21話 真夜中の襲撃 ※視点 ベイツ
ルウリからの突然の提案、俺は戸惑ったものの、先程の言い方から察するに何かあると思い、咲耶に宿泊許可を出す。ルウリが咲耶の護衛としてついていくことになり、家の方向が違うこともあって、咲耶やリットたちとは途中で別れた。今、俺は仲間になったばかりのフリードと共に、家に帰るふりをしている。
「ここまで来ればいいだろう。フリード、突然提案した理由を話してくれないか?」
「貴方が怪しむのも当然ですね。夕食中暇なので、私は店の敷地内を、ルウリは周囲を警戒していました」
何処で何が起こるのかわからない不安は、誰しも持つものだ。咲耶の場合、貴族が絡んでいる可能性が高い以上、既に何者かが監視している可能性も否定できない。2体は彼女のことを思い、行動を起こしていたのか。
「当初、店内に異常はなかったのですが、ルウリの方で問題がありました」
周囲に、問題か。
「何者かが、店を見張っていたのです。そして、咲耶が出てきた時。その者の視線は、彼女に向いていました」
「いつから監視されていたか、わかるか?」
やはり、監視者が出現したか。
俺も注意を払っていたが、視線には気づかなかった。
「仲間になって以降、私も周囲を警戒していました。猫カフェ建築予定の場所からここに到着するまで、そういった視線はありません。あなた方が店に入ってから、あの者は現れたのです。少々息を切らしていたので、慌ててここまで来たのでしょう。現在は、動く様子もないので放置です。今、解決すべき問題は、私の方ですよ」
フリードの方だと? そうなると、店内で何か起きたことになるが、至って平和だったぞ?
「外側の敷地内は異常なしだったので、私は外壁の通気口を見つけて、そこへ忍び込みました。しばらく通気口を散策していると、店側の総責任者らしき男のいる部屋に到着しました」
フリードの大きさは、街にいる猫たちと同じくらいだ。気配遮断や隠密などのスキルを使えば、そういった侵入も可能だが、咲耶のためにそこまでするとは。
「しばらく監視していると、1人の従業員が慌てて、その部屋へ入ってきたのです」
「従業員が? 妙だな、騒ぎなど1つもなかったぞ?」
「その時の会話が、こんな感じです」
『店長、大変です!!』
『騒々しい、どうした?』
『定食屋ガブリの店主アルドが、材料の違いに気づきました』
『なに!? あれだけ似せたのに、見破ったのか?』
『明らかに、呟いていましたよ。通報されたらやばいのでは?』
『当たり前だ!! 領主やフェルデナンド家に通報されたら、監査が入る。証拠がなくても、それだけで風評被害となって、売り上げが落ちる。最悪、全員が総入れ替えだ。おい、アルドの連れの客は?』
『奥さんと娘さん、Aランクのベイツ、その教え子の子供です』
『今、有名になりつつあるあの子か』
『どうします?』
『今夜、アルドの家族だけを誘拐し、街から離れた森の中で殺し、火魔法で処分する。行方不明で遺体も見つからないとなれば、ベイツも我々を疑わないだろう。私が、今から闇ギルドへ行き依頼してくる』
『わ、わかりました。お気をつけて』
アルドの放った一言で、そこまでの行動をとるということは、あの言葉は正しいことを意味している。
「つまり、この店の連中は、食品を偽装しているのか?」
「そのようですね。部屋に侵入して、証拠資料を捜索し奪いたかったのですが、流石にそんな時間は残されていませんでした」
レストラン[クザン]は、王都の貴族フェルデナンド家が出資し、経営にも加わっていると聞く。新規開店して1ヶ月も経過していないのに食品偽装となると、始めから偽装した上で、営業しているのか。会話内容から察すると、フェルデナンド家は偽装を知らないようだ。
「今夜、奴らはリットたち家族を誘拐します。貴方は、どうしますか?」
「撃退するに決まっているだろ!!」
「ならば、今のうちに役割を分担しておきましょう。ルウリと貴方は、定食屋ガブリの護衛、私はレストラン[クザン]に侵入し、証拠を奪います」
なるほど、それは良い案だ。実際、フリードは店内に容易に侵入できたのだから、スキルを駆使すれば、証拠類を奪うことも可能だろう。
「奪った資料については、どうする?」
「私は、ルウリと同じ転移系魔法の使い手です。王都に転移し、フェルデナンド家の当主の机にでも、資料を置いておきますよ」
「ここから王都まで、かなりの距離がある。魔力が保つのか?」
《転移魔法》、指定した転移位置への距離が遠いほど、魔力の消費も激しいと、以前聞いたことがある。フリードといえど、あの距離を一瞬で転移できるとは思えん。
「ほほほ、ご安心を。ルウリとは真逆の闇系統の転移なので、世界が闇に覆われている間、魔力の消耗も少ないのです。とはいえ、1回の転移では行けませんがね」
転移魔法って、空間属性だろ? そこに、光と闇がどう関わってくるんだ? もう日も暮れて、完全に夜となっているが、この闇と転移の関係性がわからん。
「わかった。そっちは任せる」
「ああ、それと言い忘れていましたが、私とルウリはスキル[念話]と、その上位[通信]を習得しているので、遠距離通信が可能です。後程、ここでの内容を伝えておきます。貴方とルウリは、リットたちと咲耶を守ってください」
「了解だ」
俺はフリードと別れ、定食屋ガブリへと向かう。
アルドの言った一言のせいで、俺たちは忙しい夜を迎えそうだ。
○○○
フリードと別れ、定食屋ガブリを中心に時間をかけて、ゆっくりと念入りに周囲を探るも、奇妙な気配は1つだけしか感じない。
ここから見えない位置に1人いる。
そいつが監視者だろう。
気配も魔力が微力にしか感じないとなると、かなりの強者だ。ルウリやフリードの言った通り、動く気配が全くない。おそらく、奴も俺やルウリの存在に気付いている。警戒は解けないが、今は襲撃の方に気を向けるか。
街灯があるとはいえ、昼と比べると、周囲もかなり暗い。
周辺に飲み屋があることもあり、賑やかな声があちこちから聞こえてくる。
闇の連中の性格次第で、こういった声に紛れて襲撃に来るものと、声が完全に途絶える深夜に襲撃してくる場合がある。アルドとミントは明日のうちに、買い出しや仕込みもあるから、もう咲耶やリットと共に寝ているはずだ。襲撃側がそういったことを見越して行動しているのなら、そろそろ現れてもおかしくない。
「うん、あれはルウリか?」
家の窓が少し開き、小さな何かが俺の方へ向かってくる。
「待たせたね、ベイツ。フリードから聞いているよね?」
「ああ、厄介な事になったな」
「本当だよ。咲耶たちには何も言ってないから、全員熟睡中さ」
「それでいい」
「それじゃあ、襲撃の時間まで身体を研ぎ澄ませようか」
「ああ」
俺とルウリは、咲耶とアルドたちを誘拐しにくる奴らを潰すため、家と家の間にある細い路地へと移動し、闇夜に紛れ、身体を研ぎ澄ませていく。
「来たな」
「来たね」
どのくらいの時間が経過したのかわからんが、俺は立ち上がり、ルウリは空へと羽ばたく。襲撃者は4人、うち1人は少し離れた位置から様子を見ている。
「ベイツ、奥に身を秘めている奴がボスだ」
「関係ないさ、全員捕縛するのだから」
「言えてる」
俺は剣を抜き、細い路地から抜け出すと、襲撃者たちも気付いたのか、短剣を抜いて、一気に距離を縮めてくる。だが、俺ばかりに気を取られ、ルウリの存在に気付いていない。俺は今のうちに、周囲に結界を施す。
「ダークプリズン」
こいつは闇属性の牢獄結界だ。
結界内では、闇以外の魔法効果を弱体化させ、吸収させることもできるし、内から外へ出て行けない仕組みになっており、音を完全に消しさる。
ただ、外からの攻撃は素通りしちまう欠点がある。
本来は、悪人捕縛用に使うものだ。
まあ、襲撃者を家内に侵入させるつもりはないがな。
アルドたちが目覚めないよう、結界で家を完全に覆うよう張っておく。
「雷槍-三又の槍」
ルウリが俺の知らない雷魔法を、上空から襲撃者3人に放つと、音も無く、目にも止まらぬ速度で、奴らの腹をぶち抜き、雷が身体内を駆け抜けると、叫び声を上げることなく、地面に倒れる。
「おいおい、俺の出番なしかよ」
「ごめんね、こいつら思ったより弱かった」
いや、俺の鑑定では、こいつらはBランクの力量を保持している強者だ。俺とて、油断すればやられるだろう。それを、周囲に気づかれぬよう、一撃で倒すとは。これ、結界を張った意味がなかったな。
「さて、残りは…」
残り1人は場所を移動したのか、逃げようとしているのか、距離が少し離れている。
「邪魔だ、どけ!」
「わ、こっちに来るな、馬鹿!!」
「ち、協力者か。死ね!!」
「ああ、もう知らん!! あっちに行け、トルネードブロー」
なにが起きている? 女と男が言い争っているような?
「ベイツ、回避して!!」
「うお、なんか飛んできたぞ!!」
俺の方に何か飛んで来たから、咄嗟に回避すると、それはガブリの入口をぶち抜き、店内へと入っていった。俺の結界で音こそ消えているけど……これ、やばくないか? 店内に入ると、男が気絶しており、テーブルや椅子が割れて散乱しており、店内が大変な事になっている。外に出ると、ルウリがフードの被った人物を光の縄で捕縛しており、そいつは必死に逃げようともがいている。
「なんだ、これ!? 全然、壊せない!!」
この声、女か。
「ベイツ、こいつがそこの男を殴った。そして、監視者でもある」
「はあ!?」
この声、言い争っていた女のものと一致する。
ルウリは襲撃者との関係性を疑い、捕まえたのか。
「とにかく、事態を収集させたいから、咲耶だけを起こそう」
「咲耶だけ?」
「彼女のスキルを使えば、この場を誤魔化せる」
あ、原点回帰か!!
説明通りなら、壊れた物品類を復元できるはずだが…本当にそんなことができるのか?




