安ですからぁ~」
というと、どうやらお代官様からマルテスさんにもチクリとお叱りの手紙が届いていたらしく、マルテスさん達公務員組からも、
「ファベル準男爵様からは、アルマ君のおかげでご領主様に良い報告ができそうだと喜んでおられているから、ファベル準男爵家からの褒美だと思って好きな物件を選ぶと良いよ」
と、どうやら僕が町に来た時の居場所が掴めないような事にならない為に家をあてがい絶対に野宿をさせない目的と、
『ありがとう、家をあげるからこれからも仲良くしようね』
という僕を他の町に引き抜かれない様にする投資の側面もあるらしく、モンテさんは、
「良かったですね無料で家が手に入りますので、稼いだ分で家具も揃えれますよ。 木工ルーターの話はマドラさんの口コミで職人ギルドでも噂になってますから職人ギルドのマスターもアルマさんと仲良くしたがっていましたから、良い大工さんを紹介してもらって改修してもらうって手もありますし…どうです、こんな物件は?」
と、一番高い元商会の物件をオススメしてくれる。
どうやら領都に本店を持つ老舗の商会の建物だったらしいが、代替わりと共に商会の経営が怪しくなり事業縮小で手放したお屋敷らしく、
「準男爵様のお屋敷にも有る湯沸かし魔道具付きのお風呂も…」
とアピールしてくれているモンテさんには悪いが、
『いや、お風呂は自分で作れますから…』
と維持費もかかりそうな豪邸をパスしようとした僕の脳内では、前世のオッサンだった自分が、
『そんだけの金額は出してくれる腹積もりはあるんだろうから、この物件の中には無いけど農地を貰ったらどうだ? スラムっ子や昔レディー達を雇えるだろうし、ミルクムギチャのミルクを自家製にして、あとは畑で野菜を育てりゃ食うには困らないだろ!?』
とナイスなアイデアを出してくれ、
『それって、最高じゃん!』
となった僕は、モンテさんに僕の考えを打ち明けて、ファベルの町の農業エリアにスラムから追い出されるかも知れない知り合い達を従業員として雇える場所を希望したのだった。
マルテスさんは、豪邸の資料を見ながら、
「でもアルマ君…一等地だよ?」
と最後まで大通りの物件を僕に薦めていたが、
「そんな見てくれだけの物件は不要ですので…」
という僕の気持ちをモンテさんは十分理解してくれたらしく、
「了解しました。 私も物件を見繕う時にアルマさんの事は調べさせてもらったので」
というと、モンテさんは、
「アルマさんの自宅を本店とする商会を作ります。 これはアルマさんがお母様から引き継いだ看板がありますのでアルマさんが中級商人になれば問題がありません」
と、自分の鞄からテキパキと書類を取り出して、
「見習い商人のファナさんとカルロさんからは既に了解を取っておりまして、予定ではファベルの町に支店を構える手続きで、安い登録料でミルクムギチャの店舗を出店する計画でしたが、私もまだまだですね…アルマさんはもっと大きな視野で沢山の人の為に…」
と何だか感動しながら僕を中級商人にする書類を書いているのだが、
「えっ、それって年会費金貨1枚ですよね…たしか」
と一応聞いてみる僕に、モンテさんは、
「はい、私的にはアルマさんは無料にしてあげて欲しい気持ちはありますが、こればかりはギルドの決まりでして」
と、どうやら僕のお財布から毎年金貨が1枚サヨナラする書類を、ノリノリで書いているのである。
『たしかに小さな牧場をするのにも初級商人にならなければ成らないし、牧場のミルクを商うには登録料を町に払う必要があるので、農業の登録料が安くなるのなら僕の中級商人登録は仕方ない出費かもな』
と自分に言い聞かせた僕は、モンテさんに、
「とりあえず、一年分の年会費です」
と、金貨1枚を差し出したのちに、追加でファナさんとカリーナちゃんの初級商人の年会費の銀貨3枚ずつの計6枚も追加でテーブルに置いたのちに、
「あと、カルロさんですがカリーナちゃんと本人の前では呼んであげて下さいね…《《彼女》》結構そこらへん繊細なので」
とだけモンテさんにお願いをしておいたのであった。




