第30話 ただいま
どうやらお隣のマーキオ村はかなり過疎過疎な村になっているらしく、集落に戻る際にウチの集落の副村長的なポジションのマルテスさん達がファベルの町からマーキオ村に臨職員として派遣されている方々に書類などを届ける為にチョロっと寄ったのだが、春だというのに畑を耕す村人もまばらで活気が無かった。
『罰金刑で家財を根こそぎ持って行かれたし、元は村長派閥で威張ってた連中としては報復も怖くて村を出たのも理解出来るが、芋蔓式に呪いを理由に村人が逃げ出すなんて想像して無かったよ』
と、村ごと呪う宣言を勢いでしてしまった自分の行いを振り返った僕は、
『集落の皆の代表としてやった事は後悔はしないけど、今後は滅多な事は口にしないでおこう』
と反省はしたのだった。
さて、数ヶ月ぶりに集落に戻った僕の一番最初の仕事は、皆の眠る墓地に向かい「ただいま」を言ってから、荷馬車に積んだ引っ越し荷物を新築の我が家に搬入する事からだ。
住んでいた時はもちろん、片付け終わった時の集落からもかなり変わっている様にも見えるが、あちらこちらに思い出の残るこの地に戻ってこれた事だけで僕としては感謝というのに近いようで違う何とも言えない気持ちになっている。
僕の家を建ててくれた親方さんから家の説明を受けていると、弟子の方々が、
「この荷物はこの辺に置いときます」
と荷物の搬入まで手伝ってくれ、そんなに多くない僕の荷物は、あっという間に新居に収まってしまった。
僕が、
「荷物運びまで手伝ってもらってすみません」
と頭を下げると、大工の皆さんは、
「大きな商会の会長さんからたんまり費用をいただいた上に、家主の旦那からは労いのお酒まで…これぐらいさせてください」
と、どうやら年始にお願いして届けてもらったお酒が効いたらしく、親方さんからも、
「もしも、使い勝手が悪かったりしたら、ワシらはファベル準男爵様からの注文で息子さんの家を建てているから言ってくれたら直ぐに直します」
と言ってもらえているのでアフターサービスまでバッチリな良い大工さんに当たった様で安心である。
ただ僕があれだけ、
「普通の家で良いです」
と伝えた筈であるが、大工さん達がかなり頑張ってくれたらしく、見た目こそ普通であるが、食料貯蔵庫となる地下室があり、玄関部分には店舗に使える広いスペースのある二階建ての居住スペースに中庭には井戸と干場を挟んで奥に工房として使える別棟という、
『これ…僕一人で管理出来るかな? 掃除も大変そうだよ』
と心配になる広さであった。
まぁ、僕たち家族3人で住んでいた敷地に、親方さん達が、
『燃えた家がこれぐらいだったから、同じぐらいにしておくか!?』
と焼け落ちた前の家の片付けも手伝ってくれたからこそのサイズ感だと思う。
それなりに引っ越し荷物の荷解きと配置が完了した翌日、僕はファベルの町から買ってきた鍬などの農具を担いで集落の墓地へと来ている。
それは流石に殺風景になった集落に初めて出来たお墓に花のひとつでも飾れるようにと購入してきた花の種を墓場の隅に蒔いたり、どんな花になるかも知らない球根を軽く耕した土に埋めるためだ。
まぁ、自給自足用の野菜の種を買ったついでに、
「あまり手をかけなくても育つ花の種ってないですか?」
と、お店の方に聞いた時に、
「時期的にもこれと、これなんか宜しいかと…こちらの商品はいくつかの花の種を混ぜた物でして、時期をずらして色々な花が咲きますので中庭などの花壇や植木の足元を飾るのにオススメです」
などと言われた商品を一通り少しずつ購入した物である。
前世の記憶が生えたとはいえ、僕のオッサン脳ではこんな洒落た事は思いつけず、実はお花の種を蒔くアイデアはミルクムギチャの屋台をお任せした3人娘チームからであり、特に乙女なハート全開の本名カルロなカリーナちゃんから、
「お母さんが好きな花とか知らないの? ダメよ身近な女性の花の好みぐらい知っておかなきゃモテないわっ!」
とお叱りを受けてしまったからだ。
しかし、僕の記憶でお母さんが喜んでいたのは花では無くて裏庭に有ったティエナというイチジクに似た果物だった為に好みの花が有ったのかすら今はもう聞けない。
そして、残念ながらそのお母さんのティエナの木は片付けに来た時には火事の熱でか、はたまた半年手入れをしなかったからか、見事に枯れており、
『探したけどティエナの苗木は売って無かったからゴメンよ』
と、種蒔きが終わった後にお母さんのお墓に謝罪して、
『暫くは皆と蒔いた花の種の成長を楽しんで』
とお願いしておいたのだった。
現在この集落にある改修された仮の役場には大工さんチームとファベルのお屋敷から派遣されているマルテスさんと部下の方が入れ替わりで2名ほどと、彼らの身の回りのお世話係として料理人さんとメイドさんが住んでいる。
そして騎士団からもマルテスさんの護衛として2名の騎士が派遣されているのだが、もっぱらその2名の騎士団員さんは、今は集落の所有となっている牧場を経営していたランサおじさんとマルジュおばさんが命懸けで逃がした馬魔物のグランや数頭の牛魔物や羊魔物の世話と、この集落に派遣された皆の為に軽く近所の森で狩りをしたり、
「体力づくりのためですから!」
と木を切り倒したり、炭焼き職人でもあったキゴニスおじさんが切って乾かしていた木を割って薪を作ったりとかなり自由に過ごされている。
なので、集落に帰ったら僕一人でポツンと生活するイメージだったが、日々それなりに賑やかに過ごせている。
朝は集落の厩舎のお手伝いの後で、足バサミの罠で森ネズミあたりを狙った狩りをしながら集落近くで薬草を摘み、昼前には家に戻り、獲物が有れば解体の後に井戸で汗を流してから洗濯や自分用の畑の水やりをする。
そして昼過ぎから夕方までは鍛冶屋だったルーチェちゃんの家を改造した臨時の村役場にて料理人として派遣されているターバルさんの元でパン焼きのお手伝いや野菜の皮剥き等をして、屋台中心で前世以来サボりにサボっていた料理の感覚と、こちらの世界のレシピを体に叩き込む生活である。
朝の牧場仕事と昼過ぎから夕方までの役場での料理や掃除などのお手伝い業務でお代官様からお駄賃が発生し、派遣されている職員さんの交代に合わせて、貯まったお駄賃の範囲内で食料などを買ってきてくれるサービスまで受けられるという特典付きである。
ただ、錬金ギルドの錬金術師向けの商品などは見習いとはいえ錬金術師である僕が直接行かないと材料を買う事が出来ないので、どうしても材料が必要な場合はマルテスさんにお休みの報告をしてファベルの町へ行くしか無いのだけが不便であるが、それ以外ならば半月に一度の派遣メンバーの交代に合わせてファベルの町から通信販売が出来るのだ。
これは田舎暮らしの僕には、
『ありがとうごぜぇやす。 お代官様!』
とファベルの町の方向に手を合わせたくなる程のナイスなサービスであり、なんと送料と手数料もジャパネッ…いや、お代官様のところが負担してくれるのだ。
となれば、僕は集落にて朝の厩舎のお手伝いと、昼から数時間の役場の下働き以外は自分の工房で魔道具や創薬の練習にあてられ、自分で摘んだ薬草で傷軟膏や虫除けの香を安定して作れるようになったのは治癒院もないこの集落では大きな進歩である。
なによりイースお兄ちゃんのところのスラムっ子たちが集めてくれた壊れた魔道具をバラした中の魔術回路をお手本に、見習い錬金術師用の魔道具練習キットを使って魔術回路を実際に書いてみたりしているのだが、これが実に面白いのである。
いきなり魔道具のランプなどは作れないし、修理をするにしても基本の知識や技術が必要になるので、今、僕がやっているのは前世の知識だと電子工作の魔法版とでもいう感じのものだ。
魔物から手に入る魔石を乾電池だとすると、魔道具の基本はこの乾電池から電力ならぬ魔力を一定量取り出す回路を作る所からで、錬金ギルドにて売っている魔水晶を加工して作った手のひらサイズの水晶板ガラスにアダマンタイトという希少な固い金属をペン先にした金属ペンでカリカリと魔術回路の下書きを行い、魔術回路用のインクでその下書きされた溝を埋めるように清書して回路を仕上げる。
これはまるで電子回路に抵抗などの端子をはんだ付けする感覚に似ている。
そして魔道具であれば魔力を取り出す回路と同じような手順で魔術にも使う魔方陣の回路版である複雑な模様の水晶板ガラスを仕上げると、魔力を流せばカチカチになる錬金鉄粘土を使って魔力を取り出す回路と効果を生み出すその回路を固定して、回路と回路を魔道具用のインクで指定の場所の模様を繋げれば一番の肝である魔術回路の完成である。
しかし、魔方陣の回路版である魔術回路はとても複雑でいきなり作るのは難しそうなので、見習い錬金術師の為の簡単な、
『基本の魔力取り出し回路が作れたかな?』
という感じのテスト器具がある。
それは錬金鉄粘土で作った三角コーンみたいな土台に同じく錬金鉄粘土で作った三度笠のような別のパーツを作り、魔道具用のインクで魔力の流れる道筋を描けば魔石から取り出された魔力が三角コーン部分から上に乗せられた笠パーツに流れ、笠に緩やかなカーブの放射状に描かれた魔道具用のインクに沿って流れた魔力がインクのラインの端から放たれて笠部分がクルクルと回る。
そんな魔道具の練習も前世では昭和生まれだったオッサンの魂には学研のおばちゃんのCMソングが頭に自動的に流れてしまうような楽しい実験セットにしか感じられないのだった。
となると無駄に大人な知識もある子供のアルマ君としては、
『一番小さい魔力取り出し回路でこの回転でしょ? これを2個とか3個にしたら回るの速くなるかな?』
とか、
『壊れた魔道具の杖が1つ有ったけど、あの杖の魔力取り出し回路の模様は複雑だったからアレが噂の中級錬金術師用の高出力の回路かな…繋げてみちゃう!?』
などとワクワクしてしまう。
「やだ…嘘…男心が暴走しちゃう」
と呟きながら壊れた3つの魔石式ランプからパーツを寄せ集めて直したお手製ランプの灯りの下で僕は、今日も楽しく夜更かしをするのであった。




