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前世の記憶が生えたとて、スキルなしには厳しいです  作者: ヒコしろう


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第33話 午後の錬金ギルドにて

不思議な事に僕が少し動く度に何かしらの問題にぶつかっている気がしなくもないが、まぁスラム地区の件は、


『土地はマルテスさんにお願いして、いっぱいエサを食べて細マッチョからゴリマッチョ状態に戻ったグランを借りたら切り株を引っこ抜いたりと楽々開拓も出来そうだし、お金さえ有ればそこら辺の岩と錬金石粘土で石垣も作れそうだし、これもお金次第だけど家だって何とかなるだろう』


という結論に至る。


しかし、


「やっぱり問題はお金なんだよなぁ~」


と、結局行き着く一番大きな問題にぶつかり、それをを解決するべく錬金ギルドへと向かったのが昨日の事である。


錬金ギルドの窓口で僕を見つけた顔馴染みの職員さんが、


「おっ、もう初級錬金術師の試験にチャレンジかい!?」


と言って、ニコニコで僕を担当してくれたのであるが、僕が、


「いや、魔道具の理屈は理解できて壊れた生活魔道具なら一通り直せたんですが、一から魔術回路を書くのに技術不足というよりパワー不足で上手く書けませんでして」


と相談すると、いつも試験を担当してくれているそのギルド職員さんは、


「そうか、アルマ君は男の子だからそのうち水晶板ガラスにしっかり書けるようになるよ」


と慰めてくれた後に、僕の使っているB級品マジックバッグの作者である女性錬金術師さんの話を聞かせてくれたのだった。


彼女もパワー不足で上手く細かい魔術回路の模様を刻めないらしく微妙に性能が落ちるB級品を連発してしまい。


『もしもまぐれで規定の性能の商品を作れて上級錬金術師に成れても、コレではやっていけないのでは…』


と弱気になっており、現在は、


「よし、体力作りからねっ!」


などと言って、彼女は生まれて初めて木剣を振って翌日から筋肉痛でコップも持ち上げられなくなったりと、完全に迷走しているらしい。


それを聞いた僕は、


「魔道具用のインクだけだとすぐに回路にトラブルが出て動かなくなるのであの鉄のペンで溝を書くのは絶対必要ですけど、結構力が必要ですもんね…」


と言いながら例のB級品のマジックバッグの中を漁って、自宅にて夢の魔道具のアイデアを書いた紙の束を取り出してカウンターに並べ、


「でね、こんな感じの物が作りたいんですけど、お知恵をお貸しいただけませんか?」


と切り出すと、目の前のギルド職員さんは、


「ん? なんだいコレは…」


と不思議そうな顔で僕のスケッチを幾つか手に取り眺めていたので、僕は、


「楽に水晶板に溝を彫る魔道具のアイディア図面です」


と説明すると、


「ふ~ん…」


と薄い反応の錬金ギルドの職員さんは数秒固まった後に、


「えぇ! 何だって!!」


と大声を出す。


声量にビックリさせられた、僕は、


『聞こえかなったの? も~仕方ないなぁ~』


と、今度は、


「ですから! コレは!!」


などと、ゆっくり、そしてハッキリした口調で説明しようとするのを、職員さんは、


「いや、耳が遠いから聞き逃したとかでは…まぁ、座り仕事ばかりで体が鈍って確かに衰えを感じる歳にはなりましたが…」


と、哀しそうに僕の大声を止めた後に、


「それより、本当にそんな魔道具が作れるのかい!?」


と本題に戻したのであった。


そこからは集落で僕がやった様々な魔道具の実験やら、マジックバッグに入れてきた改造魔道具である魔石式ライトを実際に見せながら、


「魔道具の杖から取り出した魔力取り出し回路ほどの回転数でなくても生活魔道具の魔力取り出し回路の流用で作れそうでしたが、あのくるくる回るあのコマみたいな装置を使っているうちに気持ち悪くなってしまって」


などと話す僕に職員さんは、


「普通の魔石式ランプの回路は書けないのに改良をしてしまったり、誰も思いつかないアイディアを思いつけるのに、見習い錬金術師なら誰でも知ってる魔力酔いを知らなかったりと…アルマ君はデタラメだなぁ~」


と少し呆れながらも、手にした図面を見ながら、


「あの実験装置は魔力の流れを視覚的に表す教材みたいな物で、魔力が噴出する力で回るから窓を開けて実験しないと魔力溜まりみたいに部屋に魔力が充満して気分が悪くなるんだよ」


と説明してくれた職員さんは完璧に僕の作りたい物のイメージが把握出来たらしく、


「しかし、よくこんな発想をどうやって思いついたんだい?」


と褒めているのか、引き続き呆れているのかよく分からない反応である。


しかし、


『どうやって…つて【前世の記憶ですねん!】とも言えないしなぁ』


と悩んだ結果、僕は、


「昨年何ヵ月かスラム地区で野宿生活でして(ここ本当)、その時に火でも起こそうと木の板に枝をコスコスとしましたが、火種は出来ずに板に…まぁ、そんなイメージですよ(はい、ここウソ)」


と本当の事を織りまぜて、適当なウソではぐらかしておいた。


しかし、僕のウソの思い出話を確実に聞き流している雰囲気の職員さんは、真剣な顔で僕のイメージ図面とにらめっこしていたかと思うと、


「アルマ君、この図面貸してくれるかな?」


と僕に聞き、僕が、


「どうぞ、どうぞ」


と言った瞬間に、彼は


「ちょっと席を外すね」


と言ってスッと立ち上がり、


「ギルマス! ちょっと宜しいですか!?」


と、風の様に錬金ギルドの奥へと行ってしまったのであった。


ポツンとカウンターに残された僕は、


『何だ?』


とは思ったが、考えても答えは見つかりそうにないので、


『まぁ、職員さんが帰ってくるまで半月後に集落に帰るまでに絶対買わないと駄目な錬金素材のおさらいでもするかな』


と、お風呂に使う錬金石粘土の数や、ちょっと試したい物があり後で騙し絵顔の大将さんに鍛冶仕事を依頼する件などを整理していると、錬金ギルドの職員さんが窓口に帰ってきたのだが、彼は僕に、


「アルマ君、明日の午後空いてるかな?」


と聞いてくる。


明日どころか半月ほどバカンス状態の僕は、


「大丈夫ですよ」


と答えてからの本日という流れである。


約束通りにお昼ご飯終わりに錬金ギルドへとやって来た僕は、いつものカウンターではなくて、奥の応接室のような場所へ案内されると、そこには知らない顔がズラリと並ぶ中に、一人だけ凄く見た事のある顔が並んでおり、


いつもの職員さんが僕の隣で、


「昨日お伝えした見習い錬金術師の少年…」


と、僕の事を紹介してくれているのを遮るように、


「おぉ、フンドシ戦士のアルマじゃねぇか!」


と、僕のよく知る飲み屋の常連チームにいた、名前は知らないが顔だけは何度か見た事のある僕の事を笑い話として楽しげに弄ってくれたオッサンが立ち上がり、ここに居る全員の僕への認識を、


【見習い錬金術師】


から


【フンドシ戦士】


へと書き換えてしまったのであった。


僕は、


『ふざけんな、あの店の常連ズのオッサン! これで皆にフンドシ戦士の意味を説明するイベントが強制スタートしただろうが!!』


と、ぶちギレたいのをグッと我慢しながら、


「見習い錬金術師のアルマです」


と頭を下げてみたが、正面に座るご年配の男性が、


「アルマ君じゃな、この老いぼれはこの町の錬金ギルドマスターをやらせてもらっているショヘルじゃ」


と自己紹介してくれたのであるが、やはりというか何というか、ギルマスのショヘルさんは、


「ではアルマ君、ここに居る全員の自己紹介やらに入る前に、皆も気になっていると思うから先に【フンドシ戦士】という異名について教えてはくれぬかな?」


と優しい口調で、非情な要求を僕にカマしてきたのである。


仕方なく僕は、したくもないフンドシ戦士の小話の後に部屋のメンバーの自己紹介となったのである。


『大笑いしていたのは常連ズのオッサン一人じゃねぇか!』


と、ややウケの空気の中でまず縦長のテーブルの奥に座るのは錬金ギルドマスターのショヘルさん。


そして右サイドに居るのが商人ギルドから来ているギルド職員のモンテさん。


向かって左サイドに座る2名は僕のマジックバッグの作者である中級錬金術師のメラー先輩と、その錬金術師の先輩のビジネスパートナーである木工と鍛冶職人の飲み屋の常連ズのモブA改め、マドラのオッサンである。


それと、いつも試験を担当してくれている職員さんはサビオさんという名前だったらしく、自身も中級錬金術師でもある彼はどうやら錬金ギルドの出世コースのエリート職員さんなのだそうで、筆記試験だけなら余裕で上級錬金術師試験もパス出来るが、如何せん手先が不器用で実技でつまづき、錬金術師としての師匠から、


「ギルドで己の知識で後輩をサポートする道もあるぞ」


と言われ錬金ギルドで働き出し、今は試験担当というエリートしか就けない役職にまで登り詰めた努力の人である。


そんなエリート職員さんが、昨日僕のアイディアを聞いて、


『これは実現出来る!』


と確信して昨日のうちに各所を巡って集めたのがこのメンバーである。


正直な話、会議のメンバーとして呼び出されてはいるが、僕のイメージなどは殆んどサビオさんが理解しているし、視力が落ちて魔道具作りから遠退いた上級錬金術師のギルマスであるショヘルさんに先輩錬金術師のメラーさんまで居るから回路的な事は放ったらかしておいても大丈夫だ。


それよりも僕は、今は手持ち無沙汰気味な商人ギルドのモンテさんの隣までワザワザ移動して、フンドシ戦士の話を蒸し返しているマドラのオッサンに、


「マドラさんは、職人として参加しなくて良いの?」


と、錬金術師チームをチョイチョイと指をさして、


『もうその話題を出すのはヤメろ!』


という気持ちで元の席への移動を促すが、マドラのオッサンは、


「あぁ、大丈夫だ。 錬金術師ってのは発明家でもあるからよぉ、その錬金術師が作れるって判断した設計図なら作れて当たり前…というか作れない奴は職人失格だわなぁ!」


と言ってガハハっと豪快に笑っているのである。


だがこの瞬間、不覚にも僕の脳内会議の乙女担当が、


『やだ、男らしい…』


とトゥンクしたのは秘密にして墓場まで持っていく事にした。


それから暫くは、僕の作りたい物のイメージを共有している錬金術師チームからの追加質問に答えながら、


「特許の出願と聞いて来ましたが…」


と、まだ会議の内容が把握出来立ていない商人ギルドのモンテさんと、錬金術師チームを信頼しきって、実にのんびり構えているマドラのオッサンを相手に、僕は自分のマジックバッグから紙とペンを取り出してサラサラッと、


「こんな感じの物で、硬い金属や、硬い鉱物の粉を使った小さなヤスリみたいなものを回転させて回路の下地を書こうという…」


などとペンを走らせて挿し絵つきで説明を始めると、ようやくモンテさんもマドラのオッサンもピンときたようで、モンテさんは、


「それって水晶の板に模様が書けるって事は、同じく魔水晶を錬金ギルドに加工してもらった水晶ガラス製品にも絵が描けると!?」


と騒いでいるのだが、僕としては、


「勿論描けますよ。 描く人の絵心や技術に左右されますけどね…それより水晶ガラスって錬金ギルドで加工してるの?」


と知らない事実に驚いたりしてた。


すると錬金術師チームのサビオさんがテーブルのあちら側から、


「はい、その話なら後日させて頂きますので…それよりも今は、我々ではどうしてもアルマ君のこのイメージ図のように小型に出来なくて行き詰まっていまして…大型のものならばすぐにでも製作に取り掛かれますが」


と少し疲れた顔で答えてくれたので、僕は、


「実は大きな物も作って欲しくて、木工の穴あけとか、こんな感じの形のノミの刃を回転させたらテーブルの角とかの仕上げに使えますからね」


と前世で我が家の電動工具棚に並んでいた木工ルーターのビットを思いだしながら簡単な絵を紙書いて説明をしてから、


『小型化ねぇ…正直なところ魔道具の内部構造の事は…』


と、僕も今一番の議題である小型化する為の案を考えようとするがそんな知識なんてどの知識の引き出しを開けても出てはこない。


だけど考えが行き詰まる僕の隣で僕の手元の絵を覗き込んでいたマドラのオッサンが、


「そうか! 足踏みろくろの反対だ。 凄いぞアルマ、材料じゃなくてノミを回すんだな!!」


とようやく自分がイメージしやすい話題が出てピンときたらしく興奮しているのを僕は、


「マドラさん、今は小型化の知恵をですねぇ…」


と、マドラのオッサンを一旦落ち着けようとしたのだが、オッサンは興奮したまま、


「そんなのメラーの嬢ちゃんが昔作ってた水を作る魔道具みたいに魔石や回路を入れる本体と実際に水が出る蓋みたいにして、クルクルまわすヤスリ部分と本体を別にすりゃ良いだろ? なぁ、それよりアルマその回るノミってので尻みたいにプリっとした角っこを…」


と話しているのだが、会議の席でこの瞬間に固まって居ないのが自分だけと気がついたマドラのオッサンは、急に喋るのを止めて辺りを見回し、


「どうした? 皆…ポカンとして」


と驚いていた。


という事で大変不本意ではあるが、マドラのオッサンのナイスなアイデアにより、この瞬間この世界にロボットアームっぽい間接部分を複数持つ据え置き式のミニルーターと、ついでに木工ルーターが誕生する事が決定したのであった。

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