第22話 なおして
カサドルさんの入待ちを冒険者ギルドにある解体場の裏口でしていると、待ち人は案外すぐに現れ、そしてあちらの方から、
「おぉ、アルマ! この前は悪かったな」
と、頭をポリポリと恥ずかしそうに掻きながら、
「アルマが怒って帰っちまった後で店の親父さんに、フンドシの件は酒場での笑い話にしても仕方ないが、淡い初恋を弄ってやるのは可哀想だって叱られてよぉ、オイラ達みんな反省したんだ」
と言って、
「どうか機嫌をなおしてくれ、この通りだ!」
と、頭を下げて謝ってくれたのだが、僕としては、
『いやいや、店の親父さんよ…僕の為にカサドルさん達を叱ってくれたのは有難いですが、出来ればフンドシの件も笑い話にはして欲しくないです』
と本気で思ってしまう。
しかし、そんな事を論じている場合ではない僕は、
「あの時は、多少嫌な気持ちにはなりましたが、店の親父さんがお腹が苦しいぐらい色々奢りで食べさせてくれたからでして、もう《《そんなには》》怒ってませんので」
と謝罪を受け入れたのであるが、カサドルさんは、
「ありがとよ!」
と喜んだ後に、
「ん、そんなに?」
と僕のセリフの端々に残る怒りの感情に微かに気が付いたらしいが、彼はそれ以上深くはそこに触れる事を止めたらしく、
「それで今日はどうした?」
と、入待ちをしていた僕に要件を聞いてくれたので、僕は背負っていた麻袋の中から壊れた足バサミの罠を取り出して、
「すみません、こんな感じで壊れちゃいまして、これって何処で修理出来ますかね?」
と質問すると、カサドルさんは壊れたその足バサミの罠を手に取って確かめると、
「あちゃー、アルマすまん。 こりゃオイラの保管状態が悪かったみたいだな」
と頭をペチンと自分で叩いていたのであった。
仕事前なので、あまりゆっくりは話せなかったのではあるが、こらの罠は鍛冶職人でもあったカサドルさんのパパさんが作った物で、カサドルさんが子供の頃にプレゼントされ長期間使った品であるらしい。
罠のパーツの殆どは錆びない魔合金で作られているが、この板バネの機構は錆びない魔合金では金属的に粘りが足りずに、折れたアソコのパーツだけは普通の鋼だったそうで、解体職人に転職して狩人をヤメたカサドルさんが、
『もう使わないから…』
と何年も手入れもせずに放置していた事で錆びていたらしく、一番負荷がかかる所からパキッと折れたという理由だった。
カサドルさんは、足バサミの罠の名前も知らないアソコのパーツをめくり上げながら、
「ほら、この内側の見えにくい部分がこんなに錆びてやがるぜ、こんなの折れて当然だな。 コレだと角ウサギはダメだったのか?」
と心配してくれたので、僕は、
「何とか一匹は」
と、今日の成果を伝えるとカサドルは自分の事の様に喜んでくれ、
『よし、今回こそ前回出来なかった見習い錬金術師の合格祝いと、あんな罠を渡しちまったのに獲物を狩れた祝いをしよう。 足バサミの罠は鉱山で暮らすドワーフ族が備蓄した食料を荒らすネズミ魔物や坑道を崩落させるモグラ魔物を狩る為に作った物で、ウチのおやじの鍛冶の師匠であるドワーフ族から教えて貰ったらしいから直すぐらいなら鍛冶職人なら誰でも出来るんじゃないかな?』
とだけ言うと、
「じゃあ、今晩もここに集合な!」
とだけ告げてカサドルさんは仕事に向かってしまったのだった。
裏口に残された僕は、
『いや、鍛冶職人なら直せるって言っても知ってる鍛冶職人さんなんて、僕の生まれ育った集落にいたルーチェちゃんパパのガウおじさんだけだよ』
と悩んでしまうぐらい、このファベルの町で鍛冶職人の知り合いもない。
僕の狙いとしては、
『カサドルさんに聞けば安く直してくれる工房とか知っているかな?』
と思っていたのに宛が外れてしまった。
この足バサミの罠がメイド・イン・パパさんなのにカサドルさんがパパを紹介しないという事はつまりパパさんはもう居ないという事だろうし、いきなり他の職人さんが作った物を鍛冶工房に持ち込んで「直して」というお願いが通るのかも怪しく感じる。
【鉄の加工が出来て、この手の物が直せそうな職人さん】
というそんな都合の良い人物など僕には思いあたら…
「あっ、一人いた!」
と閃いた僕は昼からのミルクムギチャ屋台の開店までにチャチャっと僕の頭に過った騙し絵みたいなスキンヘッドに髭もじゃなご主人のゴミ置場みたいな中古ショップへと急いだのであった。
すると、どうやら僕の人選は大当たりだったらしく、例のお店に到着すると前回より人が何人か店先にいて、対応をしていた騙し絵の大将は僕を見るなり、
「おっ、またギルマスに言われて何か買いに来たのか? さては防御が弱いって言われたな。 今なら丸盾とかなら良いの有るぞ」
と言ってくれ、僕が、
「いえいえ、盾を使うほどの高度な戦闘なんてまだ出来ませんよ。 その代わりにこんなのを使ってまして…」
と、壊れた足バサミの罠を麻袋から取り出して見せると、騙し絵顔の大将は、
「ありゃ、また珍しいものを」
と彼はどうやら足バサミの罠を知っているらしく、僕が事の経緯を話す前に、
「ここの板パーツだけ素材が違うし良く動かすから壊れ易いんだよなぁ。 でも、これなら明日か、たぶん明後日には直せるよ。 こんな魔合金づくしみたいな上等な素材じゃなくて良いんならば格安でその罠を複製も出来るぞ」
と言ったかと思うと、ニカッと微笑み、
「で、幾ら出せる?」
と彼は言う。
しかし、僕は前回の経験からしっかりこの店のシステムを理解しており、お財布の中は昨日のミルクムギチャの販売と今日の角ウサギの買い取りで銅貨が16枚あるが、ミルクムギチャの材料費と自分の食費も必要なので、
「何とか銅貨6枚でこの壊れた罠2つの修理と、こっちのまだ動く罠1つのメンテナンスをお願い出来ませんかね? この罠で角ウサギが狩れたらお金が入るんですが、手に入れた足バサミの罠がこれでして…」
と、手持ちが無いアピールと合わせてこちらが希望する金額を明確に提示すると、騙し絵顔の大将は、
「はぁ~」
とタメ息を吐き、
「今回はあんまり持ってないんだな」
などとあからさまにガッカリしていたが、彼は、
「仕方ない、前回坊主には良い商売をさせて貰ったし、今のシーズンはスラムのガキ達からガラクタを買ってやらないとあいつら腹を空かせて可哀想だからワシも買い取りで金が必要だしな…よしその値段でやってやるよ」
と言ってくれたのであった。
なので僕は全ての足バサミの罠を彼に渡して、財布から銅貨を、
「いち、にい、さん…」
と数えて6枚取り出し、
「はい、もう前金で払っておきます」
と言って大将に手渡すと、騙し絵顔の大将は、
「わぁ、ズルいまだお金持ってるのが見えたのにっ!」
と悔しがっているので、僕は、
「直して貰った罠で角ウサギが狩れたら、追加の足バサミの罠とか色々と買いますから今回はコレで…ねっ」
と懇願すると、騙し絵顔の大将は、
「じゃあ、稼いでからで良いから複製した罠を1個銀貨1枚で3つは買ってくれないと嫌だから」
と少し拗ねた様にいうので僕は、
「5つは作っといて下さい。 でも修理の3つは急ぎでお願いしますね。 角ウサギを狩りに行かないと稼げないので」
と言うと、大将は、
「丸一日で仕上げてやるから明日の昼に来てくれ」
と言うと、店の前に来ていたスラムっ子に、僕から受け取った銅貨の1枚を渡して、
「次は壊れた魔石式ランプより壊れた武器や防具、破れたテントなんかを探して拾ってきてくれ、ワシは錬金術師じゃないからあんなのは直せないから、ワシが加工が出来る革製品と鉄や魔合金を頼むぞ」
と言って帰らせており、
『あんな風に稼いだ端からスラムっ子に還元してるんだな』
と騙し絵顔の大将の優しさに感心してしまう僕が居た。
その後、販売目標を50杯に上げたミルクムギチャの販売も順調で、足バサミの罠の修理もかなり押さえられた為に、
『明日は午前中は狩りにも行けないし、錬金ギルドに行って魔術に使う魔方陣とかに使えるインクってやつを買ってから久しぶりにお代官様のお屋敷の図書室で水の魔方陣以外の魔方陣を書き写しちゃおうかな?』
などと僕はウキウキと鼻歌まじりで屋台の片付けをしながらマスコット兼アルバイト枠のベン坊やの読み書きのお勉強をみてやっていると、いつもは僕が屋台を片付け終わったぐらいに弟のベン坊やを迎えにくるチカさんが、
「ベン、今日は新規のお客さんが沢山買ってくれたからもうお店を片付けたわよ。 さぁ、アルマお兄ちゃんにご挨拶して帰りますよ」
と言ってベン坊やを連れて帰って行った。
『ウチの屋台は売り上げ目標を増やしたから店じまいが遅くなったけど、チカさんの屋台の方が早く終わるのならベン坊やのアルバイト代は早めに渡しておかないとダメかな?』
と僕は、
『お姉さんの目の前で五歳のベン坊やに鉄貨を握らすのはあまり宜しくないのでは!?』
などと考え、ベン坊やへのバイト代を先渡しにするか否かを脳内会議にかけつつ、朝にカサドルさんから誘われていた待ち合わせ場所である裏口へと向かい、仕事終りのカサドルさんと二人で例の飲み屋さんへと向かったのであるが、親父さんの店では既に常連さん達が楽しげにさわいでおり、暫くして僕たちより後に入って来た常連さんが、
「親父さん、コレ差し入れ」
と言って何かを親父さんに渡すと、親父さんはその中身を確認すると、
「これで四人目だぞ! お前らこの間のオレの話を聞いてなかっのか?!」
と後から来た常連さんに向かって、僕たちより先に来ていた常連さん達を指差しながら怒鳴り出したのであった。
僕はビックリして、親父さんに、
「どうしたの?」
と聞くと親父さんは、僕に向かい、
「コイツらがスマン」
と言って頭を下げてくれたのであるが、僕としてはなんの事やら全く分からない。
しかし次に店に現れた人物により全ての謎が解ける事となった。
それは、門兵のアディンさんである。
彼が、
「昨日みんなに聞いたアルマ少年の麗しの君のパンの屋台に行ってきたよ。 あっ、おやっさんコレ差し入れ」
などと言いながら店に現れ、そして僕が店内に居る事に気が付いた瞬間に、
「あっ、アルマ少年…」
と気まずそうにすると同時に、店の親父さんからは、
「お前で五人目だ!」
と差し入れのパンで頭を叩かれていたのであった。
『あっ、コイツらがチカさんの店の新規の客か!』
と理解した僕は、前世分の知識と照らし合わせて、
『コイツら親父さんから叱られて反省したカサドルさんと違って全く反省してないぞ!』
と、この店の常連達と今後笑顔で仲良くしていく自信が失くなってしまい、
『もうコイツらは親父さんに叱られたぐらいじゃあ、心に響かないダメな大人なんだ。 彼らとは距離を置くか…』
と噂のチカさんを見にパンを笑顔で買いに行っていた常連達を冷めた目で見ている僕が居たのだった。




