第13話 心の叫び
騎士団長さん達は出ていったが、僕たちの仕事は終わっていない。
調査隊のリーダーさんの指示の元で集落の焼け崩れた家の解体と、集落を守る石垣の確認に、生き残っていた家畜達の為に雨風が凌げる簡易的な厩舎を作ったりとやることは沢山ある。
そして連日、ファベルから来た職人さんやクエストを受けた僕のような冒険者の頑張りにより、開拓した土地は自分たちの所有になる条件のおかげで、住んでいた人数のわりに無駄に広い開拓村にて、1つ、また1つと崩れた家が片付き、井戸など生活に必要な設備が再度手入れされ、
『テントでも有れば集落で十分定住が出来そうだな』
というぐらいにまでになった。
すると集落の片付けを開始して一週間程で集落で一番耐火性能が高かったらしい鍛冶屋のガウおじさんの家が一緒に集落に派遣されて来た大工さんチームの手により新たな仮の村役場となっていた。
これは、この集落の開拓を続けた両親や集落の皆の気持ちを汲んでくれたお代官さまからの計らいで、特例の準開拓村とでもいうのか、所有者を失った土地を一旦集落の公共財産として、お代官様が新たに派遣してくれる予定の村長さんの管理の元で、町や周辺の村の土地よりも格安にて販売する事になったからである。
開拓村なら頑張って森を切り開けば自分の土地になるのにワザワザ土地を売るなんて変に感じるかもしれない。
もちろん今ならばこの集落でも周辺を切り開けばそれは適用されるが、ワザワザ汗水流して開拓せずとも手に入る土地が有るのなら手持ちの有る移住希望者なら飛び付いてくれると思われる。
それに、正式な村として承認される迄という期限つきではあるが、準開拓村として普通なら既に登録料無料で店を出店したり工房を構える事の出来る期間は終了していた筈のこの集落で、特例で滑り込みの無料開業期間をお代官様が認めてくれたので、普通の開拓村や出来たての村よりも条件的に飛び付いてくれる人がいるらしい。
売れた土地の代金は、村の財産として村のインフラや新たな土地の開拓に利用され、住み良くなって更に少し広がった土地も再び販売して行く分譲住宅みたいな実験的な試みの村としてこの集落は再スタートするのである。
という事でこの集落で唯一の個人での土地持ちはファベルの町で色々と手続きを済ませた僕だけになってしまった。
調査隊のリーダーさんは、
「今なら区画整理前だから同じ面積なら好きな位置に敷地を変えても良いよ」
と提案してくれたのだが、両親が必死に木を斬り倒して、頑張って切り株を掘り返して整地した思い入れの有る土地を手放したくない。
それに、もしもオルス君とルーチェちゃんが見つかった場合、指定の期間内に相続の手続きが出来ていないからという理由で二人の家の土地が転売されていて悲しむだろう。
だから、連れ去られてしまったのが何処の国の何処の町でも構わないからラブラブカップルな二人が無事に見かる嬉しい未来を信じ、もしも見つけるより先に二人が自力で自由の身となりフラっと帰ってきた時に、一発でウチを見つけてもらう為にも建物は変わったとしても我が家はあの土地に有る必要がある。
だから、
「我が家はあの場所のままでお願いします」
と伝えると、リーダーさんは派遣されて来た大工さん達に、
「ではここでお願いします」
と指示をだす。
すると大工さん達は、
「了解でさぁ! ではファベルで一番の商会の旦那様やら、でっかいワイン工房の旦那様に、迷惑をかけてしまった分最高の家を建ててやってくれって言われてますので!」
と、どうやらイノシシを擦り付けた四男坊グループの他のメンバーのパパさんからの僕個人に向けてのお詫びの品らしく、僕は、
『あぁ、帰ったら交渉を頑張ってくれた兵士長さんにご挨拶に行かなきゃな』
と思いながらも、有り難くお詫びの品を頂戴する事にした。
僕は大工さん達に、
「別に豪華なお屋敷なんて不要なので、父の木工工房と母の雑貨屋を引き継げる為の作業スペースと店舗スペースがあれば、あとは一般的な一軒家で…あっ、あとはオルス君とルーチェちゃんが泊まれる客間が有れば良いです」
とだけ伝えると、大工さん達は集落の片付けにも参加してくれており、二人が盗賊達に連れ去られたかも知れない事を知っている為に、彼らは鼻水をすすり、涙を堪えながら、
「そうだな、とっ…友達が帰って来たら、泊めてあげないとなぁぅぅ…うん、あとは任せてくれぇい!」
というと、大工さんたちの親方さんが、
「ある分の資材をチェックして足りない分はファベルの町に買いに行ける様にしておけ! おい、おめぇら春までに完成させちまうぞぉ!」
と叫ぶ。
どうやら彼らは、これから始まる冬の間もこの集落の仮の村役場で寝泊まりして我が家を建ててくれるらしい。
それにその大工さんの1人が、
「親方ぁ。 俺、嫁さんもらってここに越してこようかなぁ?」
などと言ってくれており、どうやら募集前から追加の住民が増えそうな気配であった。
予定されていた片付け作業と、集落の再スタートの下準備が終了するのに半月程かかり、風が冷たくなって来た頃に騎士団長さん達がファベルの町からと思われる馬車を引き連れて集落に現れた。
そこにはなんとお代官様であるファベル準男爵様まで居たことにより、
『は~い、お疲れ様! 居残り組を置いてそろそろファベルに帰るよぉ~』
ぐらいのノリで迎えが来たと思っていた僕を含めた片付けメンバー達は、少しザワザワしていると、そこに騎士団長さんが、
「アルマ君はこっちのテントに…」
と何やら僕を呼んでいる。
『何事かな?』
と思いながらもテントに入ると、かなり疲れた顔のお代官様が、僕に、
「幼い子供に聞かせるのは心苦しいが…」
という不穏な前振りで今回の集落で起きた出来事の真相を教えてくれたのだった。
今回の襲撃の黒幕はマーキオ村の村長であり、実行犯は村長と長年取引があった奴隷商人の手の者だという。
お代官様も今回の件が有るまで知らなかったのだそうだが、マーキオ村では村長からお金を借りて返せない場合は子供を差し押さえられて売られたり、それが嫌なら村長の指示に従うしかなくなっていたらしい。
あの村では村長に従順な村人は優遇され、村長への反逆の意志が有ると判断された村人は秘密裏に排除されるという村長ファーストな村の運営が長年続いていたのだという。
そんなマーキオ村では村長が王様以上の絶大な権力を握り、村から外部へ村人が流出しマーキオ村の内部事情が漏れない様に、村人が引っ越すことは勿論、出稼ぎも特別な条件を飲んだ者以外は原則禁止としていたそうだ。
その上、他の村などに娘を嫁に出して、そこから村の実情がバレるのを怖れて村の中での婚姻にまで村長が口を出し、逆らった場合は大変な目に合うという見事なまでの独裁っぷりなのだ。
ファベルの町に密告されるのを恐れている村長の指示で村人同士がお互いを監視し、村長のご機嫌を損ねないようにしていたのだという。
そんなマーキオ村は金、暴力、権力などの微妙で歪なバランスで何とか維持されていたところ、ウチの集落で修行をすれば神に声が届けられ、神の声が聞こえるという巫女に成れるスキルを持つルーチェちゃんが現れた事により国からの目が此方に向く事で、村長が勝手に、
『自分が動き辛くなるのでは?』
という不安や、
『格下の筈の隣の集落が贔屓されるのでは?』
という嫉妬心を抱いたという理由から、
『集落を滅ぼして巫女のガキは他国に売ってしまえば自分の今の幸せな生活は守られる!』
という身勝手でとんでもない結論を出したらしい。
たとえ前世の知識が有ったとしても、お代官様や騎士団長さん達からそんな報告を聞いた僕の中では、頭では何とか理解しようとする自分と、心ではそんな事を理解したくも無い自分がせめぎあい、全く思考が先に進まずに軽く呆然とするばかりである。
今のこの集落の状況や、僕たちのスキルについて知る事が可能な人物で、集落が襲われて安否不明になったルーチェちゃんの事を国へ報告する事をあえて滞らせていたり、隣の集落の襲撃にも助けや調査隊を出さなかった件から騎士団長さんがマーキオ村の村長を疑い、騎士団を連れて村を囲んで村長を問い詰めた結果がこのふざけた真実であったのだという。
お代官様が僕に、
「私も正式な村にはまだ成ってないからと対応が遅れてしまった…誠に申し訳ない」
と僕に頭を下げてくれたのだが、あの村長の自己満足や保身などという、そんなふざけた理由で皆が殺されて、オルス君とルーチェちゃんが攫われたなんて僕の中では何一つ納得ができずに声すら出ない。
そして、むしろ僕のグチャグチャの思考の中で怒りの矛先は、
『あの時本当に首を斬りつけてやれば良かった』
と、野生の勘に従って聖剣・正雄を抜かなかった自分にまで向かいそうで、何とかここまで我慢していた幼いガラスのハートが本当に砕け散りそうなその刹那、
『落ち着け、落ち着くんだ! 危険を侵して攫った子供を殺してしまうバカはいないぞ。 身代金を親から取るのなら交渉が難航して足がつかない様に殺す事も有るが、攫った本人が金に成るなら二人はきっと生きている!』
と僕の心が砕けて生きる意味を見失わないように、前世のオッサンの自分が必死に僕に生きる意味を示そうとして、
『生きて、稼いで、奴隷になっている二人を見つけたら、持ち主を横っ面を札束でぶん殴って二人を自由にしてやれ!』
と叫んでくれていたのだった。




