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前世の記憶が生えたとて、スキルなしには厳しいです  作者: ヒコしろう


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第20話 冬の草原

何だか疲れる一日を過ごした翌朝、僕はうっすら雪が積もった草原エリアに来ている。


勿論、冬毛の角ウサギ狩りのためではあるが、昨夜のカサドルさんの説明でもギリギリ使い方は理解できたが、


『どこらへんにどんな感じで使うのかな?』


と、正直なところ肝心な部分が理解出来ておらず困っているというのが本音である。


この時期の角ウサギが家族単位で寒さに堪えて生活しているのはカサドルさんから聞いたが、


『その家族は何処にいるの?』


という所から壁にぶち当たっている。


今日みたいに雪が積もってしまえば保護色の角ウサギは遠目から見つけるのは難しく、


「気配感知スキルとかある人が羨ましいよ」


とボヤいてしまう自分が居る。


まぁ、それもその筈で今日の草原エリアは冬枯れの草の上に雪が乗って、白い角ウサギの丸い背中が有ったとしても、枯れた草の下地が上に乗った雪にポコポコと起伏を与えており、それらを盛り上がった雪か、冬毛のモコッと盛り上がった角ウサギの背中かを見分けるのは素人の僕には物凄く難しい。


昨夜、メンタルをすり減らしてカサドルさんから足バサミの罠を3つもらったが下手をすると寒くて雪の積もった草原をただただ散歩して帰るだけになるかも知れない、


『そんなのは悔し過ぎる!』


と感じた僕は、ウサギ狩りの経験など何処を探しても無いのは自分が一番知っているが、前世の知恵も一応脳内会議に呼び出して、


『チキチキどうやって獲物の巣をみつけるか会議』


が開催されたのであった。


『角ウサギだけに兎に角歩き回るか? フフッ』


などと寒い提案を出したオジサン要素強めの脳内の自分を只でさえ冬用の防寒着も買っておらずに寒さでイライラしているリアルボディーの自分は許す事が出来ずに、


「面白くないから真面目に考ようか…」


と呆れた様に呟き、自分自身に注意するという、端から見るとかなりヤバイ状態までに追い込まれて、


「こんなちょっとの雪でも地味に足が取られるし、枯れた草の上は雪を踏むと滑って転びそうになるし…帰ろうかな?」


と昨日からメンタルが復活していない為に既に心が折れそうな自分がいたのであった。


『カンジキだっけか? 雪国で使うアレとか有ったら違うのかな?』


とか、


『昔テレビで見た犬ゾリとか楽しそうだけど、騎士団の建物でチラリと見た軍用犬っていうのか、アノ犬っていうより、ほとんど狼とか熊みたいな大きさの犬ってソリ付で貸し出したら儲かりそうだけど…あっ、あの大きさの犬魔物ならソリが無くても背中に乗れそうだな! でも、あんなデッカイの食費も凄いだろうし散歩も大変か…』


などと、どうでもいい話で寒さや疲れを紛らわせながらも、軍用犬の流れから、


『そう言えば森狼がここら辺まで来てるんだっけ!?』


と思い出した僕は、


『狼なんて相手に見つかった時点でアウトかも…』


と、隠れる場所もなく移動しにくい冬の草原にて、人間より早く走れる狼からは逃げ切れるイメージが全く出来ずに、急に背中に冷たい汗が流れるのを感じてしまう。


なので僕はその場で体勢を低くし辺りの物音や白い雪景色の中で小さな変化が無いかに神経を研ぎ澄ませて周囲を注意深く見回すと、そこで初めてうっすら積もった雪に小さな足跡が残されていることに気がついたのである。


『これは、何の足跡だ?』


と雪の上に規則正しく残る足跡に、


『とりあえず、何かの通り道で何処かに向かって一直線だな』


と、理解した僕は足跡の主を予測してみる。


集落でキゴニスおじさんが倒した森狼を見た事があるが、記憶にあるその足の裏と比べると小さ過ぎるし、集落でも見かける冬にも走り回っていた滑空で空を飛ぶリスの魔物にしては少し大きな足跡から、


『あれ、コレって見つけちゃったか!?』


と角ウサギなのかはまだ定かではないが、冬場の小型魔物の見つけ方を自力で発見した僕は、


『イケる気がするぅ!』


と、先ほどとは別人の様にメンタルが復活し、


『いゃあ~、汁がヤバイね。 脳から汁がビシャビシャ出てるよ!』


と足跡の向かう先を辿り進んで行く。


すると同じような足跡が集まる場所に到着した瞬間に、


『ビンゴぉ!』


と声に出さずに心の中で叫んだ僕は担いだ麻袋から足バサミの罠を1個取り出すと、


『カサドルさんは巣穴の入り口に仕掛けるって言ってたけど、この足跡がいっぱいある交差点エリアに仕掛けてもイケるのでは?』


と、試しに1個仕掛けてみる。


『地面に動かない様にアンカー付きのチェーンで固定してから板バネを押し下げて、つぎはギザギザの歯が指に刺さらない様に慎重に罠を開けてから、ストッパーで…』


と、可能な限り綺麗な表現で手順を確認しながら作業をするのだが、カサドルさんのせいで作業の合間に、大変お下品で不要なイメージ映像が頭を過ってしまう。


『駄目だ…僕の心は汚れてしまっている』


と、前世のオッサンが悪い方向に影響して来年やっと十歳になる予定のアルマ君はもうピュアで清らかな思考で世の中を見れない事に少し寂しさと申し訳なさが混ざったような、まだ誰も名前を知らないような複雑な感情がわいてくる。


だが、脳内にいる呑気な前世のオッサンの自分は、


『もう、何でも良からチャチャっとヤッて帰ろうぜ』


とマイペースな意見を言っている。


確かに移動にだいぶ時間が掛かり、今日も午後からミルクムギチャ売りの仕事が待っているので、


『はい、もう獲物が捕れるなら足バサミでも、巻き込み事故(※下関係の)の罠でも構わない事にします!』


と細かい事は気にしない大人な判断で罠を仕掛け、


「あとは…」


と小さく呟きながら、辺りを見回すと巣の入り口らしき穴を見つけた僕は、


『はい、勝ちました!』


と変な手応えを感じつつ二つ目の罠を仕掛けようとすると、


「バキッ」


と甲高い音がして足バサミのロイター板みたいな機構の力を溜め込む部品が見事に折れてしまっていた。


『えっ、壊しちゃった?』


と、いきなりのアクシデントにテンションがダダ下がりの僕であるが、


『とりあえず、最後の1個を使おう』


と決めて、2ヵ所の罠を設置し、念のため辺りの景色を確認して罠の位置を記憶すると、


「あとはヨロシク、また明日ぁ!」


と狩りの成功を祈ってから町に帰ったのであった。


帰る道中で僕は、


『壊れたコイツどうしよう? 直るかな…っても何処で直すんだろう』


と考え、


『僕が知らないだけで猟師ギルドとか有ってショップで足バサミが売ってるのかな?』


とか予想したが、結局、


「まぁ、売ってたとしても買うマネーががネェから仕方ネーな」


という薄ら寒いダシャレを吐いて寒さを加速させただけで、


『直すにしてもお金が出来てからだな』


と決めたのである。


しかし、直さないにしても何処で直せるか聞くのは無料だから、


『一応今日の夕方にカサドルさんを出待ちして質問しようかな?』


と考えてはみたが、あの壊れた部品の名称が分からないから、


『壊れた現物を持って行かないと駄目だな。 だって口で説明したらカサドルさんが《《ナニ》》に例えたヤツの《《アソコ》》が折れちゃったので…なんて何だか卑猥過ぎる』


と、既に前世のオッサンによる脳内汚染はかなり進んでいることだけが身に染みて理解出来ただけだった。


『まぁ、直すのも一回目の罠の成果を見てからにするかな』


と一旦アソコが折れた罠の事は棚上げとし、初の罠の設置はアクシデントも有ったが何とか無事に帰ってこれ、町の入り口の門の所にて、久しぶりに遭う門兵のアディンさんが、


「おっ、何だアルマ少年じゃないか! 久しぶりだなぁ、あっ、あれか、今日は珍しく冬の狩りにでも出てたのか?」


などと声をかけてくれたのだが、


『僕は忘れていない、貴方がフンドシの件を面白おかしく広めた事を…』


というイライラが沸々と僕の中にわいてくる。


もしも王国法が許すのならば聖剣・正雄で奴の股間辺りの布をパージして足バサミの罠でパチンと挟んでやりたい気分であるが、僕も分別のあるオッサンの魂を持つ少年である。


「どうもぉ、今日は寒いですねぇ~、お仕事頑張ってください」


と、素っ気ない返しで衝突を避けてスルーしようとするが、アディンさんは、


「おいおい、アルマ少年。 どうした俺を忘れちまったか?」


などと、どこかの挽き肉を丸めて焼いた師匠みたいなフレーズで僕を呼び止めるので、僕は少し呆れた様に、


「勿論覚えてますよ。 僕がダッシュボアとの生死をかけた勝負の末の姿を行きつけの飲み屋で面白おかしく触れ回ってくれた《《あの》》アディンさんですよねっ!」


と強めにチクリと言ってやるとアディンさんは、


「あれ、怒ってるぅ? 悪かったってぇ~」


と、絶対に悪いと思っていないテンションの謝罪のあと、


「なら、アルマ少年! お詫びの印に行きつけの親父さんの飲み屋に俺の奢りで招待するから」


と言っているが、昨夜も散々な目にあった店に2日連続で行きたい訳など1ミクロンも僕は無く、


「遠慮しときます!」


とだけアディンさんに告げて町に入って行ったのだった。

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