4話 街に到着
《契約》とは精霊契約を指しており、ルウリは私に契約方法を教えてくれた。それは、私のおでこにルウリの嘴をくっつけること。言われた通りに実行すると、接触箇所が淡く輝き、私の身体に何かが流れ込んできた。
『これで終了。気分はどう?』
「私の中に、何か流れ込んできたけど…」
『うん、それで…』
「私がおかしいのかな? 優しい何かが流れ込んできたけど、以前何処かでそれを感じたような気がするの」
自分でも言っている事がおかしいと思うけど、何故か懐かしいと感じてしまう。
『ふふふ、その感覚の正体は、時期にわかるよ。今は、気にしないでいい』
「うん…わかった」
不思議な感覚の正体が気になるけど、ルウリの言う通り、今は気にせず、脱出のことだけを考えよう。
「もしかしてとは思うが、君たちは今精霊契約を交わしたのか?」
いけない!! ベイツさんのことを忘れていたわ!!
「ルウリ、この人はAランク冒険者のベイツさん。私の命の恩人なの」
ルウリは、彼をじっと見ている。
「Aランク冒険者のベイツ、本物のようだね」
「ルウリ、人の言語を話せるの!?」
「まあね。この人なら信頼できる。僕を鑑定すればいい」
ベイツさんって、精霊にも知られている程の有名人なんだ。
でも、そんな彼を見ると、素直に喜んでいないような?
何故だろう?
「わ…わかった。ほ…本物のフェアリーバード…だと?」
ベイツさんがかなり狼狽えている。
「待て待て!! 伝説の霊鳥と呼ばれているフェアリーバードが1体だけで、何故こんな聖の枯れた樹海にいる? しかも、何故出会ったばかりの人間の子供に、契約を結んでいる? 魂がいくら綺麗でも、ありえない行為だぞ!!」
ベイツさんから放たれる雰囲気が、なんか怖くなった。さっきまでは温和だったのに、今は強者のような存在感を強く感じる。
「咲耶。これが、普通の反応なんだよ」
「そうなの?」
というか、それならどうして契約を結んだのだろう?
「ベイツ、今は答えを言えない。ここで真実を話すと、咲耶が咲耶でいられなくなるからね」
「なん…だと?」
どういう意味?
「少なくとも、僕は君らの味方さ。後になって、答えを教えてあげる。今は、ここを抜け出ることを優先させよう」
「わかった、精霊の言葉である以上、信じよう」
ベイツさんの雰囲気が、元に戻った。
ルウリへの警戒を解いてくれたんだ。
「ベイツ、僕は鳥の野生種ハミングバードに擬態している。この鳥は知能も高く、棲家とする場所で使われている人の言語を話せる者も少数いるけど、今は目立たないよう、咲耶と人前で会話する際は鳥語にしておくよ。君も、僕を紹介する場合、必ずハミングバードと言うようにね」
「了解だ。ただし、君のタイミングで構わないから、いずれは俺にも契約理由を明かしてほしい」
「了解。それじゃあ、この森から出ようか。僕の魔法を使えば、あっという間さ」
ゲームならアイテムや魔法で瞬時に脱出できるけど、ここは現実世界だ。
どういった魔法で、ここから脱出するのかな?
「ルウリの魔法属性を考慮すれば、脱出も容易か。だが、その前に咲耶にフェアリーバードのことを教えておきたい」
「それはわかるよ。咲耶は記憶喪失も影響して、この世界の常識を何も知らないからね」
ここでは、私の知る日本の常識が、一部通用しないわ。
この世界の常識を知っておかないと、街で恥をかいてしまう。
「ベイツさん、宜しくお願いします」
まず、ベイツさんは精霊【フェアリーバード】について、色々と教えてくれた。
人々から伝説の霊鳥と呼ばれている【フェアリーバード】は、数多くのスキルと魔法を扱える精霊で、別名【神の御使】とも呼ばれ、国鳥として崇められている国もある。そんな精霊と、これまで契約を結べたものは、歴史上数人しかいない。だから、私もフェアリーバードと契約を結べたことを、他者に知られてはいけないと、強く厳命された。
「僕への常識を知ったことだし、早速転移魔法でここを脱出しよう。転移先は、街から2キロほど離れた丘陵地帯だ。僕のスキルで、人が転移先にいないことも確認済みだから安心してほしい」
転移魔法!? 転移先の場所となる現在の光景も、スキルでわかるものなの!?
「転移って、瞬間移動のことだよね? そんな事が可能なの?」
「この世界では、一部の者だけが使用可能なのさ。いくよ、転移!!」
そう言った瞬間、景色が急に切り替わる。
え、もう脱出したの?
さっきまでの鬱蒼とした木々は何処に?
じめっと感じていた湿度も少しひやっとした気温も、何もかもが違うし、所々から聞こえていた雄叫びのような声も聞こえない。
「咲耶、初めての転移の感想は?」
「ルウリ、一瞬過ぎて…あ…ここから何か見える」
ここは丘の頂上付近なのか、かなり離れているけど、何かが見える。
「咲耶、あれが俺の住む辺境都市リリアムだ。俺は転移魔法を何度も経験しているから問題ないが、君の気分も悪いだろうから、ここで心を落ち着けてから、あの街まで歩いて行こう。その道中で、この国やあの街について話しておくよ」
ベイツさんの気遣いに感謝です。
正直、転移なんて初経験のため、今でも胸がドキドキしています。
○○○
私たちは丘の上で10分程休んでから、街へと出発する。
その道中、ベイツさんは国や街について、色々と教えてくれた。
私のいる国は、人間の治める【リバイブルド王国】、ここは獣人の治める隣国【ヘルハイム王国】との国境から近い位置にあるため、交易も盛んで、獣人の人口密度が他の街に比べかなり高い。
重要な交易都市でもあるため、高い城壁に囲まれており、東西南北に設置されている4つの門があり、どの門においても必ず荷物チェックを受け、身分証を見せないといけない。他にも、街内における世間的な常識について説明を受けていると、いつの間にか街の外壁部に到着していた。
「すっごい高い外壁」
さっき情報を聞いたばかりだけど、いざ実物を確認すると、すっごい迫力だ。これで魔物の侵入を防いでいるんだ。
「あの行列に並ぼう」
「はい」
6人くらいしかいないので、すぐに私たちの順番が来そうだ。
「私、身分証を持っていませんが大丈夫でしょうか?」
私だけ門前払いは嫌だな。
「安心しろ。証明書がない場合でも、三日間だけ滞在が許される。その間に、何処かのギルドで登録証を作成し身分を保証させ、それをここに報告すれば、滞在許可証をもらえる」
それを聞いて、私も安心です。
「よかった…でも、私の登録先は何処になるのですか?」
さっき、歩きながらギルドについても説明されたけど、数多くあって何処に登録すればいいのかわからないよ。
「咲耶の場合、今後街を離れる可能性もあるから冒険者ギルドだな。規則上、力量を計るための試験を受けてもらわないといけないが、君の場合は無能者だから間違いなく最低ランクのFからだ」
《無能者》か、これについても教えてもらった。
この世界の人たちは10歳になったら、教会で神からの祝福を受け、今の自分に見合ういくつかの基本スキルが与えられ、自分にしか見えないステータスプレートを顕現できるようになる。魔法に関しても、祝福以降使用可能になるけど、魔力自体は体内に存在しているから、小さい頃から魔力を循環させたり、外に放出させたりと事前に訓練を重ねておけば、魔法を習得しやすくなる。でも、ごく稀に10歳でスキルを貰えない人がいるらしく、そういった人たちのことを、《何の能力も無い者》ということで、《無能者》という蔑称が付いた。
「まだ、自分のステータスも見れませんけど、試験に受かりますか?」
私の不安な気持ちに答えてくれたのは、ルウリだ。
『咲耶の場合、魂が安定していないから、ステータス自体を見れないだけさ。そうだね……あと3日もすれば、見られるようになる。今は無能者だけど、5年以内に必ず何らかの能力が目覚める。出会った際に話した鳥の言語を理解できる以上、もしかしたら1ヶ月以内に目覚めるかもしれない』
ルウリは野生の鳥[ハミングバード]に擬態しているため、今は周囲に大勢の人々もいるため、鳥語で語りかけてくる。
「早く目覚めてほしいな」
『咲耶、普通の人より遅く現れるだけで、特別なスキルを貰えるわけではないので、あまり期待しないように』
「特別なスキルなんて望んでいないけど、私に合うものであってほしい」
多くの貴族たちは、《無能者》となった貴族や平民を差別する。この街の人たちは以前そういった人たちに助けられたこともあり、差別意識はないとベイツさんから聞いているけど、それが試験の時に、どう影響してくるのかが気になる。仮に、試験に合格しても、今の時点で小説とかに出てくる魔物と遭遇したら、勝ち目がないよ。
「ベイツさん、試験に合格しても、私は魔物と戦う術を知りません」
「大丈夫だ、そこは俺に任せろ。幸い、3日間の猶予がある。冒険者としての生きる術を、その期間内に仕込むだけ仕込み、基礎を底上げさせてから、試験に望めばいい。それに、Fランクには《魔物討伐依頼》がない。殆どが街の中での仕事だから、治安の良いこの街では、人に襲われることもないから安心して励めばいい」
それを聞けて、少し安心した。
早く一人前になって、この憑依の原因をルウリから聞こう。
私たちの順番は、30分ほどで回ってきた。警備の男性は私の服装を見て怪しんでいたけど、ベイツさんが自分の冒険者カードを見せ、私を発見した際の事情を嘘偽りなく話すと、男性も信じてくれて、私に同情してくれたのか、頭を撫でてくれた。そして、仮の身分証明書となる入場許可証を私に与えてくれた。
私にとって新たな生活が、この街の中で始まるんだ。
頑張ろう!!




