第14話 鬼になる
季節は秋も終盤、冬をすぐそこに感じる頃に僕はファベルの町に戻ってきていた。
集落に新築中の僕の自宅が完成するまでは、お代官様や冒険者ギルドマスターのご厚意でギルド宿の部屋を無料で借りており、お屋敷の図書室にも引き続き入れるという生活を送っている。
まぁ、色々と余計な事を考えないように僕は見習い錬金術師の勉強に集中している訳ではあるが、しかし、町では今回起きたマーキオ村の村長の話で持ちきりであり、聞きたくも無いのにあの野郎の話が何処からともなく聞こえて来て大変不愉快だ。
今回の件でお代官様がご領主様に報告をあげると、お代官様はしこたまお叱りを受けたらしいが、
「まぁ、その手で首謀者を捕らえたのだから」
と渋々気味ではあったらしいがお代官様自体は罰は与えられず、その代わりご領主様からは、ウチ集落の復興はもちろん、今回の一件で騎士団相手に農具などを持ち出しての大捕物となり、その末に村人に死傷者まで出して、村長一家をはじめ村の有力者をごっそり失ったマーキオ村の復興も合わせてするようにと課題を出されただけで済んだ事にホッとしているらしい。
しかし、捕まえた村長達を取り調べても肝心な奴隷商人の方の足取りは日にちが経ちすぎている為に、その奴隷商人がまだ二人を連れているか、他の奴隷商人に転売したか、はたまた既に誰かに買われたかなど全く掴めておらず、オルス君やルーチェちゃんの行方は分からないままである。
ルーチェちゃんのスキルの件は王家まで報告が行っていたらしく、どうやら国を上げての捜査をしてくれるそうなのだが、奴隷商人にも奴隷商人としての暗黙のルールがあり、
『誰から買った』
とか
『誰に売った』
など口を割る事など希で、奴隷を買った人間も、
『わて、奴隷買いましたねん!』
など言って回ることなんて無いし、奴隷商人をはじめ違法奴隷と薄々気がついていてもその奴隷を買うような奴は、変に鼻が利くというか、
「国がこんな感じの奴隷と、それを扱った奴隷商人を探しているんだってよ」
などと耳にした瞬間にサッと国から離れたり、世間から見つからないように裏に潜ったりと、益々見つけ難くなってしまう為に、お代官様からも、
「すまない…友達は…」
と、僕に対して大変言いづらい内容の報告をさせてしまう結果となっている。
なので僕に出来る事は、『もしも!』という時に二人を買い戻せるお金や連れ戻せるだけの力を手に入れる事だろう。
だがその前に、僕だってちょっぴり特殊ではあるが普通の人間であり、決して聖人ではなくムカつく奴をぶん殴りたい気持ちをどうする事も出来ない。
なので今日、僕は前世も含め初めて【鬼】になろと決めているのだ。
そんな決意の僕が騎士団長さんに案内されて到着したのは騎士団の建物の地下にある牢獄で、そこにはマーキオ村の村長達が投獄されている。
僕は近々処刑をされるであろう村長に死ぬ前に生きていた事を後悔する程の苦痛を味わって貰う為にワザワザ足を運んでやったということなのだ。
地下牢へ向かう階段で僕に向かい、
「大丈夫かい?」
と、色々な意味に受け取れる短い言葉で僕を心配してくれている騎士団長さんに、
「大丈夫ですよ。 ちょこっと村長さんとお話するだけですから、ほら、あの人ってもうすぐお話すら出来なくなるでしょ?」
と笑顔で答え、
「でも、無理を言ってごめんなさいね。 ファベル準男爵様にも感謝をアルマが伝えていたってお伝えください」
と淡々と告げる僕に、騎士団長さんは、
「アルマ君は、本当に見た目通りの子供なのか不安になる瞬間があるよ…」
と、少し引いていたが、
『多分この後、もっと引く事になるかもね』
などと思いながらも僕は地下へ続く階段を降りてゆく。
冬場の地下は冷たい風が吹かない分、多少外より少し暖かく感じるが、到着した牢屋が並ぶエリアにはいかにも寒そうな格好のマーキオ村の村長やその仲間達が鉄格子の向こうに並んでおり、その中の一つの牢屋の前に案内されると、中の住人は僕を見るなり、
「スキルも無いガキが! お前が悪い! お前のせいだ! あの時お前を殺しておけばぁぁあぁぁ」
などと喚きはじめ、牢番の騎士の人が集まるのを僕は、
「あっ、大丈夫ですから、持ち場に…ねっ」
と言って、騎士団長さんにも、
「ほら、騎士団長さんからも」
と指示をお願いすると、騎士団長さんは、
「私も居るから大丈夫だ」
と皆を持ち場に戻してくれた。
その間も何やら村長のオッサンが檻の中からギャーギャー言ってるので僕は、
「黙れオッサン! 声が響いて何を言ってるか聞こえねぇぞ!」
と、オッサンの声を掻き消すつもりで叫ぶと地下室に僕の声が木霊する。
すると、まさか子供が言い返すなんて想像もして居なかったのか村長…いや元村長のオッサンはビクリとして黙ってしまう。
『案外ノミの心臓なのか?』
と思いながらも僕は今回の一件の被害者代表としての落とし前を開始する。
「おい、こらオッサン、てめぇが投獄されたのも近々処刑されるのも、てめぇが選んで行った報いだ」
と僕が話始めると奴は、
「違う、お前のせいだ!」
と駄々っ子みたいに言い返すのを、僕は、
「だから、うっせぇよ! ガキの僕から見てもガキっぽいぜ、オッサンよぉ」
と一瞬語気を強めるとすぐに奴は再び大人しくなる。
僕としては、奴が騒いでもイライラしてしまうし、黙ったら黙ったで、
『小物が! すぐ黙るんなら騒ぐなや…しかし、こんな奴の為に、皆は…』
と、怒りがフツフツと込み上げてきてしまう。
だが、憂さ晴らしで奴に怒鳴る為に僕はここに来た訳ではない。
僕は、
「はぁ~」
と深いタメ息を吐きながら気持ちを落ち着ると、今の自分が考えうる最高の呪詛の言葉を紡ぐ。
まぁ、人を呪うスキルなんて持っていないので何の効力もないが、【呪い】とは、相手が呪われていると感じた瞬間に多かれ少なかれ効果を発動するものである。
「オッサンがあの世へ行く前にこれだけは伝えてやろうと思ってな」
と話し始めた僕は、奴の眼を見つめながら、
「お前らがウチ集落にした事、僕は絶対許さない」
と、静かに宣言すると、村長もだが別の小部屋に入れられた一味達も僕が何を言うのかと身構えたのを肌で感じつつ、僕は村長から一切視線を外さず、
「お前が死のうとあの世でも苦しむように呪って、呪って、呪いつづける。 お前の家族も例外じゃないし、あの村も呪ってやる。 そして、死んで行った皆もお前を絶対許さないし、きっと子供を攫われたウチ集落の2つ家族もお前があの世へ来るのを楽しみに待っているさ」
という僕のセリフを聞いた視線の先のオッサンがガタガタと震えはじめるのを見て、
『やっぱり、怖がりだからこそ他の者を虐げる為に必死だったか』
と呆れながらも半歩前に進み出た僕は、
「まぁ、ウチの村だけじゃない、お前らの村でもお前に子供を売られた親も心の中ではお前を呪っているし、売られた子供もお前を許す訳がない。 それに言うことを聞かないからとここに居る奴等で寄って集って嬲り殺しにした村人だってお前があの世へ来るのを待ちわびてるさ」
と言ったのちに恐怖からか地面にうずくまり、自分を必死に守ろうと丸まっているオッサンに向かい、僕は、
「聞けよオッサン! どうだ子供を売りさばいてから食った飯は旨かったか? 邪魔な奴を消してから飲んだ酒は旨かったか?」
と言い放つ。
『我ながらよくもまぁ、こんな憎たらしい煽り文句が出てきたよ』
と、自分で自分に軽く引きながらも、
『ここまで来たらちゃんと仕上げてから帰ろう』
と決めた僕は、今は目の前でマナーモードみたいに小さく唸りながら震えているオッサンが怖くて下についていただろう投獄されているマーキオ村の連中にも聞こえる様に、
「お前らの指示で攫われたウチの集落のルーチェちゃんは巫女の職業スキル持ちだぜ、気の毒だがお前らの悪行は巫女の力で神様まで届いてるだろうから、今さら懺悔して神様にすがっても無駄だろうさ」
とだけ言った僕は、騎士団長さんに、
「では、用事も済みましたので」
と帰る為に歩き出す。
すると檻の中からさっきまでマナーモードだったオッサンが、
「頼む、家族だけはっ!」
と流石に精神的にダメージが入って、色々怖くなったのか、僕に慈悲を求めてくるが、僕はこの嫌らしい精神攻撃の手応えを感じつつ、それを無視して一切振り返る事なく地上へと上がって行ったのであった。
地上の騎士団の建物の廊下にて騎士団長さんが、
「アルマ君…あれは?」
と言葉少なに聞いてくるので、僕は笑顔で、
「やられっぱなしは癪でしたので、『死んでも楽にはならないぞっ!』って軽い呪いの言葉をプレゼントしただけですよ。 神様にすがっても無駄だと言ってやったから心のよりどころも無くなって、これでアイツも死ぬまでの時間が不安でしょ?」
と伝えると、騎士団長さんは、
「えっ、実際に仕返しにマーキオ村の人間をどうにかするんじゃ?」
と心配するので、僕は笑いながら、
「しません、しません、そんな面倒臭い事」
と言って今回の種明かしをしてあげたのだった。
あの監獄の中には元村長の嫁さんやら親戚も居たが、全員が全員もれなく死刑になる訳ではなく、強制労働やらなんやらで生き続ける奴も居る。
そいつらにも「呪う!」と宣言する事により、今後の人生でつまづく度に【呪い】を意識し、マーキオ村の元村長の関係者は呪われているという噂でも広まれば、
『アイツ関係者は呪われているらしいから』
と人が避ける。
つまり、普通ならどうでもいいアンラッキーも全て、
『呪われているからかも!』
というスパイスにより効果が上がり、不安を拭い去る為に寄り添ったり、小さなラッキーをもたらしてくれる他者は遠くに行ってしまうという、正にそんな口先だけの呪いを先ほど掛けてみたのである。
「いゃあ~、予想以上に効いていたみたいでビックリでしたがね」
と笑う僕に、騎士団長さんは、
「デセオの奴はなんて相手に手を出したのか…」
と、自分の四男坊の行いを思いだしながら予想通りのドン引きであった。




