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前世の記憶が生えたとて、スキルなしには厳しいです  作者: ヒコしろう


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第15話 冬の過ごし方

人を呪わば穴二つ…すでに穴に落ちて首まで埋まっている状態の僕は、


『もう落ちて埋まる穴なんて無いさ!』


と、相手を呪っても大丈夫だと思っていた。


しかし今現在、


「だはぁっ! 落ちたぁぁ~」


とギルド宿のベッドで悶えている僕は、


「あぁ、おしまいだぁ~!」


と宿の冬用の布団に顔を埋めて、悲痛な声がお隣に漏れない様に気をつけながら見習い錬金術師試験の不合格を悲しんでいた。


『呪いなんて馴れない事をしたからバチが当たったんだ。 神様ごめんなさい、あと昔の高名な錬金術師さん達も許して下さい。 もうややこしい名前を改名しろなんて思いませんから!』


人を呪った事を懺悔しているが、本人も薄々、


『山を完全に外したのが一番の敗因だな…たぶん』


と感づいているが、懺悔だけはしておきたかった気分なのである。


今回の不合格のおかげで次回の見習い錬金術師へのチャレンジは半月後となり里帰りクエストで稼いだ銀貨達がジワジワ食費に消えてゆく毎日である。


『なら冒険者仕事をしたら良いじゃない!』


と思うだろうが、冒険者の先輩方から聞いた噂通り、冬の低ランク冒険者の仕事など家から出られない方々に代わり行うお届けものクエストや、町の雪かき程度であり、Dランク冒険者に成ってしまっている僕がそんなスラムっ子がご飯の為に頑張るようなお手伝いクエストを横取りする訳にも行かないのだ。


『なら、どうするんだい!?』


という事であるが、そこで出てくるのが、雑貨店の権利を継ぐために一応登録だけした見習い商人である。


見習いでも、商人ギルドにて販売する商品一種類につき登録料と場所代を払えば屋台の主人として1ヶ月単位で商売が出来る。


ちなみに年会費が銀貨三枚必要であるが、初級商人になれば、【食品】や【雑貨】とかの括りでの許可になり、屋台や露店で品物が複数扱えるようになる。


しかし、日々の食費を稼ぐためだけの商売なら見習い商人のままで構わないだろう。


つまり冬の間は屋台で稼ぎながら見習い錬金術師試験にチャレンジするのだ。


そうと決まれば商人ギルドに赴き、


『こんな感じの屋台でこの値段で、こんな物を売ろうと思います』


みたいな書類を出して許可が出れば晴れて屋台の店主アルマ君の誕生となるのだが、問題は何を売るかである。


一種類増える毎に手続きとお金がかかる為に雑貨店などは論外で、


『食べ物辺りが無難かな?』


とは思う。


しかし、仕入れる物が多くなる煮込みなどは難しく、冬場なので温かい物が喜ばれるだろうが、屋台にコンロセットを設置する資金も無い、


『火鉢1個で何とかなる程度で温かい物は?』


と考え抜くこと数日、


「はい、いらっしゃい、いらっしゃい! 温かいミルクにハチミツの甘さと香ばしい香りのミルクムギチャはいかがですかぁ~」


と現在、僕は木箱を改造した小さな屋台で麦茶のハチミツ入りホットミルク割りという怪しげな商品を売っているのだ。


『えっ、結構美味しいんだ…コレ』


と、作った本人も驚いたこの飲み物は、前世でネットでチラリと見て、


『麦茶にミルク!?』


と驚いただけで、実際は一度たりとも試そうしなかったという僕の知識と好奇心を総動員してこの世界に産み出された逸品である。


本当なら街角カフェ気取りでコーヒーでも売りたかったが、コーヒー豆など何処にも無く、


『タンポポとか代用コーヒーって有ったけど、この世界にタンポポだってあるのかな?』


とコーヒーの代用品も思いつかずで、仕方なく他の飲み物を探す。


集落では小麦しか育てていなかったが、この世界にはエールが有るので大麦があるのは知っており、市場で大麦を見つけた瞬間に、


『麦茶が出来るじゃないか!』


と閃くが、


『麦茶って夏のイメージだもんな…今は冬だし…』


ということで一旦諦めるが、


『麦茶も濃く煮出せばコーヒーぐらい香ばしいかな?』


と閃いた結果、冬にお似合いの飲み物というイメージで冒険者ギルドの応接室で飲んだハチミツ入りの少し甘いホットミルクを思い出し、


『あの甘めのホットミルクにもうひと手間!』


と、産み出されたのが【ミルクムギチャ】である。


麦茶自体商品としての登録が無く、商人ギルドでレシピの登録など地味に痛い出費となったが、


『麦茶は僕の特許となり麦茶ブームでも来れば、僕にとって麦茶はワクワクする飲み物となってくれるだろう』


という願望も込めて、あえて麦茶を日本語発音の【ムギチャ】のまま登録したのは良いが、


「誰も…買わない…だと!?」


という僕の呟きは、白い息と共に空へと消えて行った。


『おい、火鉢に炭に、鍋やらなんやらと、結構初期投資がかさんでいるんだぞ!』


と僕の心がどんなに焦ろうとも、町ゆく人は誰一人ミルクムギチャを買おうとしてくれない。


温めたミルクは明日までもたないし、


『勿体ないから』


と、僕の晩ご飯のお供として飲むにはお腹がユルユルになりそうな量である。


そして煮出した麦茶もいくら冬場だとはいえ、明日も使いわますのは衛生的にノンノノンだと思う。


『なら捨てるか?』


となるが、


『どうせ捨てるなら!』


と屋台通りの端っこにずっと居るスラムっ子っぽい男の子をチョイチョイと手招きして、


「寒くない? これ飲んでみるかい?」


と、たずねると五歳ぐらいの男の子は、


「おねえちゃんを待ってるだけ、お金ないから」


と遠慮するのを、僕は


「お金は今日は要らないよ。 お兄ちゃんが特別大サービスしたい気分なんだ」


と言って、少年に、


「温かいよ」


と、ミルクムギチャをすすめると少年は、


「良いの?!」


と笑顔になってくれ、僕はお客さん第一号の少年にちょっぴりハチミツ多めのミルクムギチャを差し出したのだった。


「熱いから気をつけてね」


と言って渡した木製のマグカップを受け取った少年の手は冷えきっており、


『もっと早くに気がついて奢ってやれば良かった』


と、来ない客の呼び込みに必死になっていた自分が少し恥ずかしくなってしまった。


少年は僕が頑張って改造した木箱の屋台の端にチョコンとしゃがみ、そして大事そうにカップを両手で包み込むようにして、


「ふぅー、ふぅー」


と声に出して湯気を散らしている。


『いや、声じゃなくて息を吹かないと…』


とは思うが、さっき少年が、


「おねえちゃんを待ってる」


と言っていたから、たぶんいつもは少年の隣からお姉さんが覗き込み息を吹き掛けて冷ましてくれていたのかも知れない。


『まぁ、外だし外気温である程度は冷めるから大丈夫か?』


と少年を見ていると、


「あちっ、もうちょっとかな?」


などと一人で頑張っている。


すると、少年の頑張っている姿に買い物帰りの奥様が、


「上手に冷ましてるねぇ」


などと足を止めて少年を応援し、少年も少し得意気にミルクムギチャを啜って見せ、


「甘くって、いい匂いだぁ!」


とナイスなコメントをくれると、足を止めてくれた奥様が、


「あら、美味しいの? 私も貰おうかしら」


と言ってくれた。


『へい、まいど! 鉄貨1枚です』


と僕が言いかけたその時に、少年が奥様に、


「良かったね。 今日は特別大サービスなんだって」


というので、


『あっ、そういう設定でこの子にミルクムギチャを出したんだった!』


と思い出した僕は、


「はい、今日から商売を始めましたので、ご挨拶代わりに本日のみ無料です。 もしも美味しかったらカップ一杯鉄貨1枚ですので、またご贔屓にして下さい」


と、奥様にミルクムギチャを差し出すと、奥様も、


「あら、良いの?」


と、僕からそれを受け取り少年の近くでミルクムギチャをコクリと口に運んでくれた。


すると、奥様の反応を待たずに少年は、


「ね、甘くていい匂いでしょ!」


と何故か自慢げに話しかける。


すると奥様も、


「本当、何を混ぜてるのか分からなくて怖かったけど、香ばしくて、コレ凄く美味しいわ!」


と驚いていた。


『怖かったんだ…麦茶…まぁ、黒っぽい汁だもんね』


とは思ったが、


『でも、味は気に入ってくれたんだ。 良かった』


と僕が安心していると、奥様はおもむろに通りの向こうに居る知り合いに、


「マールさぁ~ん、ちょっと来てごらんなさいなぁ!」


という具合で、そこから暫くはマダムの数珠繋ぎが始まり、初日で様子見だった為に材料も少なめだった事もあり、奥様方の数珠繋ぎによりストックもなくなり、


「皆様のおかげで売り切れとなりました」


と頭を下げる僕に、ほぼ井戸端会議状態のマダム達が、


「また飲みにくるから」


などと去ってゆくと、ウチの屋台の招き猫として活躍してくれた少年も僕の隣で、


「ありがとうございました」


と、マダム達を見送ってくれていた。


『これはバイト代をはずまないと…』


と思っていた僕に、隣の屋台のおばちゃんが、


「私も気になっていたけど品切れになったんだね…残念…明日は一番で買わせて貰うよ」


と言って、


「ホレ、あの子にやっとくれ」


と、おばちゃんの店で売っている串焼きを一つくれたのだった。


少年はそれを受け取ると、隣の屋台のおばちゃんに、


「いつもありがとー」


と頭を下げていたので、どうやら少年は僕よりもこの屋台通りの先輩のようであった。

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