第26話 明日も狩り
現在、精神的にクタクタに疲れた僕は、宿の部屋の中で、
「もう知らない…」
と呟いている。
リッターさんがアディンさんの事を、
「言動でトラブルを起こすヤツ」
と言っていたのが良くわかった。
今日、あの食堂にて僕があれだけアシストにアシストを重ねたにも関わらずアディンさんは何一つチャンスをモノに出来なかったのだ。
ただ素直に、
「クラーロさんの笑顔を見るためにここに通っています」
ぐらいのアピールでも彼女に決めていればアディンさんに勝利の女神が微笑んでくれて、コッホさんに心を折られてなお彼女の事を思っている恋のライバル達を一気にゴボウ抜きに出来た世界線が有ったというのに、こっちが必死のパッチでアシストしても、アディンさんは、
「この店に通うのは俺の故郷の味に似ていて胃袋を掴まれたっていうか、ずっとこの味をあじわいたいというか…」
と、パッと聞いた分には遠回しな告白にも聞こえるが、よくよく考えて欲しいのは、料理担当はどう考えてもコッホお兄ちゃんなのである。
流石にアディンさん本人も、
『あっ、違って…』
と、気が付いた雰囲気であったが、焦ったアディンさんは自らドツボの深みへとハマって行き、コッホさんの料理ばかり褒め称え、最終的にはなぜかアディンさんはコッホさんのハートを射止めたらしく、
「姉ちゃん目当ての客かと思ってたけど、アディンさん…アンタは本当に俺の味を認めてくれてたんだな」
などと、お袋さんの味を目指して努力していたコッホさんにはアディンの言葉が響きに響きまくったらしく、涙を流しながらアディンさんにすがり付き喜ぶコッホお兄ちゃんをクラーロお姉ちゃんと眺めるという地獄の時間を過ごす事になったのだった。
もう、迷走してコッホお兄ちゃんの料理を褒め称え続けているアディンさんに、
『もう、お前は黙っとけ』
と思いながら、どこかの中身は大人な先輩みたいに腕時計型の麻酔針発射装置を持っていない自分を悔やんだが、途中から、
『この道を行けばどうなるものか…』
と少し面白くなってきてしまい、アディンさんがドツボにダイブする姿を見守ろうとする自分が芽生えて、そして最終的には、必死にアシストしても何一つ上手く出来ないアディンさんにイライラするのも馬鹿らしくなり、
『うん、僕の方が黙る事にして、もう最後まで静かに見届けよう!』
と諦めた結果、アディンさんの事を大好きになったコッホさんの誕生に立ち会うという残念な結末を最前列の特別シートで見る結果になったのだった。
まぁ、今日まではクラーロお姉ちゃんを狙う嫌な客としてコッホさんに認識されていたが、弟のハートを射止めた事により、クラーロお姉ちゃんをめぐる恋のレースにおいて弟の理解者として一歩リード出来たと考えれば僕の頑張りも報われるのであるが…コッホさんが雨の日にアディンさんに拾われた子犬みたいにアディンさんに尻尾ブンブンのゾッコンLOVE状態になっているので、
『こんな面白いの、早く誰かに報告したい!』
と騒ぐ自分に、大人な自分が、
『もう少しソッとしておいてあげな…アディンさんの事だから放置しておけばもっと面白い事になるだろうからね』
と、笑い話としてまだ摘み取るのは早いと囁くので、その意見を採用しアディンさんの件はネタとして良い味が染み込むまで遠くから見守る事にしたのであった。
さて、そうなると僕のヤルことは、金を稼いで欲しいものを揃えて、その後は集落に帰っても暮らしていける方法を見つけるだけである。
国が動いてくれているが、他国に売られたであろうオルス君とルーチェちゃんの手がかり掴めていないのが悔やまれるがこればかりはもうどうしようもない。
となると、僕に出来る事は二人がいつ帰って来ても暮らせる場所と、もしもの場合は奴隷として二人を買ったヤツの横っ面を札束で…って硬貨だけの世界だから金貨の詰まった金袋でぶっ叩いて黙らすぐらいは稼ぎたい、
『あれ? 普通に金が詰まった皮袋で横っ面を殴られたら死んでしまうな…』
などと、しょうもない事を考えているが、自分の生活さえ儘ならない現状でお話にならないのである。
B級品のマジックバッグを買うと決めたので、市場で新たに購入した罠や獲物を運ぶ為のまだ新品同様の麻袋に目をやりながら、
『今日はアディンさんとの約束があったから昨日わざと罠を仕掛けずに帰ってきたし、明日は朝に罠を仕掛けるだけになるから角ウサギは狩れないし、何か凄く損した気がするよぉ』
と、罠にかかったままの獲物を丸1日以上放置すれば肉食魔物に罠ごと噛られて大損する為に前日に罠を仕掛けて翌日チェックした後に再度他の位置にセットするというローテーションを崩してまで今日のイベントに参加する価値があったのかというと微妙であるが、
『まぁ、リッターさんと話せたのは楽しかったから良いか』
と、特に実りの無かった今日に無理やり意味を持たせた僕は、明日の朝にまた草原エリアで角ウサギを狩る為に今日は精神的に疲れたのもあり日課の魔術の練習をせずに眠る事にしたのだった。
それからも狩りの日々は続き、早いもので今回の僕の人生において、
『一生に一度たりともあってたまるか!』
ぐらいの普通の子供にはメンタル的にかなりハードな事だらけの一年が終り、新しい年が始まった。
こんな寒い中でも集落では大工さん達が頑張って僕の家を建ててくれているそうで、たまにお代官さまのお屋敷から、お使いで文官の方が冒険者ギルド宿の僕を訪ねて来て、
「大工の親方さんが、井戸掘り名人が集落の整備に来てくれているからアルマ殿の住まいにもどうかと定期便での連絡がありまして」
と我が家の簡単な完成予想図を広げてウチの庭に作る井戸の位置の希望を聞きにきたりした時に進捗状況を教えてくれるのだが、どうやら親方さん達がかなり気合いを入れて仕事をしてくれているそうで、春を待たずに完成してしまいそうな勢いらしく、
「新居が無料で建てて貰えるだけで感謝なのに、オマケだからと井戸までついて、更に完成時期まで前倒しで完成するなんて!?」
と驚く僕の頭には夢のあるグループの社長さんが出てきて、
『今回だけの、大サービスですぅ~』
と微笑むと、その隣では変わらず愛人風の女性が、
『凄い、すっごぉ~い!』
と悶えているが、今回は僕も社長さんのとなりで悶えたい気分である。
そして、お屋敷から来た文官さんは、
「集落に村長候補で就任する予定の同僚が言うには、大工の親方達が理不尽にご両親や住む家まで無くなったアルマさんが1日でも早く安心して眠れる家を建てないと、集落に眠っている皆さんも心配だろうからと、それはそれは頑張っておられるそうで…」
と教えてくれたので、僕はB級品のマジックバッグも購入出来た事で気分的にも、お財布的にも使えるお金の余裕が出来たので、その文官さんに、
「お手数をおかけして申し訳ないのですが、こんな寒い中で働いてくれている親方さんや大工の皆さんに、これで体が暖まるお酒でも届けて頂けませんか?」
と銀貨3枚を差し出すと、文官さんは、
「それは構いませんが…」
と言った後に、
「アルマ殿は…その…本当に9歳なのでしょうか?」
と、僕の行動に驚いている様子であったので、僕は、
『いや、そりゃあ中身にオッサンを飼ってますからね!』
と、思いながらもそんな事をワザワザ言っても困惑するだけと理解しているので、
「冒険者仕事や見習い商人としても屋台でお客様と接してますからね…ここ何ヵ月かでかなりの人生経験をさせていただいましたから」
と、それっぽい事を言って誤魔化しておいた。
しかし、今までならば銀貨3枚など僕にしたら引く程の大金であるが、B級品のマジックバッグを手に入れ、足バサミの罠も8個を運用出来るようになった為に、前は全ての罠に獲物が掛かっても1日最高3匹だった角ウサギの収入が、今では最低でも4匹か5匹狩れるようになり、獲物の運搬も重さを気にしなくて良くなったので、
『今日は雪も降ってないからちょっと遠出してまだ僕が角ウサギ狩りに行った事がないエリアで罠を仕掛けちゃおうかな?』
などと近場はかなり自分も含めてライバル達と荒らしまくった為に住人が狩り尽くされた空き家の巣穴が多くなり、罠を仕掛けるのも大変になっていたところ、狩り場の幅が広がった事により安定して前より稼げているのである。
『天気さえ良ければ1日で銀貨4枚程度は余裕って…日給4万だよ!?』
と、前世のオッサンがハンカチを噛んで悔しがるような金額をこの9歳の体で稼いでいるのである。
まぁ、シーズン的なものも大きいとは思うが、
『冒険者…夢がある商売だよ。 本当に凄い、すっごぉ~い!』
などと、薬草摘みをしていた頃には絶対に感じる事の無かった冒険者に対しての感想に自分が一番驚いている。
しかし、冒険者ギルドの職員さんの話では、来月頃には角ウサギの冬毛の質が厳しい冬を耐え抜いた結果から、あからさまに悪くなり毛皮の買い取り額が元に戻ってしまうらしく、秋に蓄えた脂肪を使いきり肉も痩せて固くなってしまう為に買い取り額が目に見えて減ってしまって角ウサギ狩りのシーズンは終りを迎えるらしい。
ならばシーズン目一杯、稼げるだけ稼ぐだけである。
『春には住めるらしい新築の我が家には何も無いから日用雑貨も買わないと駄目なんだ! 明日も朝から草原エリアの奥まで行って狩りまくるっきゃない。 寒いなんて言ってられないぞぉ!!』
と自分を奮い立たせる僕であった。




