15話 家族からの贈り物
私の意識が覚醒していく。
ぼやけていた視界が明瞭になり、はっきりと今いる場所が、ベイツさんの用意してくれた私の寝室であることを頭で理解する。
部屋は薄暗いけど、窓から漏れ出る光で、外が明るいとわかる。ステータスに表示されている時刻は、朝6時21分だ。私はすぐに窓を開け、周囲の景色を確認すると、そこは間違いなく、異世界アステリアスのリバイブルド王国リリアムの街のいつもの見知った光景なので、ほっと安心する。
次に、自分の顔を鏡で確認すると、そこにはプラチナブロンドの髪色をした碧眼の可愛い女の子が映っている。この世界に来た当初は違和感を感じ、かなり混乱したけど、今はこの姿に戻れていることに安心している自分がいる。私自身が前世の死を受け入れたことで、魂が安定したのかもしれない。服装は冒険者服のままなので、私は身だしなみを整え、自分の部屋を出てリビングへ向かう。そこには朝食を用意しているベイツさんがいて、テーブルの上にはルウリがいる。
「ルウリ、ありがとう!! 家族と再会できて、いっぱいお話しできたよ!!」
「それは良かった」
早速、ルウリの正体について聞いてみよう。
「ルウリって、お母さんが昔飼っていたルリルリなの?」
「当たり。僕はね、精霊としての力を使って、彼女-香澄の夢の中に入って、偶に話しかけていたのさ。ある時、彼女の子供が災害で死んでしまい、その魂と記憶を維持させたままこの世界の人間へ転生させたことを、神様から告げられた。その時は残念に思っただけで、君に会いに行くつもりはなかった」
前世の私の記憶は、あくまでバックアップ。ルウリが今世の私と出会い、前世のことを告げたとしても、肝心の私が理解できないだろうとわかっているから、会いに行かなかったのね。
「でもね、つい最近になって、状況が変わった。神様から『このままでは、転生前と同じ悲劇を辿るでしょう』と聞かされた時、僕もかなり焦ったよ。場所を聞いて急行すると、君はベイツに助けられていたから良かったけど、状況的に考えて、バックアップ機能が発現すると思い、ずっと木の上から君を見守っていたのさ」
ルウリには、そんな経緯があったのか。
「前世、僕は香澄のおかげで、幸せな鳥生を送れた。咲耶の魂を見ると、質・匂い・色、全てが母親と似ている。だからこそ、僕は君と精霊契約を結びたかった。香澄への恩返しもあるけど、君のことをもっと深く知りたいと思ったのさ」
涙が出てくるよ。
私、転生しても、お母さんから守られていたんだ。
お母さんがルリルリを大切に飼っていたからこそ、ルウリが私を助けてくれた。ルウリを見ていると、どこか懐かしい感覚があると思っていたけど、それはルリルリだからなんだね。
「咲耶、今の気分はどうだい?」
「もう家族と会えないのは悲しいけど、不思議と全然未練がないの。この身体に対する違和感も無くなったわ」
ベイツさんは、ルウリから私の事情を聞いていたこともあって、何も言わず優しく柔らかに笑ってくれた。まるで、お父さんのようだ。
「おめでとう。君の魂が、今の身体に完璧に定着した証拠だね」
「でも、ここで生きた10年間の記憶を失ったままなんだけど戻るのかな?」
前世のことは全て吹っ切れたけど、今世の自分に関しては、何一つ思い出せない。
「それは、僕にもわからない。前世の記憶と人格が表に出てくるほど傷ついている以上、もしかしたら二度と戻らないかもしれない」
二度と…か。それならそれでいいかもしれない。
今の両親によって名付けられた名前なんて、知りたいとは思わないわ。
「ルウリから、君の事情と《無能者》の真実を聞いたよ。いやはや…まさか前世の記憶持ちとはね。不慮の事故、しかも10歳という若さで亡くなっているのなら、ルウリが心配するのも当然だ。ルウリの前世を考慮すると、なんだか運命的なものを感じる」
ベイツさん、私が前世持ちだって知っても、いつも通りの対応だ。
よかった……少し不安だったもの。
「そういえば、30分くらい前に寝ている君を見た時、大きな箱が部屋の隅に3つもあったんだが、あれはなんだ?」
「え!?」
ベイツさんからの言葉に、私は驚きを隠せない。
あの3箱がこっちに運ばれているの!?
「お父さんが冗談半分で用意してくれたお土産なんですけど、まさかこっちに運ばれているとは思いもしませんでした」
部屋の隅に置かれていたせいで、私も気づかなかったよ。
「お土産? どんな物が入っているんだい?」
「聞いた限りだと、猫と鳥用の餌・おやつ・玩具類ですね」
「てことは、地球の日本で販売されているものじゃないか!?」
あれ?
ベイツさんだけが驚いているわ。
ルウリは知っていたんだ。
私だけ、こんな好待遇で良いのかな?
「ふふふ、神様からのお詫びさ。前世持ちの境遇の中でも、咲耶だけが前世今世共に、不憫な結末になってしまったからね。今回限りの特別措置だと思えばいいよ」
それって今世の私も、10歳で死ぬに等しい行為を受けたからなの? せっかくの神様からの特別措置、これらに関してはありがたく受けとった方が良いよね。
神様、ありがとうございます。
「よし、もうすぐ朝食もできるから、それが済んだら中身を拝見しよう。異世界の品物なんて、俺も始めてだ」
私もルウリも納得し、テーブルへと移動する。
朝食を早く食べて、中身を確認しよう。
○○○
私たちは、ベイツさんお手製の朝食を早々に食べ終え、荷物の置かれている私の部屋へ行き、丁寧にテープを剥がし、中身を1個ずつ床へ置いていく。
1箱目には、ルウリ用の餌類や高級な鳥籠があり、2箱目と3箱目には猫用の[ペロチュール][キャットフード][缶詰][トイレ用猫砂][玩具類][猫関係の本]などがぎっしりと詰められていた。ベイツさんが玩具の箱を持ち上げ、まじまじとイラストを見る。
「こいつは驚いた。何か文字が書かれているようだが、俺には全く理解できん。だが、絵を見ただけで、これらがどんな物なのか推測できる。なるほど、文字を読めない人でも理解しやすいよう配慮されているのか。玩具の一部に関しては、こちらでも製作可能かもな」
そっか、異世界と日本とでは、根本的な技術力が違うんだ。再現可能なものもあれば、不可能なものもある。こっちの猫たちも、玩具を気にいると思うけど、製品化させるには、アマンガムさんの力が必要となる。でも、これら玩具類を彼に見せたら、出所を絶対に問われるよね。
「物品自体はアマンガムさんに見せられませんが、誰にでもわかるようなこういったイラストを箱の表面に描くよう提案するだけなら構いませんよね? あとは使用説明書欄にも、絵でわかりやすく描くのもありだと思います」
「こういった箱に描かれているものを、[イラスト]というのか。うん、提案だけなら、俺も構わないと思う。ルウリはどうだ?」
「僕も賛成だよ。流石に、日本の商品を、この世界の商人に見せるわけないはいかないから、咲耶のアイデアとして、玩具をイラストにしてから、アマンガムに見せるのもありだと思う」
そっか、その手を使えば、製品化も可能か。
でも、それって、盗作に該当するのでは?
別世界での販売だからいいのかな?
「よし、それでいこう。うん? この小さな無地の箱は何だ? イラストがないな」
ベイツさんは気になったのか、小さな箱を開けて、中から円柱形の物体を取り出す。
「咲耶、この長細い小さな棒は何だ? 説明書もないぞ」
ベイツさんが見ているのは………。
「それは、レーザーポインターです。使ってみますね」
私は、箱に入っていた単三電池1個をレーザーポインターに入れ、ボタンを押す。
「小さな赤い光が出るだけ?」
「あ、ベイツさん!! 覗き込んだらダメです!! 失明しますよ!!」
「何、失明!!」
ベイツさんは赤い光の源となる光源を覗き込もうとしたけど、私の注意を聞き、慌てて覗き込むのをやめる。
「原理は不明ですけど、この光を目に当てると、障害が発生して失明するそうです」
「怖いな。どうして、そんな危険な物を箱に入れているんだ?」
「この光を壁や床に当て移動させることで、猫は興味を持って追いかけるんです」
「なるほど。弱い光でも集束させ直線的に放つことで、こんな使い方があるのか」
レーザーポインターの説明を終えると、ベイツさんが何やら考え込んでいる。
「咲耶、このポインターと使い方を絵で詳しく描いてくれないか?」
「構いませんけど?」
元々、こちらでも商品化してもらおうと、絵で描くつもりだった。
ベイツさんは、どんな使い道を考えているの?




