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前世の記憶が生えたとて、スキルなしには厳しいです  作者: ヒコしろう


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第18話 我慢しろ

冒険者ギルドまでの道すがらカサドルさんに根掘り葉掘り聞かれてしまった。(特にチカさんの辺り)


「まぁ、若いうちは色々あるさ!」


と僕を励ますような事をカサドルさんは言っていたが、今晩にでもあの飲み屋で笑い話にされるのがオチだろう。


カサドルさんは楽しげに、


「なにっ、見習い錬金術師の試験に合格したのか! これはお祝いをしなきゃな…どうだ今晩飲みに行くか?」


などと言っていたが、


『絶対に笑い話のご本人登場要員だろ!』


と感じた僕は、


「いえ、見習い錬金術師の登録料やら何やらで懐が寒さで凍えているので止めときます」


と理由をつけて誘いを断るのだが、カサドルさんは、


「金が無いって…なんだ、アルマは冬場の角ウサギを狩らないのか? 冬毛の角ウサギの毛皮は一匹分で銅貨五枚ぐらいだぞ、この時期は大概奴らの巣の中では一家で身を寄せ合って暖をとって暮らしているから巣を見つけたら出入り口に罠でも仕掛けりゃ一匹ぐらいは狩れるってもんさ」


と角ウサギ狩りをオススメしてくれる。


しかし僕はその提案に、


「いや、罠なんて難しそうですし、それに角ウサギなんてすばしっこいし、勝てそうにないですよ」


と毛皮の買い取り額は魅力的ではあるが、そもそも勝てそうにない事を伝えると、カサドルさんは、


「ガッハッハ」


と豪快に笑いながら、


「罠なんて簡単だぞ、なんならオイラが昔、狩人としてブイブイいわせてた頃に使っていた《《足バサミの罠》》をやろうか?」


と言ってくれたのだ。


僕が、


「えっ、良いの? 嬉しい!」


と素直に喜んでいるとカサドルさんは、僕に、


「なら、今日のオイラの仕事終わりは日の入りの頃だから、そんくらいに前回の時に居た解体場の裏口に集合な」


などと言い出すので、


「ん? 集合って…あっ、罠を渡してくれるの?」


と確認する僕にカサドルさんは、


「バカ野郎、仕事終わりに家に置いてある足バサミの罠を渡せる訳ないだろ? 裏口に集合したらオイラの家に寄ってだな…」


と説明するカサドルさんに僕は、


『あぁ、カサドルさんの家に移動する為の集合ね』


と理解したのだが、どうやら違ったらしく、カサドルさんは続けて、


「オイラの家から足バサミの罠を取ってから親父さんの店に移動して、そこで使い方とかアルマに教えてやるって流れよぉ!」


と、どうしても僕をあの店で弄って、弄って、弄り倒したいらしい。


僕も最後の抵抗で、


「いや、本当にお金が…」


と何とか回避しようとするが、カサドルさんは、


「そんなのオイラが奢るよ。 見習い錬金術師になったお祝いだものぉ」


と微笑んでいるのだが、


『絶対にお祝いが目的では無いことぐらい、前世の人生経験分を無しにしても素のアルマ君のままでも勘づけるほどの粗くて大味な偽装だよ!』


と、肌で感じる程に裏が見え隠れする誘いであるが、僕はぐぬぬっなりながら、


『何とか足バサミなる罠だけを手に入れて、飲みの誘いをスルー出来ないか』


と知恵を絞ろうとしている、その僕の耳元でカサドルさんは、


「奢るのにぃ?」


とか、


「足バサミあげるのにぃ?」


などと囁くのだ。


『確かに奢ってもらえるのも有難いが、何より罠を貰えるのは魅力的だもんな』


と、諦めた僕は、


『さぁ、弄れよ! 弄って弄って、モゲる程イジれば良いさ』


と、ヤケクソ気味に覚悟を決めて、


「分かりました。 カサドルさんのお誘いに有り難く乗らせて頂きます」


と伝えるとカサドルさんは、


「おう、今日は楽しくなりそうだぞぉ! さて、残業しなくて良いように頑張りますか」


と楽しげに仕事場に消えて行ったのであった。


こちらとしては気が重いが、見習い錬金術師の勉強をしていた時間がゴッソリ空き時間になってしまい、時間は有るが金は無いという悲しい現実を明日以降過ごすぐらいなら夏場より強い魔物が町の近くの草原エリアまでエサを探しに来ているらしいけど、


『やってやるよ冬場の角ウサギ狩りを…たとえ淡い初恋を飲みの席のネタにされてもぉ!』


と、金の為に何か大事な物を失うとしても、


『これが大人になるって事さ…』


などと自分を励ましながら我慢して飲みの席での笑いのネタにあえてなる腹を決めたのだった。


まぁ、どうせ僕が行かなくても今回のネタで笑われるのなら、何を言われてるか近場でチェックした方がマシだろうというのもある。


それに、


『本気でお金を稼がないと春か夏前には集落に戻るだろうし、その時には魔石式ランプだけは何としても1個は買って帰らないと夜が暗すぎるからなぁ』


という理由もある。


しかし問題は魔石式ランプは錬金ギルドにて金貨一枚、つまり10万円となる点だ。


単純にミルクムギチャの利益だけで稼ぐには休み無しで五十日となるが、その間は飯も買わずで暮らす計算でしか貯まらない金額なので、


『そんなの無理じゃんかっ!』


という話なのだ。


本当なら見習い錬金術師になったら魔力を流しやすい魔道具用インクなる特殊なインクを買って、お代官様のお屋敷の図書室にて魔方陣を書き写して、火を出したり、光を出したりしたい。


だってこの世界で僕は魔力が出せるまでに立派に成長したのだから、あれは魔術であって本当の魔法ではないとはいえ、スキマ時間に体力と魔力の続く限り色んな現象を出しまくりたいのが男心である。


『もう、魔術を覚えた思春期の男子なんてサルよサル!』


という女性からの蔑みのセリフが頭を過るが、


『どんと来い! むしろ褒め言葉でご褒美っス』


という気持ちは僕の脳内会議で一致しているので、僕の中の前世のオジサンに穢されてないピュアなままの純粋異世界っ子のアルマ君も、魔術が使える様になった自分に興奮しているのだろう。


となれば鉄貨一枚でも多く稼がないといけないので、僕は今夜の嫌なイベントから目を背ける為にも、


「よし、ちょいと天気は悪いが屋台が出来ない程ではないし、ミルクムギチャで稼ぎますか!」


と通いなれた露天エリアへと向かったのである。


露天エリアの端にある商人ギルドが管理している露店商用のレンタル荷物置き場にて、


「管理人さんご苦労様です」


と商人ギルドからの証明書を見せて自分の屋台セットを運び出す。


屋台セットといっても木箱がメインで一番重いのは火鉢ぐらいなので子供の僕でも運ぶのにさほど苦労はない。


指定の場所で屋台セットを広げてから、綺麗に洗った金属製のミルク用のバケツを持って近所の屋台や市場エリアの露店にて今日の昼飯とミルクムギチャの足りない材料を購入するのが僕のルーティーンである。


昼食は近所の屋台でも買えるので先に隣接した市場エリアへ向かう途中に、


『あっ、ハチミツが失くなりそうだったな』


と思い出す。


僕としては今日というお財布がピンチの時に在庫ぎれになりそうなハミチツに、


『マジかぁ、余分に銅貨が飛んで行くな…ハチミツって入っている壺ごとの販売だから壺の分は毎回無駄な買い物な気がするんだよなぁ~』


と悲しい現実を突き付けられるが、こればっかりは必要だから仕方ない。


市場の馴染みの露店で朝搾りの新鮮なミルクを買い、お財布の関係からいつもより小さいサイズのハチミツ壺を購入し、


「これでヨシ!」


と、自分の屋台に帰ろうとした時に僕は、


「邪魔だガキ!」


という声と共に誰かに押されて、気がついた時には僕のミルクは小さな水溜まりを地面に作り、ハチミツは壺という小さな世界から解き放たれてしまい僕のボロ鞄の内側から外の世界を目指すかの様に染み込みはじめていたのだった。


「なんて事を!」


と思わず叫ぶ僕をハチミツ屋のおっちゃんが軽く押さえつけると、


「坊主、我慢だ」


と耳元で囁いて、今にも聖剣・正雄を引き抜きそうに奴らを睨む僕の頭をグッと下げさせる。


地面に溜まった僕のミルク溜まりを再び見せられて、


『何で地面を見せられてるんだ? あと《《僕の》》って付けるとミルクが急に卑猥に聞こえるな』


などと、されるがままで呆けている僕には声しか聞こえないが、どうやら、


「なんだガキ!?」


と僕を睨んでいるいかにもカタギではない奴等に向かいハチミツ屋台のおっちゃんが、


「なんでもありませんよ兄さん方、あとはこっちでやっときますので…」


と、ペコペコ頭を下げてくれているらしい。


するとソイツらは、


「オマエのガキか? ちゃんと躾しとけっ!」


などと吐き捨てて、


「ほら、もっとよく探せ!」


という一番偉そうな口調の奴の指示で再び道を練り歩いて行ったらしい。


僕の頭を押さえつけたままでハチミツ屋のおっちゃんは、


「坊主、災難だったが良く我慢した。 あんな奴等には関わらないのが一番だから」


と言っているが、頭を押さえつけられたままの僕が、


「あの~、先輩からの人生のアドバイスは大変有り難いのですが、その前に頭を普通の位置に戻したいのですけど」


とお願いすると、おっちゃんはハッとして、


「おっ、すまん。 俺も緊張で慌ててた」


と言っていたので、おっちゃんが勇気を振り絞って僕を助けに入ってくれた事を知り、僕は頭を押さえるおっちゃんの手から解放されたが、今度は自らの意思で深々と、


「ありがとうございました」


と、おっちゃんに向かい頭を下げたのだった。

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