28話 リリアーナ・フェルデナンド
私の名前は、リリアーナ・フェルデナンド?
ユウキに名前を言われても、私の心は全然響かない。
彼女に言われたことで、ルウリとベイツさんも驚いているよ。
周囲が騒がしいこともあって、私たちに注目する人々がいないようで良かった。
「ルウリ。フリードは、まだ王都にいるのか?」
「いる。今、食事などで魔力を回復させているところ」
「どうする? 国がレストラン-クザンに対して動いている以上、いずれフェルデナンド家も気付き、一騒ぎ起こるのは確実だ」
国はフェルデナンド家の力を衰退させる目的で、秘密裏にクザンの各チェーン店に出向いて、食材偽装を調査する。調査が始まった時点で、従業員からフェルデナンド家に連絡が行くだろうから、新聞記者にとっては美味しい騒動が起こるのは確実だよね。
「そうだね…予想外の事態だけど、この際だから、咲耶の不安を一掃させたい。フリードにフェルデナンドを侵入してもらって、咲耶=リリアーナである証拠を掴んでもらおう」
「あいつ、絶対不満を漏らすぞ」
「そこは咲耶のためでもあるのだから、我慢してもらうしかない」
私の実家が食材偽装に巻き込まれるというのに、心が全然響かない。リリアーナの心は今も私の中にあるはず、心が砕けるほどの仕打ちを受けたと聞いていたけど……。
「ユウキ。私って、家ではどんな扱いだったの?」
「私も詳しく聞かされていないが、言ってもいいのか?」
「大丈夫!! いつか向き合わないといけないもの!!」
それに、家で神妙な気分で聞くよりも、こういった騒がしい場所で聞いた方が、ショックが少ないかもしれない。
「凄い度胸だな…わかった話すよ。10歳を迎えるまで、リリアーナは順風満帆だったが、祝福の儀で無能者と判明された。家に到着後、君は必死になって父親に、『当主様のお役に立てるよう、必死に頑張りますから捨てないで!!』と家族に訴え続けた。淑女教育を受けている以上、貴族の無能者がどんな扱いを受けるのか知っていたのだろう」
自分の父親に向けて当主様って…リリアーナは自分の迎える未来をわかっていたから、なりふり構わず、必死になって訴え続けたってことか。
「しかし、その声は家族に届かず、リリアーナは自分の部屋で、3日間の監禁生活を強いられた。その間、昼夜問わず、ずっと叫び続けていたらしい。その声も日毎に小さくなっていき、3日後部屋から出された彼女は、心を壊していたそうだ。そして、何処かに連れて行かれた。ここからは私の仮説だが、おそらく秘密の地下に連れて行かれ、そこで転移されたのだと思う」
さっきから私の頭の中に、断片的な映像が浮かんでくる。
その映像の中に、必死に家族の名前を叫ぶ私の姿がある。
私は、リリアーナ・フェルデナンドで間違いない。
部屋の中で叫んでいる内容の中に、『無能者は、15歳までには能力を開花させます!! だから、捨てないでください!!』というものがある。彼女なりに、色々と調べていたんだ。それなのに、家族はリリアーナを捨てた。
「咲耶、どうした?」
「ほんの少しだけ、記憶を断片的に思い出したよ。その情報、誰から聞いたの?」
「使用人だ。私は命令を受けた後、リリアーナの情報を当主以外から収集しておいたのさ。リリアーナは、家族のいないところで、使用人たちから可愛がられていた。しかし、監禁されて以降、当主の命令もあって、励ましに行きたくてもいけなかった。食事を出す際も、極力顔を見ないよう、そっけない態度をとっていたそうだ」
ああ、そうだ、思い出した。あの人たちは、私に何か言いたくても言えないまま、苦渋の表情で、いつも深くお辞儀をして去っていったわ。
「皆、泣いていたよ。もし、出会うことがあったら、絶対に王都に来ないよう厳命してほしいとも言っていたな」
リリアーナ、使用人さんたちからは愛されていたんだね。
「ユウキ、教えてくれてありがとう」
正直、家族とは会いたくないけど、ユウキとの連絡が途絶えている以上、家族の方から私に次の暗殺者を仕向けてくると思う。どうすれば、家族との縁を断ち切れるのだろう?
「咲耶とユウキは、先に帰っていろ。今日の猫教育は中止だ」
ベイツさんが真剣な目で、私たちに訴えてきている。
もしかして、何か起きた?
「ベイツさん?」
「騎士が俺の顔を見て、こっちに向かっている。俺とルウリから、話を聞くつもりだ」
店の方を見ると、2人の男性騎士が、こっちに来ているのがわかる。
「わかりました」
「咲耶、行こう」
私とユウキは、ベイツさんとルウリを残して、家へと帰還する。
○○○
家に帰った後、私はスキル[心通眼]を使い、ミケーネに中止を伝えると、当初残念がっていたけど、理由を教えたら納得してくれた。
『貴族が関わっているのなら、騒動が落ち着くまでは、ここへ来ない方がいいわね。貴族の連中、大人や子供関係なく、平然と野良猫を蹴る輩がいるから、私たちも嫌いなのよ』
『ごめんね。教育できない間、自分たちだけで訓練してね』
『了解よ』
私は話し終えたので、心通眼による通信を切る。ふと思ったけど、このスキルって、心を通わせれば、複数人と会話できるのでは? このスキルで、フリードとユウキと私をリンクさせて、会話できるかやってみよう。
『ユウキ、聞こえる?』
『聞こえるが、まさか心通眼でやっているのか?』
『うん。心が通じ合える者同士なら会話可能と思って、今からフリードに繋ぐね。多分、ユウキも参加できるはずだよ』
『[念話][通信]以外にも、こんなスキルが存在していたのか』
【念話】は、同じスキルを持っていれば、互いに短距離での会話が可能。
【通信】は、念話を所持しているものとは短距離、通信を所持しているものとは、長距離での会話が可能。
【心通眼】は、スキル所持者と心を通わせるもの同士であれば、長距離での会話が可能。ただし、スキル所持者からでしか、連絡を取れない欠点がある。このスキルの場合、私の心次第で、複数人との会話も可能になるはずだ。
『フリード、聞こえますか?』
『聞こえますよ。というか、これは念話や通信ではありませんね?』
『凄、わかるんだ。これは、心通眼でやっているの。新しく仲間になったユウキと3人で話し合いたいから』
1回目の話し合いだけで、瞬時に察知できるものなんだ。
『フリード、私は10歳になったユウキだ。今日から咲耶のお友達となり、パーティーメンバーとなった。よろしく頼む』
『ほほほ、どうやら成功したようですね。私はフリード、こちらこそよろしく』
やった!! 思った通り、3人での話し合いが可能だよ!!
『フリード。ユウキから、依頼者や私の名前を教えてもらったの』
『それは良かったですね。貴方の名前は?』
どんな反応をするのだろう?
『私の名前は、リリアーナ・フェルデナンドだって』
『は……はあ〜〜〜』
フリードも、ルウリたちと同じく素っ頓狂な声をあげる。
心通眼を通しているせいか、何故か耳がキーンときたよ。
『フェルデナンドですって!? クザンの出資元の?』
『うん、そのフェルデナンド』
『いやはや、世間は狭いですね。まさか、そういう繋がりがあるとは』
『次の暗殺者が来ないようにするには、どうしたらいいのかな?』
私の両親は、家に不幸をもたらす私を、転移で殺そうとした。生きているとわかれば、次々とユウキのような暗殺者を放ってくるよ。
『私の手で、その両親を殺すこともできますが?』
『私は、両親のような酷い人間になりたくない!! 正当な手段で、家族に天罰を与えたい』
『ほほほ、良い返事です。ならば、私はフェルデナンド家に侵入し、貴方がリリアーナ・フェルデナンドである証拠品を押収しておきましょう。その上で、奴らの罪を掘り起こします』
『フリード、そんなことが可能なのか? 君が強い猫又と聞いているが、相手はスキル[コントラクト]を所持している。最悪、縛られることになるぞ?』
『ユウキ、心配入りませんよ。私も、そのスキルを持っていますから』
『レアスキルなのに…』
『ほほほ、ダンジョンの宝箱から入手したのですよ。相手に悟られないよう、今から活動を開始します』
『フリードは関係ないのに、動いてもらっていいの?』
私、何もしていないよ。
『咲耶、何を言っているのです? 私は貴方の従魔です。貴方の不安を払拭させたいのですよ。まあ、9割方は私にとって、至高の食事を邪魔する馬鹿者共を葬り去りたいだけですがね』
あはは、後半が本音だよね。フリードらしいよ。
『わかった、任せるよ』
私だけ蚊帳の外で、複雑な気分だけど、私は私のできることをやっていこう。




