第23話 年の瀬のこと
騙し絵顔の大将に直して貰った足バサミの罠は絶好調で、ここ一週間で15匹ほどの獲物を僕にもたらしてくれ、お財布の中身もかなりホクホクで年越しができそうである。
なので年明けからはあの騙し絵顔の大将が複製してくれた追加の罠も購入して8個の罠を運用して稼ぐ計画で、それに伴いミルクムギチャの屋台は今年いっぱいで終了させる予定でいる。
なぜなら、
『だって、角ウサギ一匹でミルクムギチャの屋台の一日の売り上げを越えちゃうんだもん!』
というのが本音で、真冬のミルクムギチャの屋台のコップ洗いなどの水仕事が辛くなって来たのがダメ押しとなり屋台の終了を決めたのだ。
ベン坊やの文字と数のお勉強が一段落しており、お姉さんのパンの屋台で呼び込みではなく売り子としてもお手伝い出来るまでになり、今後はウチのマスコット兼アルバイトをしなくてもお姉さんの助っ人として役立てるはずである。
さて、時期的な追い風で角ウサギ狩りが旨味が有りかなり稼げているので、狩りの時の防寒着や着替えなど日用品も充実して来たのだが、今でも無理すれば買える金貨1枚というお値段の魔石式ランプはまだ購入していない。
それは何故かというと、人間稼げるとなると欲が出るもので、マイバックとして使用していた麻袋も罠のカドや角ウサギの角でのダメージで破れが目立ち、革職人と鍛冶職人という2つの技術により格安でリサイクルやリメイク装備等を販売している騙し絵顔の大将に、
「頑丈で使い勝手の良い鞄ってないですか? 麻袋じゃあすぐ破れてしまって」
と聞いた時に、大将から
「ウチの鞄より坊主ぐらいの子供には獲物を運ぶのも重くて大変だろうから、中級錬金術師が作る重さ軽減の手押し車とかオススメだし、バカみたいに高いがマジックバッグなんていう小さい見た目で大タル一杯程の荷物が入って重さも軽減される上級錬金術師しか作れない高等魔道具なんかどうだ?」
と言われてから錬金ギルドに足を運んでショップにて魔道具の相談をしたところ、僕の見習い試験を担当してくれた男性職員さんが、
「受注生産の重さ軽減の手押し車なら良い木工職人さんとペアの中級錬金術師を紹介できますが、今ならその中級錬金術師が上級錬金術師試験の課題として作っている規格に満たないマジックバッグで良ければ【先輩からの参考資料】としてアルマ君に分けてもらえる様に聞いてみましょうか?」
と言ってくれた。
つまり普通であれば僕もまだ実物を見た事がない金貨という物の更に一つ上の最近まで存在すら知らなかった【白金貨】という物と金貨を追加で五枚、つまり百五十万円という軽自動車が買える値段の最高峰の魔道具の鞄の規格外のB級品を先輩錬金術師さんから格安で買わないか? と提案してくれたのだ。
どうやらその先輩錬金術師さんは上級錬金術師に成るための仕上げの課題で行き詰まり、かなり高価な素材を必要とするマジックバッグの失敗作の山に埋もれて生活もギリギリらしく、規格外の失敗作は錬金ギルドとしてはお客さんに売る事は出来ないが、暗黙の了解で見習い錬金術師や初級錬金術師達に、
『先輩の失敗作だけどコレを参考に勉強しなさい!』
という体で、薬草摘みなど用に材料費とお礼金程度で売ってもらえるらしく、
「彼女の作る鞄は出来も良いし、中の魔術回路さえ上手く書ければ一級品のマジックバッグを作る上級錬金術師にもすぐ成れるんだけどね」
と作者は若干スランプ中で、容量は大タル半分に少し足りない程度で規定の半分以下であるが、ちゃんと重さは軽減されるというバッグで良ければ金貨三枚で購入出来るように話をつけてくれ、すでに錬金ギルドに取り置き状態でそのマジックバッグが保管してあるのだ。
『見習い錬金術師試験を頑張って良かったぁ~』
とやっと苦労した甲斐があったと実感している僕は、現在、
『どうせ朝イチから草原エリアに行くから夜更かしはしないし、まだ魔石式ランプは必要ないかな?』
と、魔石式ランプを後回しにしてB級品のマジックバッグの為にお金を貯めているのである。
その代わりといっては何だが、少し前に購入した魔道具用のインクで書いた魔方陣により、以前から頑張っていた水生成魔術の練習が効いて、練習なしで光の魔方陣から光の玉が出せるようになっているので魔石式ランプへの欲求もある程度満たせて、
『最悪この魔方陣があれば集落の夜も明るく出来るかも!?』
と僕は考えたのであるが、すぐに、
『あっ、魔方陣に両手をかざして魔力を流し続けないと光らないから、この光じゃ本も読めないかも…だってページすらめくれないもん』
と気が付く。
そして、魔法を使っている雰囲気が楽しいのと、
『これって、練習したら片手で魔方陣が使えたり、一瞬手を離して本のページをめくれる様にならないかな?』
と、連日試行錯誤を繰り返すうちに冒険者ギルドの宿の僕の部屋は、夜な夜な光魔術の灯りがチカチカピカピカと窓から漏れ出ており、どこからか苦情が出たらしく、宿のスタッフから叱られてしまってからは僕は渋々寝る前の魔術練習タイムは再び水の魔方陣に戻している。
ちなみにではあるが、普通のインクで書き写した魔方陣で水を生成した時は凄く集中しないとダメで、生成される水もキレの悪いオシッコみたいな勢いだったのが、魔道具用のインクで書き直した水生成の魔方陣を使うと少しの集中で「シャー」っとギリギリまで我慢した後のオシッコぐらい勢いよく水が生成された事から、
『魔方陣ひとつで効果や使い勝手がこんなに違うのかぁ!』
と、魔術の奥深さを知る事になった。
本当ならばこんな感じで錬金素材やお屋敷の図書室にも無い見習い錬金術師になってからしか買えない初級錬金術師になる為の教本や薬草の調合レシピなどを買って色々と試したいところではあるが、買いたい物は山ほどあるけど、買うための資金が足りていないから仕方ない。
やっと角ウサギ狩りが軌道に乗ってきて、
『おっ、案外僕もやるもんだ!』
と自画自賛していた先日の事、僕はいつもの冬の草原エリアにて本物の冒険者の狩りというものをたまたま目にしたのである。
こっちがシコシコと罠を仕掛けてから獲物が罠に掛かるまで1日待って、時間をかけてようやく一匹とか二匹の角ウサギを狩っている近くで、気配がわかるスキルなのか鼻が利くスキルなのかは知らないが、角ウサギの巣穴を見つけたその冒険者パーティーは武器を構えると、その後は狩りというより流れる様な作業であった。
杖を持った一人が巣穴へと消防隊かと見まがう程の放水を開始すると、冬場の寒さを家族で押しくら饅頭を巣穴の中で繰り返して凌いでいた角ウサギ一家が、ずぶ濡れの低体温状態でふらふらと巣穴の外に出てきた所を残りのメンバーで一網打尽という流れである。
しかも、発見から討伐までものの数分で、彼らは、
「今日はろくな獲物に出会えなかったから、あと3ヶ所ほど適当にここらの角ウサギの巣穴を狩って帰ろうぜ」
などと言っており、僕の半月分ほどの獲物をサクッと倒して行ったのである
『角ウサギ単位じゃなくて巣穴単位…だと…』
とは思う僕であったが、
『これがスキルを持つ者と持たざる者の差か』
と感じる切ない現実を嫌というほど見せられて、ここ最近コンスタントに数匹の角ウサギを狩れていたぐらいで調子に乗っていた自分が惨めで、弱くて、可哀想で、大嫌いになりそうでなのであった。
でも、僕だって今さらそんな事を言っても仕方ない事ぐらい理解しているので、角ウサギは巣穴単位で狩るのが一般的な冒険者だとしても、
『他所は他所、ウチはウチ!』
と割りきるしか自分を宥める方法が見当たらず、そんな何とも言えない気持ちで町に帰って来た日の門の所での出来事である。
数々の僕に対するやらかしの為に僕から素っ気なくあしらわれていたアディンさんから、
「アルマ少年、フンドシ姿を笑い話として触れ回った俺を許せないという気持ちは分かるが、どうしてもアルマ少年と話したいという奴がいてな…」
と言われて、連日町の外に狩りに行く為にアディンさんと顔を合わせる回数も増えた事もあり、
『まぁ、何時までも怒っていたら今度はケツ穴の小さい奴などと変な噂を流されてもかなわないし、言ってもウチの集落の件が上手くいった立役者の一人でもあるアディンさんを避け続けているのも、大人毛…いや、おとな気ないかな?』
と考えた僕はアディンさんの頼みを聞いてその『僕と話したい』という人に逢う事にしたのだった。
そして、その人に逢う日が今日であり、非番のアディンさんと待ち合わせをして朝から彼に連れていかれた先はこのファベルの町の教会であった。
『何で教会に?』
と思う僕にアディンさんは、
「別に教会じゃなくても良かったんだが、話す内容が内容だけにあまり他人に聞かれたくないそうでな」
と、益々分からなくなりそうなヒントを僕に出すのであった。




