第31話 困ったな
集落に帰って来て約2ヶ月の月日が経過した。
そんな僕は、自分の才能が…こわい。
魔道具の回路の図柄の意味は今も全く分からないが、前世の知識から、どの魔術回路がだいたいどんな役割かが理解出来て、
『この壊れた生活魔道具のランプは電源を入れてもウンともスンとも言わないから、魔力の取り出し回路か、このオンオフスイッチ専用の回路が怪しいな』
などと修理の腕が急上昇し、回路の不良で捨てられた魔道具なら切れている回路の模様を正しく魔道具用のインクで繋げるだけで一発で直せる自信がある。
なので、新品程では無いがちゃんと使えるクオリティーまで魔道具が直せる為に我が家は、キッチンで薪に火をつけるのも直した着火の魔道具だし、森などに出掛けた時の水分補給も水生成が出来る水筒の魔道具があり、
それに井戸の横にスラムの炊き出し用の竈と同じ手法で作った簡易のお風呂用の竈の火を強くするには風が出せる魔道具も直ったので、竹筒をフーフーして立ち眩みする事も無い。
ただ問題なのが、魔水晶から作られた板ガラスに回路を書く為の金属の鉛筆がやっと10歳になる僕では握力や筆圧の関係から上手に魔道具用のインクの乗りを良くする溝が滑らかに書けないのである。
練習していた魔力取り出し回路は結構簡単な図形だったから疲れる前に仕上がったけど、肝心なメインの回路は溝を書ききるのに何日も掛かるから、最後の方で書き損じたり、ガラス板に溝をつける作業の為にミスをして衝撃を与えて割ってしまった時の精神的ダメージが多すぎる。
ズルをしていきなりガラス板にインクで回路を書いても動く事は動くが、衝撃などでインクが剥離するために、いざという時に動かない粗悪品しか作れないのだけが今の悩みである。
「はぁ~、プラモとかで使うミニルーターとか有ったらガラスに模様も楽々書けるのになぁ」
と、タメ息まじりで無い物ねだりをしてみる。
そんな具合で僕は自分用の魔道具修理だけは順調だが、肝心なお金に繋がる魔道具作りの方は完全に頭打ち状態なのである。
ただ自作の魔道具の回路が上手く書けないからと言って魔道具いじりを諦めた訳では無く、むしろ鍛冶技術が無くても金属が扱えるという錬金鉄粘土という夢の異世界商品がある為に、鍛冶屋クオリティーには程遠いが、改造パーツも粘土細工感覚で作くれてしまう。
僕の自信作は自宅の灯りとしては丁度良い魔石式ランプであるが、月もない夜の集落を歩くには光量が足りずに地味に怖いからと頭をひねったのが…
という所で僕の頭の中では勝手に、
「社長、暗いぃぃ、こわぁ~~い!」
と愛人風の女性が悶え、その隣に立つ夢のあるグループの社長さんが、
「そんな時には、新開発の、魔石式ライトが、大変便利ですぅ」
と始めている。
脳内の社長さんさんが、僕が反射板を錬金鉄粘土で作って魔石式ランプを改造した魔石式ライトを、
「ボタン一つの簡単操作で、前方をしっかりと、照らせますぅ」
などとやっているが、改造品はあくまでも自分専用であり、回路を自作出来ないと錬金ギルドで買い取って貰えない為に愛人風の女性の山場となる仕上げの悶えを待たずして、僕は、
『でも、お金には直結しないからなぁ』
と現実に引き戻されてしまう。
ただ、見習いランクの創薬の方は問題なく進んでおり、これから暑くなる時期に合わせて虫除けの香は役場や大工さんチームが定期購入してくれるらしい、
『こっちの世界では虫も魔物の仲間だから、まぁ~デカくてキモいから虫除けの香は必需品だね』
という事で虫除けの香だけは作っただけ売れそうで安堵している。
そして昨年の秋に片付けに来た時には気がつかなかったが、春になりオルス君のママのシャルムおばさんの薬草園だった辺りに行けば自然に落ちた種から発芽したと思われる虫除けの香に使う香草などの苗が手に入ったので、我が家の中庭の一角に小さな薬草園を作って移植してあり、森の中でも自然に生えた物があるとは思うが、虫除けの香の素材だけはいつでも使えるストックも確保できている。
しかし、創薬の方は次の初級のステップに行くには急に難しくなり、やはり軟膏作りとは違って低級とはいえポーションは行程も多く、製造に必要な下準備の薬品の段階でつまづいてしまっている状態だったりする。
『作り方は何とか理解出来ても必要な素材が町みたいに揃わないし、自分で見つけるのも大変だし、薬草園で栽培したとしても育つまでポーション作りは当面無理かな?』
と、折角頑張って試験に合格した見習い錬金術師であるが、今のところお金に直結しそうにない。
錬金ギルドで奮発して購入した2つの魔石式ランプの魔合金製の組み立てキットも回路用の部品を残して我が家の照明として本体がひしゃげて捨てられていた魔石式ランプの回路を移植してしまったので、
『予定では、1個銀貨4枚のランプキットを買って、錬金ギルドで販売手数料分は引かれても銀貨9枚ちょっとになれば、またキットを購入して…という文字通りの錬金術になる予定だったのに』
と、早速の計画破綻に途方にくれそうになる。
まぁ、食費だけは朝夕の役場の仕事のお手伝いで賄えそうなので飢え死にはなさそうだが、既に錬金ギルドで購入した錬金鉄粘土も底をついており、魔物にへし折られたのか回路を含めて本体までボロボロの魔道具の杖は一部の回路を残して修復するパーツ素材も知識も無く、
『中級の魔道具レシピが手に入れば修復ができて、晴れて魔法が放てるというのに!』
と、お預けを食らっている状態である。
『さて、どうする? 金貨1枚と少しぐらいは現金が残っているが、ここで選択を間違えるとまた今年の年末年始にファベルの町に出稼ぎに行ってスラム地区を拠点に角ウサギ狩りに明け暮れるしかお金が稼げないかも知れないぞ!』
と今ごろは魔石式ランプでのお金の錬金と魔道具系の初級錬金術師の勉強をして、ファベルの町にランプの買い取りをお願いしに行った時にチャチャっと試験をパスして、1本金貨五枚で売れる魔道具の杖を作り始める計画だったのが、今は僕を中心に取らぬタヌキ達が円を作り、にこやかにマイムマイムを踊って僕を煽り散らかしている気がする。
『回路の板ガラスに割れ目が入るほど力任せで溝を書いたりしたらダメだし、魔道具用のインクを乗せて補強するから衝撃で割れないだけで、溝を付けっぱなしで何日も作業したら何かの拍子でペンと割れるし、インクはできるだけ一発で書いて乾かさないと魔力の流れが悪くなるし…これは本当にミニルーターが必要だな』
と考えて、
『電力よりパワーが有りそうな魔力があるんだから、モーター1個分の出力が有れば、水晶より固い鉱石どころか地球では物語でしか出てこないファンタジー金属だって有るんだからこんな板に模様を刻むぐらい出来るはずだろ!?』
と固い金属を回転させて表面を削る道具がどうにかして作れないかと頭を捻ると、魔道具の練習で作った回路が機能しているかテストするクルクル回る三度笠みたいな器具を思い出し、
『魔力をそのまま噴射するだけでもあれだけクルクル回ったし、もしかしたら回転を生み出す正式な回路があればだけど、無理やり魔道具の杖用の高出力の魔力取り出し回路を使えば回転数は上げられた…なんか軽い吐き気がしてすぐ止めたけど…』
と、なんかミニルーター魔道具が出来そうな気もするが、手応え的な物が掴めない気持ち悪い感覚に、
「よし、ダメ元で一回ファベルの町に行って錬金ギルドに相談してみようか!」
と誰も居ない自宅の裏の工房にて呟いた後に、僕は便利な魔道具ではなく今は持ち家の為に、誰に気兼ねする事なく中庭の井戸の所にて室内や町中では絶対に使えなかった炎の魔方陣を使って種火を生み出し竈の薪に火をつけると、次は風の魔方陣で魔力を調整しながら竈に風を送りお湯を沸かし、大きめのタライにお湯を移して井戸水で温度調節すると、
「たはぁ~、昼前に体を拭くぐらいじゃ綺麗になった気がしなくなっちゃったよ」
と半身浴程度の水位であるが本日も入浴で疲れを吹き飛ばしていたのであった。
すると我が家の玄関先の方から、
「アルマ君」
と声がしたかと思い振り返ると、目の前に騎士団の方が一人立っており、
「アルマ君夜分にスマン、森狼が石垣を越えて中に入って来たらしく、羊魔物が…」
と、緊急事態の報告をしていたと思えば、
「えっ、アルマ君のところお風呂入れるの?」
と聞いてくる。
僕としては、
「えっ、森狼が集落の中に居るんですか?!」
と慌てて居るのを騎士団の男性は、
「いや、入って来た2匹は既に倒したからそっちは大丈夫だ。 足を噛まれた羊魔物のケガの手当てに傷軟膏をわけて貰いたくて…」
と話を戻してくれたかと思ったが、結局、
「アルマ君の次に使わせてもらったらダメかな…それ」
と、彼は簡易のお風呂に夢中なご様子であった。
入浴中の僕は、
「別に構いませんが、浅いですよ…あと、恥ずかしいのでマジマジと見ないで頂けると…」
とお願いをすると、彼は、
「すまない、こんな良いものを見せられて、ついつい興奮してしまった!」
と、頭を下げているところに玄関の方からもう一人の騎士団員の方が、
「やっぱり魔石ランプの明かりだったか、ならそっちにアルマ君が居たんだな」
などと言いながら畑の方から中庭に回ってきてみると、目の前には裸の僕と、
「ついつい興奮してしまった!」
と頭を下げる同僚という構図に、後から来た騎士団の男性が僕の目の前で頭を下げている男性の腕を極めながら取り押さえたかと思うと、
「カパル、いくら狙っていたクラーロさんを他の奴にかっ攫われたとしても、それだけはヤっちゃならねぇぜ!」
と涙ながらに訴え、地面に押さえつけられているカルパさんと呼ばれた騎士団の男性は、
「何だよ急に!」
と騒いでいるが、スッポンポンで半身浴中の僕としては、
『他所でやってくれます?』
と思いながら、困り顔でそっと手拭いで股間を隠して湯船から上がるタイミングを探しているのであった。




