第35話 動き出したかも
今回ファベルの町に来て色々な事が急に回りだした気がする。
ハンドルーターの件で夜まで会議をした次の日も錬金ギルドへと呼び出されたのであるが、前日のような手探りな話し合いではなく、実際に現物のある魔石式ライトについての会議だったのでサクサクと話が進んでくれた。
商人ギルドのモンテさんの話では、僕が改造して作った魔石式ライトは、魔石式ランプをベースとした技術の為に特許料でガッポリ稼ぐ事は難しいけど、反射板パーツだけの特許ならば取得できるらしい。
つまり、ライトの反射板パーツの製造とランプの改造という実用新案的な登録で、魔石式ライトが販売される度に僕にチャリンとお金が入ってくるようになる。
ならば1個でも多く魔石式ライトが売れた方がお金になるので、僕は知恵をしぼり、
「夜間の馬車移動の際に道を照らしたり、あとはランプより一方向に光を集めますので、今までより遠くを照らせて騎士団や兵士の方々の夜間の見回りとか、ライトの所に蓋でも付けたらスイッチを入れたり切ったりして魔術回路に負担をかけずに相手に光の点滅で信号が送れますよ」
と、魔石式ライトを買ってくれそうな売り込み先のアイデアを出してみると、錬金ギルドマスターのショヘルさんは、部下のエリート職員のサビオさんに、
「夜間馬車を走らせる行商人に、定期馬車、果ては騎士団に町の見回りをする兵士隊までに売れそうじゃのう…これは昨日の魔道具の比じゃないぐらい大事にならんか?」
などと言うとサビオさんも、
「実際に商会や騎士団などに売り込む為の見本の商品を用意するだけでも、専属で動いてくれる初級錬金術師の数が足りるかどうか」
と困った顔をしている。
それに商人ギルド的にもすぐにでも見本として纏まった数が欲しいらしく、僕に、
「何とか成りませんかね?」
と聞いてくるが、そもそも僕は回路の下書きが上手く出来ない非力ボーイだった為に壊れた魔石式ランプを寄せ集めて改造を楽しんでいただけなので、量産出来る訳がない。
『何とかねぇ~』
と頭をひねる僕に、本当はルーターの試作に取りかかりたいであろうマドラのオッサンが、
「メラーの嬢ちゃんみたいに魔術回路を書くのが苦手なアルマが作れたんなら回路さえ有ればオイラにも作れたりするか?」
と聞くので、僕は、
「出来ますよ。 本当なら反射板の中は鏡みたいにツルンとしていた方が良いんですが、錬金鉄粘土を反射板の型の木型を作ってニュッと変形させて、それに魔力を流せば出来上がりですからね」
と答えると、マドラのオッサンは少し渋い顔をして、
「魔力ねぇ…オイラ腕力増加のスキルしかなくて、魔術とかもやった事がないからなぁ」
と、魔力操作に不安がある様子だったので、
「まぁ、スキルなしの僕でも練習したら魔力は流せたのでイケるとはおもいますが、たぶん魔力が流せない人でも魔石から魔力を取り出す魔術回路とクルクル回るコマみたいな部品を使ったら部屋の中を魔力溜まりみたいに出来るのなら木型で型を抜いた錬金鉄粘土を何個か小箱に纏めて、その装置で魔力で満たしたら勝手に反応して硬化するんじゃないかな?」
などとアイデアを出すと、僕に魔力酔いの話を教えてくれたサビオさんが、
「アルマ君は、あの時の説明だけでこのアイデアを? いったいどういう思考を巡らせたらそんな発想が生まれるのか」
と驚いてくれたのだが、僕としてはこの瞬間、
「あっ、そもそもマドラさんて鍛冶職人でもあったんだから錬金鉄粘土を使わなくても作れるじゃないですか!」
と、マドラのオッサンがただの飲み屋にたむろしている常連ズの一人ではなく、ファベルの町で凄腕の部類の職人だった事を思い出したのだった。
しかし、僕のアイデアは職人でなくとも簡単な作業でパーツが作れる事を示しており、商人ギルド的には、
『錬金術師でも職人でもない一般人を雇って量産ができる!』
という事は大きな意味があったらしく、モンテさんから、
「これは昨日の発明と合わせて各ギルドの担当者と共にファベル準男爵様とご相談するべきですね」
と提案され、後はお偉いさん達にお任せする事でその日の会議は終了なった。
しかし、お偉いさんと話をする時の為に僕の持って来た魔石式ライトを見本として取り上げられてしまい、
「明かりが無いと困るんですが…」
とゴネてみると、錬金ギルドマスターのショヘルさんが、
「すまないなアルマ君、お詫びに見本のコレを買い取らせてもらうし、同じような修理品を改造した魔石式ライトならアルマ君から正当な値段で買い取ろう」
と言ってくれたので、僕は、
「なら、この試作品で1ヶ所ど~しても気に入らない点がありまして、魔石ランプの部品を流用したのでライトの反射板は丸型なのにカバーが四角のままで無駄な空間がありますのでこの反射板にぴったりの丸い水晶板ガラスを…というか、メガネのレンズみたいにカーブがつけれたらもっと遠くまで光を…」
と語っている最中にギルドマスターのショヘルさんは、サビオさんに、
「サビオ君、すまないがアルマ君が町に居る間ギルドの工房を使わせてあげて…あと、サビオ君が付き添って彼をサポートしてあげてね。 特に記録は抜かりなくお願いします」
と指示を出すと、ギルドマスターはゆっくりとメガネを外して目頭を軽く揉みながら、
「歳かな…新しい世代の発想に頭がついて行けるか不安になってしもうた…」
と疲れたように呟くと、急にメラー先輩が、
「良かったぁ。 ギルマスが不安に思われているのなら、私が少し前から話についていけずに置物みたいに座ってただけでも大丈夫ですよね!?」
と涙目で語っていたのだった。
その日の会議の後から僕は、ゴミ置き場でスラムっ子達と壊れた魔石式ランプを探し、騙し絵顔の大将の店でも不良在庫の壊れた魔石式ランプを買い占め、
「不良在庫を引き取るんだから」
というのを理由にして、大将さんの鍛冶技術を見込んで、少しお安い手間賃で歪んだランプの魔合金部品の修理や、オーダーメイドの部品を幾つか作ってもらい、錬金ギルドの中に併設されている工房にて僕の思い描く最高の魔石式ライトの製作を開始したのであった。
錬金ギルドの工房にて僕の専属家庭教師みたいになってくれているサビオさんも知識だけは上級錬金術師にも負けない程であり、彼は不器用という悲しいカルマから魔道具やポーションを作る事よりもそれらを作る錬金術師を育てる事に生き甲斐を見つけたという根っからの教育者であり、夢は錬金ギルドにてこのまま出世して、錬金術師の講師として何処かの学校に派遣される事らしい。
そんな知識と志を持った先生が集落に帰るまでの短期間ではあるが、ギルドマスターの指示で日常業務よりも僕のサポートを優先してくれるのだ。
まぁ、ギルマスの狙いとしては僕の突拍子も無いアイデアを見逃さないように監視するのがメインとはいえ、無料個人インストラクターがついているこのチャンスに僕も可能な限りの錬金術の知識を吸収し、隙あらば初級錬金術師の筆記試験の勉強も教えて貰うつもりである。
『何か良い風が吹いて来てないか?』
と、今日もルンルンで錬金ギルドへ向かっている僕なのだ。
ちなみに僕が現在使わせてもらっている工房は、錬金ギルドで所有している大変高価な水晶ガラス製造魔道具を使って、ギルド職員やアルバイトで雇った錬金術師が依頼された水晶ガラス製品を作る為に錬金ギルド内に作られた工房であり、僕は高価なこの魔道具を壊さないように工房の端っこで作業をしている。
サビオさんが、
「そういえば、アルマ君には水晶ガラスの作り方を教えるって言ってたっけ」
と思い出して、
「丁度現物が有るから…」
と言って、装置を使いながら説明してくれた。
この魔道具はEランク冒険者以上向けのクエストに【魔水晶の納品】という鉱石拾いの依頼が常に出されており、それらのクエストで集められた魔水晶と幾つかの素材をこの魔道具にブチ込み、木工職人さんなどに依頼して作った素材は問わない見本を型として魔道具にセットする。
そして、このバカ高い魔道具のスイッチをオンにすればセットされた型と同じ形に、魔水晶などの素材分解し再構成する装置である。
まぁ、簡単にいうとファンタジー世界の3Dプリンターなのだそうだ。
普段は大工さんや木工職人さんから依頼された家の窓や陳列棚などの家具に必要なパーツの形の水晶ガラスを作ったり、錬金術師が使うポーションの入れ物として薬毎に決まった形の瓶を作るのが主な使い道だそうだ。
錬金ギルド以外には販売されない門外不出の魔道具であり、魔水晶を分解して素材とし、その素材を変形させてから材料の魔力を使いきって一つの水晶へと変換するまでの行程に引くほど精密な魔術回路を何枚も必要としているために、社内割引的な価格でも白金貨百枚というお値段なのだそうだ。
流石の値段設定に、
『ひぃ、1億円の3Dプリンターですか!?』
と驚く僕の脳内では、少し寂しそうな夢のあるグループの社長さんが、
「本日は、この、異世界3Dプリンターの、ご紹介ですぅ」
と呟くと隣の愛人風の女性が、
『高い、たかすぎるぅ~! 社長ぉ~何とかなりませんかぁ~?』
と悶えてくれているが、何ともならなそうなので今回はご退場をお願いしたのだった。




