25話 監視者との話し合い②
私とルウリがベイツさんの家に到着すると、丁度リットたち家族が家から出てくるところだった。
「リット、ベイツさんに言えた?」
「咲耶、おかえり〜。ちゃんと御礼を言ったよ〜」
リットとミントさんは笑顔だけど、アルドさんだけがなんだか暗い。
何か言われたのだろうか?
「咲耶、ルウリ。今回は、本当にありがとう。自分の余計な一言が原因で、まさかこんな事態を引き起こすなんてな。ベイツにも言われて、今更になって、実感が湧いてきたよ」
アルドさん、その様子だと、かなりこっぴどく怒られたんだね。
存在感が、いつもより小さく感じるよ。
そんな様子を見かねたのか、ミントが少しだけ笑う。
「アルドったら、昔から余計な一言を言っちゃうせいで、時折お客様からも怒られることがあるの。ベイツさんに、その件も合わせて散々言われたことで、きちんと反省してくれたわ」
この様子だと、もうその余計な一言は言わなそうだ。
「アルドさん、今後は注意してくださいね」
「あははは。お父さん、咲耶にも怒られてる」
「申し訳ない。今日から、心を入れ替えます」
リットとミントさんが、元気のないアルドさんを引き連れて、定食屋ガブリへと帰っていった。
「咲耶、今度はあの監視者との話し合いだ」
「うん」
私は心を引き締め、家へと入ると、ベイツさんと知らない獣人の女性が私を出迎えてくれたのだけど、知らない人なので、私の頭の中ははてなマークでいっぱいです。
「もしかして、私の監視者さん?」
「そうだよ。家の中だから、あのコート類やマントは、咲耶の部屋に置かせてもらっている」
ほえ〜、この綺麗な獣人女性が監視者さんなんだ。
耳と尻尾の形から見ると、狐さんタイプかな。
ベイツさんがテーブルに飲み物をセッティングしてくれたので、ベイツさん、その隣に監視者さん、その対面に私が座り、テーブルの上にルウリが立つ。
ベイツさんもルウリも、言葉を発しようとしない。スキルの隠された機能を使うには、スキル所持者が、自分でスキルの扱いに気づかないといけない。もしかしたら、ベイツさんも、ルウリから答えを聞いているのかもしれない。
だから、何も言わないんだよ。
私とユウキさんだけで、話を進めなさいということだ。
「改めて自己紹介しょう。私はユウキ、15歳。これは、既に他界している両親から名付けられた正式な名前だ」
それって、今は別の呼び名で呼ばれているってこと? そっちを言わないということは、相当嫌っているということだ。
「咲耶です。記憶喪失なので、本当の名前を知りません。ユウキさん、私の本当の名前を知っていますか?」
「勿論知っているが、依頼者に関わる情報を言えないよう制限されているんだ。すまない」
「いえ、私にとっては、どうでもいいことなので大丈夫です」
「あはは、嘘を言ってないね。君に、好感を持てたよ」
ユウキさんは、優しく微笑む。
私も、ユウキさんに好感を持っている。
監視者さんだから、もっと陰険な人なのかなと思ったもの。
「ユウキ、君はどうするのか決めたのかな?」
ルウリが、唐突にユウキさんに迫る。
もう少し場を和ませてから、本題に入ろうと思ったのに。
「勿論さ。咲耶に迷惑かけるかもしれないが、私に原点回帰を使ってほしい」
「ええ!? でも、まだ…」
ルウリに言われてから考えているけど、どうやって生物に使えるのかわからないままだ。
「わかっている。焦る必要はないよ。依頼者には、適当に誤魔化しておくから」
「ありがとうございます。なんだか壁にぶつかっている感じで、ステータスを見ても、どんな抜け穴があるのかわからないままなんです」
あの矛盾を、どうやって覆すのか、名案が全然浮かばない。
「そういう時は、過去を振り返るのが一番いい」
「過去?」
「そうさ。何気ない他人からの言葉が、《常識》や《思い込み》という壁を壊す突破口に繋がる」
なるほど、過去を振り返るか。私の場合、過去となると、前世にあたるけど、こういう壁を感じている時と似たようなことってあったっけ?
常識や思い込み……そういえば、一時帰還時に家族とトランプのババ抜きで遊んでいた時、悠太にも似たようなことを言われたような気がする。
『姉さん、一枚だけ上に出していたカードが安全牌とは限らないよ』
『う、でも普通はそう思うじゃない』
『そういうのを《思い込み》っていうのさ。これは、駆け引きに相当するんだ。姉さんは冒険者なんだから、今後そういった思い込みに注意した方がいい。特に、ステータスに記載されている情報を、安易に信用しちゃあいけない』
『え、なんで!? 神様の考えたものだから、絶対正しいでしょ?』
『それこそが思い込みで、機能を制限されている可能性が高い。スキルを入手したら、非常識に考えて何でも試した方がいい』
非常識に考えろ……か。
そういえば、《魂》って、何を基準にしているのだろう?
魂を宿すものが生物?
その生物の概念の区切りはどこにあるのだろう?
猫や犬などは、魂を宿す生物と言われたら理解できるけど、蟻や蚊、微生物って、魂が宿っているの? あれも、生物の一種だよね?
私が真剣に考え込んでいると、ユウキさんの声が不意に脳内に聞こえてきた。
『咲耶は良い子だな。こんな子供を殺せないよ。むしろ、この子を殺せと命令を下した実の父親となる伯爵を殺したい。こんな子供を無能者だからと言って、霊峰スムレットへ捨てるなんておかしい。誰か、あいつらに天罰を与えてほしい』
何、これ? これって、まさかスキル[心通眼]の効果?
私がユウキさんに同情しているから、互いの心が通じ合い、心の声が聞こえるようになったの? 冒険者登録の時も、アメリアさんの次の一手や動きに関しても、途中から少しだけわかった。説明欄にも色々と応用可能だけど、活かせるかどうかは私次第とも記載されていたわ。
「ユウキさん。試したいことがあるので、しばらく黙っていてね」
「わかった、焦る必要はない、ゆっくり考えてくれ」
互いの心が通じ合えるのなら、もしかして離れた距離であっても、会話を交わせるんじゃないかな?
とりあえず、通信できるか試してみよう。
フリードやルウリだと、契約の関係で、区別がつかない。
会話相手は、猫たちの中でも、一番絆の深いミケーネにしよう。
私は、ミケーネと出会って以降の事を強く思い浮かべる。
『ミケーネ、ミケーネ、咲耶だよ、聞こえる?』
お願い、ミケーネ反応して!!
『なんにゃ!? いきなり咲耶の声が聞こえたわ』
『やった、聞こえた!! 今、練習でスキルを使っているところなの』
『え……それじゃあ、私はこの溜まり場にいない咲耶と話し合っているってこと?』
溜まり場…あ、猫たちの教育があったことを忘れてた!!
『うん、私から話しかけないと発動しない…と思うけど、これからはいつでもどこでも会話できるよ』
『それ、凄いわ!! 一方通行なのが残念だけど』
『そこは仕方ないよ。それでね、今ちょっと立て込んでいて、朝の教育が出来そうにないの』
『なんですって!? 皆、楽しみにしているのに』
『ごめんね。昼からやりたいと思っているけど、いつから始められるかわからないの。だから、時間が決まり次第、ミケーネに連絡するわ』
『急なお仕事が入ったのなら仕方ないわね。私から、他の猫たちに伝えておくわ』
『ありがとう、お願いするわ。それじゃあ、一旦切るね』
『了解よ』
よし、成功した!!
絆が深ければ、スキル《心通眼》で遠距離通信できるわ。
【ステータスの説明を鵜呑みにするな】
悠太の言葉を信じ、物事を非常識に考えよう。
私は、自分の両手をじっと見つめる。
例えば、私の手だけを見た場合、これは生物と言えるのかな?
魂を宿すと言えるのだろうか?
常識と思い込み……そうか!!
もしかしたら、これならいけるかもしれない!!




