7話 飼い猫の抱える難題
白猫さんに連れてこられたのは、街入口の大通りから少し外れた場所で、人通りも少ない。その分、猫たちにとっては居心地が良いのか、あちこちに屯している。
「ベイツさん、この街って、野良猫が多いんですね」
私が彼を見ると、どういうわけか、驚いた顔をしており、周囲をキョロキョロと見回している。
「いや、俺も初めて知ったよ。猫や鳥との会話といい、咲耶と行動していると、この街の違った一面を見せられるな」
そうなの?
しばらく歩いていくと、広い空き地が見えてきた。
『ボスはあそこにいるよ。今日も今日で、ずっとドラム缶の上で日向ごっこしているはずさ』
空き地に近づくと、1匹の三毛猫がドラム缶の上にいて、その子が万歳している格好のまま仰向け状態で寝ている。このポーズって、余程安心していないと見せないものじゃなかったかな? そういえば、依頼書に掲載されている首輪を付けてこそいるけど、鈴がないわ。
『ミケーネ~~、僕たちの言葉を理解してくれる人間の女の子を連れてきたよ~~』
ミケーネが目を開き、ゆっくりと起き上がると、背伸びをしてから私を凝視する。
『ふん、そんな人間がいるわけないでしょう。私の苦悩を解らせるため、これまでどれだけの人間に訴えてきたことか。あの鈴さえなければ、私だってご主人の元へ帰りたいわよ。あの人たちったら、どういうわけか必ず鈴の付いた首輪を、必ず私に嵌めるのよね』
ミケーネって、メスなんだね。
猫は気まぐれで、犬と違って飼い主にあまりじゃれついてこない。家の何処に隠れているのか、解らない時もある。一部の飼い主たちは、飼い猫の居場所を知るために、鈴の付いた首輪を嵌めさせると雑誌で読んだことあるけど、あれって猫にとっては迷惑なんだよね。
「鈴の音色って高音だから、貴方たちにとっては騒音になるんじゃないの? 歩くたびに、耳元で大きな音をいつも奏でるのだから、騒音以外にないでしょ?」
思ったことをそのまま口にすると、ミケーネだけでなく、周囲にいる10匹の猫たちも、とても驚いた顔をして私を見てきた。
『にゃにゃにゃ!! そう!! そうなのよ!! 私はミケーネ。貴方は私たちの言語を、本当に理解できるのね!! それなら私の抱えている問題について、アドバイスをもらえないかしら?』
飼い猫の抱える問題か、私でわかる範囲だといいけど。
「私は咲耶だよ。それで、どんな問題なの?」
『この街は、隣国と国境が近いこともあって、獣人の数も多く、居心地がとても良いの。その評判が周辺地域に広まったせいで、最近猫の移民たちが増えてきているのよ。街の規模が大きい分、野良猫たちの食糧も豊富にあるのだけど、今後が問題なの。このまま移民猫が増え続けると、人に駆除されないかと心配でね』
猫側も、人間側と同じことを考えるんだ。
何処の世界でも、そういった問題は起こるんだね。
猫たちを怖がらせないよう、やんわりと意見してみよう。
「他の動物はいないの? 犬や狐は?」
街に滞在して以降、ルウリから色々と教わった。この世界には、地球と同じ猫や犬、狐、象、ライオンといった動物が世界各地に存在しており、殆どが野生だけど、小型の犬や猫に関しては飼われている子もいる。この街だと、猫以外見たことない。
『私たち動物にも、縄張りがあってね。この街は、猫の縄張りなのよ。他の子たちは、別の街や村にいるわ。聞いた話によると、あっちもあっちで、私たちと同じ悩みを抱えているのよね』
「なるほど、動物ならではの常識があるのね。その悩みについてだけど、街内の野良猫たちが増えすぎないよう、去勢させて、数を制御するっていう話を聞いたことあるかな」
「去勢だって!?」
私の話に驚きの声を上げたのは猫ではなく、ベイツさんだ。
「猫の方は、《にゃあにゃあ》としか言わないから話題についていけないんだが、流石に話の内容が気になる。咲耶、教えてくれないか?」
ベイツさんにミケーネから言われた内容を話すと、私の言った内容に納得こそしているけど、顔色が悪い。どうやらベイツさんは、その言葉の意味を知っているようだけど、猫たちの方は反応から察するに知らないようだ。
『去勢って何?』
ミケーネに問われたら、答えるしかないけど……言い難い。
ここは、さっき知り合った雄の白猫さんに協力してもらおう。
「あのね、去勢というのは…」
私は白猫さんに協力を仰ぎ、仰向けになってもらった。そして、彼の玉を優しく掴み、手でしゅっぱと斬る行為をして、『これが去勢だよ』と言うと、猫たち全員が意味を察したのか、私から後退りする。気づけば、ルウリも私からベイツさんの肩へ乗り換えており、仰向け状態の白猫さんもブルブル震えていた。
あ、ずっと掴んだままだった!!
離すと、彼は別の野良猫の後ろに隠れてしまった。
『なあ、あるよな? 俺の玉…あるよな?』
『ある、あるよ。咲耶は、斬るフリをしただけ』
『よ、よかった~~~』
そういえば、去勢する時って麻酔で眠らせているから、猫自身は気づいてないかもしれない。
『それ、何処の街よ!! いくらなんでも酷すぎるわ!! そもそも、猫の数が多いというだけで、そんな行為をするのなら、猫より数の多い人間や獣人たちを真っ先に去勢すべきよ!!』
ミケーネは、ベイツさんを睨む。
ベイツさんも察したようで、さっと自分の大切な部分を隠す。
去勢するって言われたら、皆嫌がって当然だし、怒るに決まってるよね。
これは、雰囲気的にまずい。
私の言った内容は、あくまで日本でのこと。この世界ではそんな事をしておらず、普通に街から追い出しているだけかもしれない。
「わ…私も話を偶々聞いただけで、何処の街かはわからないの。でも常識的に考えて、そんな事を本当に実行すれば猫も死んじゃうから、多分冗談で話し合ってただけだよ。実際、私も去勢された猫を見たことないから」
『そ…そうよね。私だって、見たことないわ。そんな残酷な行為、流石に誰もやらないわよね。私はメスだけど、流石にやりすぎだと思うもの。それじゃあ、咲耶自身はどうすればいいと思う? 人と猫が上手く共存できる案はあるかしら?』
良かった、なんとか切り抜けられたわ。
私自身の考えか、う~ん……あ、あれならいけるかも!!
さっきまで震えていた10匹近くの猫たちが、私に注目している。
全員が私ににじり寄って来るよ。
これは可愛いけど、ちょっと怖い。
ミケーネの飼い主さんが商人さんなら、アレを実現させられるかもしれない。
「人と猫を有意義な関係で共存させる具体案が、一つだけあるわ。それはね……」
私が思い付いた案を語っていくと、ミケーネや周囲の猫たちが目を輝かせていき、ベイツさんもうんうんと感心している。
『それいい!! まさに、今のご主人様にうってつけの商売じゃないの!! 今すぐに、ご主人のところへ行くわよ‼︎ こっちよ、ついて来なさい!!』
え、即答で採用するの!?
私の言った案は1人でできるものじゃないし、経費だってかなりの金額になる。ましてや、商売人のご主人が賛成してくれるかもわからないから、もっと吟味したほうがいいよ。
「ベイツさん、もっと話し合った方が良いのでは?」
「いや、ここでは咲耶の言った原案だけで十分だ。ここから先は、商売のプロである依頼人に、きちんと説明しないと、先に進まないだろう」
ベイツさんが認めてくれるのなら、ミケーネと一緒に依頼人のもとへ行ってみよう。




