8話 咲耶の閃き
う~、お父さん、お母さん、悠太、恥ずかしいよ。
今、私は三毛猫ミケーネを抱き、10匹の猫を引き連れて、人通りの多い道を歩いて、依頼主さんの家へ向かっています。猫たちに囲まれているせいで、周囲から注目を浴びてしまい、全然落ち着きません。
こうなった原因は、私にあります。
ボス猫ミケーネの抱える《猫と人との共存関係》、私はこの悩みを解決させるかもしれない1つのアイデアを提案しました。すると、ミケーネや周辺にいる猫たち全員が賛同し、みんなで依頼人の商人さんのところへ行く事になったの。
『飼い主の財力があれば、咲耶の言った案も必ず実現できるわ。これは傲慢な願いかもしれないけれど、私は生活に苦しむ猫を少しでも無くしたいの』
ベイツさんによると、ミケーネの飼い主アマンガム・ルミングスさんは、ルミングス商会の会頭で、隣国との交易の架け橋になった功績が国王陛下に認められ、平民にとって名誉の一つとされる【家名】を贈与された偉い人間です。平民であっても、貴族と同じ【家名】があれば、貴族との面会もかなり優遇されるようです。
今からそんな大物と会い、私の企画を言わないといけないので緊張します。
「ミケーネ、私の企画が通るかわかんないよ?」
『必ず通るわ!! だって、ご主人は無類の猫好きだもの!!』
それだけで、商売が成り立つわけないじゃない。土地・建物・内装・猫用の食事・猫用玩具・人件費など、かなりの経費がかかるから、この世界で経営として成り立つのかが疑問だよ。
「咲耶、安心しろ。今、アマンガムさんは《ある悩み》を抱えている。君の考案した企画は、その悩みを完全払拭させる程のものだ」
ベイツさんから言われた事で、私の心は安心感で満たされていくけど……そのベイツさんはルウリと共に、私から5メートルくらい離れている。
「ベイツさんも、こっちに来てください。そこだと、少し遠いです」
彼は苦笑いを浮かべるだけで、決してこの中に入って来ようとしなかった。
「いや、遠慮しとく。ここからでも、猫たちの気迫が十分に伝わってくる。まあ、あと十分ほどで到着するから、それまでの辛抱だ」
恥ずかしいよ~お願いだから、早く家に到着して~~~。
○○○
商人さんの家と言うより邸に到着した途端、警備の男性が猫ちゃんたちの数に度肝を抜かれたのか、しばらく言葉を発しなかった。私が依頼の猫ちゃんを捕まえたことを話すと、警備員さんは無線のような魔道具で誰かと話し合い、話し終えると、私たち全員を敷地内へと入れてくれた。
正面に見える立派な建物の外観は、ヨーロッパ風の建築様式だ。平民なのに、こんな大きな邸に住めているのが凄い。邸玄関入口に辿り着いたけど、邸内へ入れるのは、私、ミケーネ、ベイツさんだけなので、猫たちには事情を説明する。
「警備員のおじさんが、みんなに餌をご馳走してくれるから、この付近でお利口にしていてね」
私の言葉に対して、皆が一斉に『にゃ~』と言うものだから、警備員さんを驚いている。私たちは邸内へと入り、そのまま応接室へと案内される。建物外観も立派だったけど、内装も豪華だ。ここにある家具類、相当高価だと思う。しばらくすると、恰幅のいい40歳くらいのおじさんが部屋へ入ってきたので、私はすぐに立ち上がる。
「これは、可愛い冒険者さんだ。私が依頼主アマンガム・ルミングスです」
「Fランク冒険者の咲耶と申します」
私は冒険者カードを見せると、アマンガムさんはしっかりと確認してからカードを返し、ソファーへ座るよう、優しく促してくれた。
「こちらがアマンガムさんの飼い猫、ミケーネで間違いありませんか?」
「ええ、間違いなくうちの猫です。追加事項の件に関してはわかりましたか?」
私は嘘偽りなく、ミケーネの鈴の音色に関する苦情を訴えた。
「なるほど、鈴の音色は猫にとって騒音になるのですね。ここへ戻ってくる際、鈴が取れていたこともあれば、潰されていたこともありました。あれは人からの嫌がらせではなく、自分自身で取っていたのですね。今のミケーネの表情を見れば、それが真実だとわかります。ただ、こんな猫にしか知り得ない情報を、咲耶さんはどうやって知ったのかな?」
ここは、正直に話した方が良いよね。
「私自身が、猫や鳥の言葉を理解できるからです」
「それは、スキルですか?」
「いえ、私は無能者です。証明のため、ミケーネからさっき聞いた情報を話しますね」
私はアマンガムさんに信じてもらうため、彼とミケーネでしか知りえない情報《へそくりの場所や奥さんとの馴れ初めなど》を事細かに話していくと、彼は慌てて立ち上がり、私の口を軽く塞ぐ。
「もういいです!! 咲耶さんの力は本物です!! 貴方の話を、全面的に信頼しましょう!!」
つい夢中になって、教えてもらった情報の殆どを話してしまった。
「あの…すいません。教育者のベイツさんは、口は固いのでご安心を」
「ベイツは、私のお得意様なんです。これまで護衛や指名依頼で、何度もお世話になっている旧知の間柄なので安心して下さい。彼から子供を引き取ったと聞いた時は驚きましたが、まさか動物と話し合える女の子だとは……驚きに尽きますね」
だから、アマンガムさんはベイツさんを見ても、何も言わなかったのか。
「アマンガムさん、奥さんとの甘い生活に関しては、誰にも喋らないことを誓います。それと、あの土地について悩んでいる貴方に、吉報を持ってきました」
ベイツさんはAランク冒険者、この街を拠点に活動していると言っていたから、これだけ大きな邸に住むアマンガムさんと知り合っていても不思議じゃないけど、どうしてこの依頼を受けた時点で教えてくれなかったのかな? 私の師匠だけど、教育者でもあるから、あえて何も言わなかったのかもしれない。今後も、ベイツさんを頼らず、自分の力で情報収集し、依頼をこなしていこう。
「ほう、その吉報とは?」
「それは、咲耶から直接聞いた方が良い。実に現実的な案で、彼女がいなければ、おそらく実現しません。これは、猫好きのあなたたちご夫婦にとっても、夢のような企画です」
私の企画は、癒しの喫茶店【猫カフェ】を開店すること。
冒険者たちも街の中で働く皆さんも、日頃からストレスをいっぱい溜め込んでいます。そういったものを猫たちと過ごし、身体と精神を癒してもらうことがこの店の目的です。店の中では、猫も好き放題行動できるし、猫用玩具を用意させれば、運動不足にもならないでしょう。
私が周辺に屯している猫たちを教育して、交代制で猫カフェに勤務してくれれば、そこでの食事も平等に振る舞われ、猫たちの環境も多少改善されます。勿論、振る舞われる料理に関しては、猫用と人用に分けます。店での滞在時間も制限時間付きにして、人は食事をしながら猫と戯れていく。最後に、食事と制限時間付きの料金を支払ってもらうことで、商売が成立します。
紙にまとめていない以上、私は猫カフェのシステムを、わかりやすく話していく。始めは半信半疑だったアマンガムさんも、今ではミケーネ同様、目を輝かせ、今言った内容を、ノートに必死にメモしています。
「素晴らしい!! これだ!! これですよ!! これこそが私の求めていたスタイルです!! これで、あの土地に店を開店できる!! 猫カフェは、猫と人との楽園!! こんな方法で、商売と共存できるとは思いもしませんでした!! 咲耶さん、ありがとう!!」
アマンガムさんが私の両手を掴み、ぎゅっと優しく握ってきた。彼の目を見ても、私に感謝していることがわかる。でも、今言った内容を実行するには、相当な開店資金がいるけど、大丈夫なのかな?
『楽園よ~。ご主人、その土地に楽園を作って~~。咲耶がいれば、絶対いけるわ~~~』
「何を言っているのかわかりませんが、なんとなく理解できますよ。ミケーネ、お前の望む楽園を作ってやるからな~~~」
言葉がわからなくても、アマンガムさんはミケーネの言っている事を理解しているわ。
2人して抱き合い、喜んでいるもの。




