第34話 夜空に願う
会議はその後盛り上がり暗くなるまでミニルーターの件を話し合ったのであるが、議題としては、
『作れるか否か』
では無くて、
『作った後にどうするか』
という権利やお金の話になっており、商人ギルドの立場からモンテさんが、
「これらの発明が完成すれば職人ギルドからもこの魔道具の問い合わせが来るでしょうから、使われた新しい技術についてきっちり登録していただき、ファベルの町というよりボスケ伯爵領全体の産業としてお考えいただきたい」
と意見してくれる。
これは、
『大陸初の職人向け魔道具発祥の地として皆で上手に稼いで行きましょう!』
という意味で、式据え置きハンドルーターと木工ルーターの製造、販売、またそれらを使った新たな商品の開発など、商人・職人・錬金の3つのギルド共同でご領主様と一緒に王国の中でもパッとしない辺境のこの地を盛り上げたいらしい。
錬金ギルドのエリート職員であるサビオさんは、
「では、アルマ君の名前で登録を…」
と提案してくれたのであるが、そんな事をされたら折角家が出来たのに領都へ長期出張や下手をしたら引っ越しまでありえる。
なのでその提案を僕は、
「いや、僕は出来上がった魔道具が有れば十分ですし、実際に回路はギルドマスターのショヘルさんやサビオさんにメラー先輩がメインで、機構はオッサ…いや、マドラさんのアイデアですから皆さんで…」
と、予定ではかなりの値段になりそうな二種類のルーターが、発案者という事でどうにか無料で手に入れば魔術回路が書き放題になり収入も安定するというのに、ややこしい会議に呼びつけられたく無い一心で、
「いや、見習い錬金術師が開発者に並んでいたら変ですし、説得力がなくなりますから、ここは上級錬金術師であるショヘルさんがメインで、メラー先輩が助手とかで、回路以外の開発責任者がマドラさんとかにして下さい。 あと全体の管理はサビオさんで、後の商品開発をモンテさんがすればバッチリですよ!」
とお願いした。
しかし、錬金ギルドマスターのショヘルさん的には、
「昨日、今日、それこそチョロっと関わっただけで新たな魔道具の発明者なんて名誉をもらっては…」
と謙遜されるのであるが、僕としては、
『マジで許して!』
という願いを込めて、
「焼け出されてこの町のスラムに流れて来た経験があるので、どうせならこの町やウチの集落…あと少し因縁のあるマーキオ村にもお金が落ちる様にしたいんです」
皆の顔を見回した後にショヘルさんに、
「それにはギルドマスターで上級錬金術師でもあるショヘルさんが先頭に立ってくれないと、領都の方に美味しい所を持って行かれたら悔しいじゃないですか…だからショヘルさん、お願いします!」
と情に訴えかけると、ショヘルさんは、
「うむ…アルマ君から託されたその役目、この老いぼれの命にかえても実現させると誓うぞ」
と、やる気になってくれたので無事に丸投げ出来た様であった。
マドラのオッサンも、
「よ~し、腕が鳴るぜ! これでメラーの嬢ちゃんが夢見てた上級錬金術師になれるんだよな」
とルーターの試作を一刻も早く開始したそうにしているので、サビオさんに僕は、
「ではサビオさん、もう暗くなっちゃいましたし本日は、そろそろ…」
とお腹も空いた事もあり【お開きにしますか?】と提案すると、サビオさんも
「そうですね、薄暗くなる前に終わる予定でしたがもうこんな…」
と、驚きながら本日の会議は一旦お開きとなり一週間後にまた集まる予定となった。
すると空気の読めないマドラのオッサンが、
「メラーの嬢ちゃんを家まで送ったら例の親父さんの店に一緒にどうだ?」
という誘いを、
「マドラさんは飲んでる暇はないんじゃないですか…試作品を作るんでしょ?!」
などと注意して、まだ何か盛り上がりそうな雰囲気の皆さんに僕は、
「では暗くなったのでお子様は先に帰りますね」
と可愛く挨拶をすると、サビオさんが慌てた様に、
「アルマ君、宿まで送ります!」
というのを、僕はマジックバッグから改良した魔石式のライトを取り出して、
「いえ、コレが有るから夜道も大丈夫ですよ」
とお見送りを拒否して、
「では、スラム地区で仲間が帰りを待ってますから」
と宿じゃないので、町の中央のギルド通りからかなり遠い事を匂わせながら、
『マジックバッグの中のパンしか食べる物がないな…この時間でも屋台通り経由で帰ればやっている食べ物屋台の1つぐらいはあるかな?』
などと晩メシの心配をしながら錬金ギルドの会議室から出ようとしたところ、
「ちょっと待ったアルマ君、ソレはナニ!?」
と商人ギルドのモンテさんに呼び止められてしまう。
頭の中は既に屋台を目指していた僕は、
「ソレって?」
と首を傾げつつ、モンテさんの指先の延長線を目で追うと僕の手元に続いており、
「あぁ、コレ!」
と理解した僕は、握っている魔石ライトのスイッチをカチっと入れて、
「僕の集落はファベルの町ほど明るくないから改造してみました」
と言ってから「では!」と今度こそ会議室から去ろうとしたのであるが、なぜか、サビオさんから、
「そうだ! ソレも有ったんだった…悪いがアルマ君、明日も昼過ぎに来て下さい」
と、急遽明日の予定まで決まってしまったのだった。
僕はその言葉に対して、
「明日もですね…了解しました。 では、また明日」
とだけ答えて、
『本当に晩ごはんがカチカチのパンだけになっちゃうから!』
と慌てて屋台通り経由でテントの有るスラム地区に帰ったのだが、実はそこからも長かった。
自分のテントで、帰り道に見つけた閉めかけ屋台で何とか購入出来た晩ご飯になりそうな酒のアテっぽい串焼きをマジックバッグから取り出して、
『これとパンを食べたらちょっと早いけど寝ちゃおうかな?』
などと晩ご飯を食べようとした瞬間にテントの入り口がバサリとめくられる。
するとそこにはミルクムギチャ三人娘の最年少メンバーであるリラちゃんが、
「あっ、アルマお兄ちゃんやっと帰って来た! 夕方までに用事がすんだら屋台に来るって言ってたのにっ!」
と大層ご立腹であり、その後ろでリラちゃんのママであるミルクムギチャ三人娘のリーダーのファナさんが、
「すみませんアルマさん。 ご用事だからアルマさんは来ないかもしれないと言ってあったんですが、リラがどうしてもアルマさんと晩ご飯が食べたいと…」
と申し訳なさそうに頭をさげ、その隣にはテントの入り口の画角では全体が把握出来ない立派なシルエットのミルクムギチャ三人娘のフィジカル担当のカリーナちゃんが、
「アルマちゃんが悪いんだよぉ、私たちが居るのにこんな端っこにテントなんて建てて…ウチで寝泊まりしたら良いのにっ! それに今日なんかリラちゃんがスープ作りのお手伝いして、アルマお兄ちゃんと食べるんだって張り切ってたのよっ! もう~、遅いから先に食べちゃったんだゾ」
とプンスカプンプンと膨れている口調の後にテントの外から立派な腕がヌン! と差し込まれたかと思うと、その手のひらの上には木製の器に入ったスープが乗っており、カリーナちゃんが少し恥ずかしそうに、
「リラちゃんも頑張ってお手伝いしたけどアタシもアルマちゃんの為にお手伝い頑張ったんだゾ」
とモジモジし始める。
しかし入り口から無理やり差し込まれた大男…いや、立派な乙女の二の腕がモジモジされる度にテントの入り口と共に僕のリサイクル品の仮の住まいをガサガサと揺らしている。
僕は取り出した串焼きをマッハでマジックバッグにねじ込むと、これ以上テントにダメージが入らないように、
「わぁ、有り難う! 会議が長引いちゃってお腹ペコペコなんだよ。 お話もしたいから一旦外に出るよ」
と、いって三人娘の待つ屋外へ脱出したのだった。
炊き出し用の竈のある集会所のベンチで三人が作ってくれていたスープをいただくと、そのスープには具材がゴロゴロ入っており、
『ミルクムギチャ屋台が順調なのかな? それとも僕の為に少し奮発してくれたのかな?』
と、どちらにしても三人の気持ちの詰まったスープは少し冷めていたが心がホカホカする何よりのご馳走だった。
それから僕は三人娘達から屋台の話や、最近のこのスラム地区の一番の話題である再開発の件を色々と聞いたのだが、リラちゃんに、
「私はアルマお兄ちゃんが助けてくれたから大丈夫だけど、お友達は…」
とスラムっ子仲間の今後の件で悲しい顔をさせてしまった事に、僕の中の前世のオッサンの部分が、
『大人なのに情けないな。 今は自信を持ってリラちゃんに大丈夫だって約束してあげられない…』
と悔しがっている。
三人…いや五人とか、う~ん無理したら十人までなら今の集落の我が家でも雑魚寝生活出来そうだが、
『ハンドルーターの魔道具の製作が開始されて、完成後に魔術回路を書けるようになれば食費が稼げそう』
という目処が立っただけで、実際に稼げている訳では無い、
『スキルが無いのはこの際我慢します。 でも神様…金銭的にだけでも前世の知識とかで上手い事なりませんかね?』
などという情けないお願いを夜空に飛ばしてみる僕だった。




