26話 原点回帰の真価
悠太のおかげで、壁を突破できた。
あとは、実際に試すのみだ。
でも、どれだけの魔力を消費するのかわからない。
「ユウキさん、謎が解けたと思います」
「本当か!!」
彼女は驚いて、ガバッと立ち上がる。
「おいおい、考え始めて、5分くらいしか経過していないぞ」
「そうだね。咲耶、君の考えを聞かせてよ」
ベイツさんとルウリも、不思議に思っているので、私の仮説を公表しよう。
「原点回帰は無生物限定とされていて、判別は魂の有無となっています。そして、このスキルを使用すると、四角形のカーソルが表示され、私の意志で、対象の変更が可能となります」
みんな、真剣な表情で、私の発表を聞いてくれている。
なんか恥ずかしいけど、最後まで言おう。
「問題は、このカーソルの指定方法です。人や物を見ると、カーソルがそれらを囲いますけど、私の認識次第で、人や物の一部分をカーソルで囲うことができるはずです。ユウキさんに原点回帰をするのなら、頭と胴体と2つに分けてやれば、それらは無生物判定されると思います」
これが私なりに考えた設定の抜け穴だ。
そこを通せば、成功するはずだよ。
私の言った盲点が正しかったのか、彼女は目を見開き驚く。
「そうか……頭、首、胴体、それぞれなら、無生物として認定されるかもしれない。そこは、盲点だったな」
理論上、これで上手くいくはずだ。
各パーツだけで見れば、それは生物と言えないのだから。
ユウキさんは契約の影響で、依頼者に関わる情報を言えないよう制限されていると言ってたよね。どこまで制限されているのかわからないし、質問に関しても、依頼者に関わらないよう、断片的に聞いていこう。今思ったことだって、質問として口にしたら、それだけで彼女の中にある[コントラクト]が反応するかもしれない。出会った直後に彼女から年齢を聞いているから、奇妙な質問で察してくれるとありがたいです。
「ユウキさん、現在の年齢は?」
私の唐突な質問に対して、彼女はハッとした顔になり笑ってくれた。
「15歳」
「縛られた年齢は?」
この質問なら色んな意味もあって、コントラクトに関わる内容に入らないよ。
「11歳」
これで、原点回帰の条件が揃ったけど、あとは本当に実行できるのか、どんな副作用があるのかが問題だ。ここからはルウリに副作用のことを言って、その先のことを聞けるか聞いてみよう。
「ルウリ、これでユウキさんに対して、原点回帰を使えると思う。ただ、身体と一緒に記憶も戻戻るかもしれない。こればかりは、試さないとわからないわ」
ルウリは黙ったまま、私をじっと見る。
「ふふふ、正解だ。よく、辿り着いたね」
「やった!!」
悠太のおかげだ!! トランプのババ抜きをやっておいて良かったよ!!
「ルウリは私のスキルに対して、どうしてそこまで詳しくわかるの?」
「ベイツの持つスキル[鑑定]は、ステータスの情報しか教えてくれないけど、その上位[解析]は、スキルの及ぼす効果を全て教えてくれるんだ」
なるほど、だから私に色々とアドバイスできるのか。
「咲耶が気づいてくれて良かった。ルウリから答えを聞いていたから、内心ずっとハラハラしていたんだ」
ベイツさん、やっぱり答えを教えてもらっていたんだ。
「さて咲耶。君の聞きたい副作用だけど、ステータスを覗いてごらん」
ステータス?
「わかった」
スキル《原点回帰》 *無生物にのみ有効(判定は魂の有無)、消費魔力1~
指定した物品の時間を巻き戻し、再利用が可能となる。限界まで戻すと、物品は分子レベルにまで分解されるので注意すること。
【巻き戻したい時間】
【指定対象の規模、希少性】
以上2点に依存して、消費魔力が増大していくので注意すること。
※潜在性の一部を解放させることに成功
生物であっても、パーツ分けすることで、時間を巻き戻すことが可能となる。通常、身体や経験、記憶全てが巻き戻ることになるものの、対象者の意志の強さ次第で、一部を保持することが可能。
スキルの説明欄が増えている!!
「ルウリ、副作用に関してもわかったよ!!」
「それは良かった」
これで原点回帰を使えるけど、問題は今の私の魔力量で足りるかどうかだ。
「ユウキさん。貴方は11歳で契約しているので、10歳まで時を戻します。ただ、副作用として、記憶や強さも10歳に戻りますが、それらは意志の強さ次第で、引き継ぎ可能です」
「わかった。せっかく咲耶たちと出会えたのだから、記憶と強さに関しても、必ず保持してみせる。奴らに利用されるのは、もう嫌だからな」
彼女は、優しい目で私を見つめてくれている。
偽りなのかはわからないけど、私はその言葉を信じたい。
どうか、記憶を保持できますように!!
神様、倫理に背く行為かもしれませんが、私はユウキさんを救いたい。
どうか、この願いが叶いますように!!
スキル発動!!
ユウキさんのパーツを頭と胴体に分ける。
《頭》希少性:D 規模:小
《胴体》希少性:D 規模:小
[希少性:D]って、これ、どう受け取ったらいいの?
パーツ分けした影響かな?
《巻き戻し時間:5年》
これで、消費魔力はいくらになるだろう?
《消費魔力:3650》
ギリギリ足りているけど、これって1日あたり1しか魔力を消費していないってことだよね? パーツ分けしているから、無価値なものとして考えられているのかな? 私としてはありがたいけど、なんか複雑な気持ちだよ。
「咲耶? どうした?」
「あ、いいえ。消費魔力は3650。私の現在の魔力が5000なので、スキル使用可能です」
「本当か!? やった。あとは、私の意志次第か。任せろ、やってくれ」
「わかりました、行きます!! スキル発動!!」
ガブリで起きた時と同じように、ユウキさんが半透明の円形のシールドに覆われて、宙に浮く。
「ユウキさん、完了まで1時間かかるので寝ててください」
彼女は宙に浮いていることに戸惑うも、慣れるためか目を閉じる。
「いや、それだと意志を保てない。1時間、この状態のまま耐える。私のことは気にせず、別のことをしていてくれ。今わかったが、記憶を抜き取られるかのような奇妙な感覚がある。負けないよう集中したいから、1時間私に話しかけないでくれ」
そう言われても、ここはリビングだし、どうしよう?
「咲耶、ここはベイツに任せて、部屋へ移動しよう。1時間もあるのだから、今のうちにフリードに近況を聞いてみよう」
「あ、そうだね!!」
フリードはフリードで、証拠資料を置く任務で、転移で王都へ移動してくれている。
あっちは、どうなっているのかな?
○○○
私とルウリは部屋を移動して、契約時に取得したスキル[通信]で、フリードに連絡を入れる。これって短距離でしか会話できない念話と違って、契約した魔物や精霊だけなら、どこにいても連絡可能だ。私の場合、そこに[心通眼]もあるから、一方通行とはいえ、私と心を通わせた動物であれば、誰とでも距離関係なく、お話しできるから超便利だよ。
『フリード、そっちの状況を教えて』
『私も聞きたい』
『ルウリと咲耶ですか。夜明け前、国王のベッドに、証拠資料を置いておきましたよ。国王は起床後に資料を読んだことで大慌てとなり、宰相や大臣といった重鎮を集めて、先ほどまで緊急会議が開かれていました』
ああ、やっぱり大変なことになっているんだ。
『どうやら、クザンの出資元であるフェルデナンド家当主は、相当なやり手のようですね。大きな力を持ちつつあるあの家を、どうやって衰退させるかを、重鎮たちは皆悩んでいましたよ』
『フリード、結論はどうなったの?』
『結論としては、フェルデナンド家に気取られないよう、全店舗に対して、国からの強制監査を、朝の営業前に実施する運びとなりました。実施日は今から2日後、当然、リリアムの街にもやって来ます』
『面白いことになったじゃないか。あとは、監査する人たちが証拠を見つけてくれるかどうかだね』
ルウリは上機嫌になっているけど、私としてはもう襲撃されないことを祈るだけだよ。
『リリアムの街のクザンは閉店確定ですが、この2日間だけは要注意ですよ。今後、リットたちが襲撃される可能性も、ゼロではありません。念のため、ルウリは分身体を飛ばして、襲撃に備えてください』
『大丈夫、もう分身体を2体飛ばしている。店側の方だけど、分身体が店の従業員になりすまして、治安騎士たちの詰所に駆け込んで、店内が荒らされたことを言っておいた。今、店周辺が大騒ぎになっているよ』
『ほほほ、抜け目ありませんね。それなら大丈夫でしょう。監視者の方は、どうなっています?』
フリードがユウキさんのことを尋ねてくれたので、私はこっちの状況を伝える。
『あのね、今原点回帰を使って、監視者のユウキさんの時間を10歳まで巻き戻しているの』
『おや、スキルの潜在性に気付いたのですね。それは、おめでとうございます。それならば、もう我々にできることは、監視程度ですね』
『フリード、何か変化が起きたら、こっちに連絡してよ』
『了解です、ルウリ』
ふう〜これで一安心だ。
あとは、ユウキさんの結果待ち…ってあれ?
なんか、急に身体が重く…すっごい倦怠感が私を襲ってくる。
これ…何?
意識が…段々遠く…なる。




