第12話 弔いの午後
集落に帰ってきた翌朝、僕は我慢出来ずに早朝から6軒しか無いのに無駄に広い集落の中で両親を一番に見つけたくて、騎士団長さんに無理を言って散歩がてら一緒に村を散策してもらった。
騎士団長さんも僕のわがままを、
「よし、何か魔物が入り込んで居ないか見回りも兼ねて騎士団で回るから道案内を頼む!」
と快く快諾してくれ、あの威張っていた四男坊のパパとは思えない程に話の解る騎士団長さんに、
『あら、嫌だ、男前…』
と少しだけトゥンクとときめく脳内会議の乙女担当の自分が居たのである。
そして荒れ果てた集落を騎士団の方々と一緒に奥へと入っていくと、集落の入り口は結構な背の高い草が生えていたが、奥に進むに連れて不思議な違和感があり、ランサおじさんの牧場の放牧地の草はあまり伸びていないのに気がつき、
『牧草ってあまり背が高くならないのかな?』
などと僕が不思議に思っていると、騎士団員さんの1人が、
「ご注意を! 何か来ます」
と警告を上げる。
すると、僕の目にも放牧地の奥に何かが動いた気がし、遠くに見える黒い影に目を凝らす。
しかし、黒い影の主は警戒をマックスにしたのかその場で動きを止めてこちらの出方を伺っているらしい。
「魔物か!?」
と、武器を構える騎士団の方々の隣にて、聖剣・正雄を抜きもせずに突っ立つ僕は、その遠くに見える黒い影に心当たりがあり、騎士団の皆さんに、
「アイツは知り合いかも知れませんので一旦武器を下ろしてくれますか?」
とお願いすると、警戒態勢のまま、
「生存者が居たのか!?」
と騎士団の皆さんはどよめくが、あれは生存しているが者ではなく【生存馬】である。
僕がアイツが子馬の頃から知っており、あちらも僕がヨチヨチ歩きのガキの頃から知っている幼なじみの雄馬で、僕が、
「お~い、グラン!」
と呼ぶと彼方は、
『エッ!?』
と遠くで警戒したまま固まっていたが、暫く考えた後に、
『エッ、マジか! マジでか!?』
みたいに変なステップをはさみながら此方に近づき、僕をちゃんと確認した途端にグランは大きく嘶くと、グランの遥か後方から数頭の牛魔物と羊魔物が現れたのである。
「他の仲間も居たんだな」
と僕は半年間この集落で生き抜いた彼らに感動すら覚え、見覚えのある模様の牛魔物や、夏場も毛を刈って貰えずに過ごした羊魔物も、グランが安心して僕に近づいて行くのを見てこちらに移動してきた。
しかしそれは僕の知るランサおじさんの農場からは考えられない程に少数の群れであった。
騎士団の1人が、
「あの軍馬の様な立派な馬魔物が守っていた群れでしょう。 牧場の草が短いのは彼らが食料にしていたからかと思いますが、どうやらあの馬だけは栄養が足りていないのか痩せていますね」
と分析すると、騎士団長さんは、
「連れてきた馬達の餌が有っただろ? 少し食べさせてやれ」
と指示を出してくれ、僕は久しぶりのグランの頸を撫でながら、
「マルジュおばさんの言いつけを守って羊の子供を守ってやってたのか? でもグランが元気じゃなくなったらランサおじさんもマルジュおばさんも悲しいとおもうよ。 騎士団の皆さんがご飯をくれるらしいからしっかり食べてね」
とグランに伝えると、賢いグランはそれを理解したのか騎士団長さん達に、
『お世話になります』
みたいに軽く頭を下げて、
「ブルン」
と静かに返事をしていた。
思ってもいない集落の生き残りとの出会いに僕の脳裏に一瞬、
『もしかして…』
という期待が過ったが、その希望は午前中のうちに完全に、1ミリの希望も残さずに粉々に粉砕されてしまう事になったのだった。
僕としても覚悟をしていたのもあり、前世の人生経験分で声をあげて泣きわめく事は無かったが、今もなお両親をはじめ皆の墓穴を掘る僕の視界は滲んでしまっている。
僕の両親は、僕を裏口から逃がす為にわざと盗賊達に目立つ様な動きをしており自宅の玄関前の庭辺りの草の中で見つかった。
長のジャッドさんは危険を知らせるためなのか近くの鍛冶屋のガウさんの家の前で見つかり、鍛冶屋のガウおじさんとペルナおばさんは火を放たれてもかなり燃え残った煉瓦作りの鍛冶工房のある家の中に重なる様な姿で見つかり、騎士団員さんも、
「旦那さんが奥さんを最後まで守ったんだろう」
と言っており、いつも僕の事を気にかけてくれていたルーチェちゃんのご両親が最後の瞬間まで仲良しだった事が誇らしくも思えた。
そして、オルゾおじさん夫婦は集落の中程の畑の辺りで別々に見つかり、ランサおじさんは厩舎から馬達を逃がしている最中に倒れたらしく、マルジュおばさんは放牧地の柵の扉を開けた所で殺されていたらしい。
グラン達はこの二人の頑張りで放牧地や裏口から森に出入り出来る事になり、飢えや渇きを何とか凌げたのだろうが、お陰で森からの魔物の侵入も許し、グランの兄弟達は皆の亡骸や残された家畜達を守る為に戦っていたのか、あの数まで減り残されたグランは四六時中気を張り続けて痩せ細ってしまっていたと思われる。
そしてキゴニスおじさんは弓を握りしめたまま集落の外の石垣の側で見つかり、近くには2つの遺骨があり、オルス君とルーチェちゃんかと思ったが、どうやら二人にしては骨格が大きく、騎士団の方々の見立てでは、
「彼が盗賊二人をここで返り討ちにした後に背後から誰かに斬られたのでは?」
と、骨に残る刃物傷の痕などから推測してくれ、キゴニスおじさんに仲間を二人殺されたからこそ、その腹いせでの放火というのが一番の納得できそうな推測で有ったのであるが、
『そうなるとオルス君とルーチェちゃんの遺体が見当たらない』
という問題にぶち当たる。
だが、調査隊のリーダーさんや騎士団長さんはこの集落の状況を見て回った結果は、
「正式な村になる直前を狙って安い税金で溜め込んでいるかも知れない金銭と、違法な奴隷としての子供狩りが狙いではないか」
というものであった。
正式な村でないうちは兵士が常駐する事もなく、無茶苦茶しても少ない村人を皆殺しにすれば訴える人間もおらず罪にすら問われない場合があるという盗賊や山賊がよだれもののレア物件なのだそうだ。
『そんな無茶苦茶な!』
とは思うが、残念ながらそれがこの世界なのである。
しかしそうなると、僕も奴隷として盗賊に捕まっていた可能性もあり、今になりゾワゾワと恐怖に襲われているが、そうなるとオルス君とルーチェちゃんの今が心配になり、騎士団長さんに僕は、
「オルス君とルーチェちゃんの二人は!?」
と聞くが騎士団長さんは残念そうな表情でゆっくりと首を横に振り、
「残念だが半年もあれば、足のつきにくい他国で売られている可能性が高い。 名前も変えられて探す手がかりは性別とスキルぐらいだろう」
というと騎士団長さんは、ハッと思い付いた様に、
「アルマ君は、その二人のスキルを知っていたりしないか?」
と僕に聞いてくる。
普通は他人にワザワザ自分のスキルを発表などしないらしいのだが、集落で育ったラブラブカップルとその友達でもある僕は何でも話せる仲だった事もあり、
「オルス君は斧のウエポンスキルで、騎士になれるなら剣じゃなくても良いと言ってましたし、ルーチェちゃんは巫女っていう職業スキルで、10歳から領都か、もしかしたら王都の学校に行くみたいな事を…」
と話していた途中で騎士団長さん達の顔色が変わり、調査隊のリーダーさんが、
「斧のウェポンスキルの少年はファベルの町にも騎士団や兵士向きな有能なスキルの保持者として名簿が有るか微妙だが、巫女の職業スキルなどという有能スキル保持者はご領主様まで報告が上がっているはずだ。 そんな少女が安否不明になった場合はすぐに報告するのが国のルールだが? 手前のマーキオ村の村長はこの集落の祝福の儀の担当もしていたはずだからそれぐらい…」
と首を傾げて、騎士団長さんは険しい顔のまま、
「確かに、そんな有能なスキル保持者ならばご領主様の伯爵領ではなく国で保護する対象…その巫女スキルを持つ少女の事を報告しない理由は? そんな有能なスキル持ちが生まれた集落は各地から注目が集まり村の活性化にも繋がるから普通は大事なはずだが…」
と呟いた後、急に騎士団長さんは、
「いや、意図的だとしたら!」
と何かにハッと気がついたらしく、隣に居た調査隊のリーダーさんに、
「ここの指揮をお願いしても宜しいか!?」
と言ったかと思うとテントの中の数人の騎士団の部下達に、
「二人ほど残して後は私について来い!」
と指示をだすと、片付け作業員としてついてきている僕たちを集落に残して馬に乗り出て行ったのであった。




