12話 ルウリからの告白
お父さん、お母さん、悠太。
私が冒険者になって一週間、それなりに充実した日々を送っています。商人アマンガムさんから、《猫カフェのためにも、街中に住む猫たちの教育を徹底してほしい》という私への指名依頼が正式に入ったことで、私は猫たちの溜まり場で、毎日教育を施しています。日本と違い、意思疎通が出来る分、私も猫たちも楽しくやっているんだよ。
そして時間が空いている時、私は誰もやりたがらない動物関係の依頼を引き受けています。《鶏小屋の掃除》や《牛の糞掃除》といったものもあって、掃除をしながら皆の抱える不平不満を聞き、依頼主に伝えたりしているの。動物も人も喜んでくれるから、一石二鳥の結果が得られます。そういったことを続けているうちに、私は次第に注目されていたようで、いつの間にか《動物関係で悩んでいる人は咲耶に頼れ》という情報まで飛び交ってしまう始末です。
仕事面だけでなく、日常面でも一つの変化が起こりました。それは、私にお友達ができたことです。ベイツさんが偶に立ち寄る定食屋さんの娘で、名前はリットって言うの。少し人見知りする傾向のある私と違い、彼女は底抜けに明るく、性別関係なく、どんな年齢の人でも、怖がらず話し合える凄い女の子なんだよ。あの子を見ていたら、私も見習わないといけないなって最近思うようになりました。
仕事面と日常面共に充実した生活を送れていることもあり、冒険者や住民の方々とも仲良くなれているのだけど、肝心のこの女の子に関する情報は一切なく、心の中にいるはずのこの子とも未だに話し合えていません。憑依しているのなら、必ず話し合えるはずだから、今後も諦めずに呼びかけようと思います。
○○○
今日の昼前になって、一つの変化が訪れた。
私は仕事の合間や早朝を使い、毎日基礎体力を鍛える訓練を実施し、ベイツさんにしごかれているけど、それが終わリ休憩していると、ルウリが私のもとに飛んできて、とんでもない言葉を発した。
「ルウリ、本当に教えてくれるの!?」
「ああ、本当さ。君の魂もかなり安定してきたし、もう少しでスキルも目覚める。子供である今の間に、自分の身に起きたことを、きちんと把握しておいた方がいい。そのためにも、まずは咲耶自身に起きた出来事を僕に詳しく教えて」
ルウリだけが、私の身に何が起きたのかを知っている。
冒険者になって日も浅いけど、私の力を認めてくれたのかな。
でも……不思議だ。
私の心自体は凄く嬉しいと思っているのだけど、何故か【知りたくない!!】という自分も、心の何処かに存在している。でも、知らないと前へ進めない。だから、私は覚悟を決めて、自分の身に起きた現象を話していく。
「なるほどね、全て理解できたよ。その上で、君に真実を告げよう」
真実、どうして知らない女の子に憑依しているのか、その理由がやっとわかる。
「【倉木咲耶】という人物は、既に死亡している。君は生まれ変わって、今の姿になっているんだよ」
え……死亡?
私は、あの災害で死んでいるの?
「で…でも気づいたら、この子になっていたんだよ? これって憑依ていう現象なんじゃあ?」
嘘だよ…死んじゃってたら、もうお父さんやお母さんや悠太に会えないってことだよね? 嫌だ…嫌だ…そんなの嫌だ。でも、そう聞いてしまうと、納得している自分も何処かにいる。
「違うよ。話を聞いた限り、多分君は弟を助けた後、背後から襲ってきた障害物に激突して、そのまま押し流されてしまい死んでしまったんだと思う。物事を常識的に考えよう。激流の中、弟を助けただけでも奇跡的なことなんだ。そこに、障害物と激突して助かると思う?」
……思わない。
私は死んでしまったの?
ルウリの言う通り、あんな状況で助かる方がおかしいもの。
お父さん、お母さん、悠太には…もう二度と会えないの?
その思いが私の心の奥に浸透していくと、涙が目から溢れ出てきた。
「会いたい…会いたいよ…家族に会いたいよ」
別れの言葉だって言ってないし、何よりも弟は助かったのかな?
せめて、それだけでも知りたい。
「ごめんね。僕も、真実を告げるか迷ったよ。稀にだけど、前世の記憶を思い出したとしても、死を受け入れられない者はいる。そういった人たちに対して、死に関わる事項を伝える際は、細心の注意が払われる。時期とタイミングを間違えると、魂自体が壊れる危険性があるからだ。君と出会い、その人柄を一週間見守ったことで、落ち着いた今の時期こそが最も適切と考え、僕は君の死を告げたんだよ」
時期を間違えたら、魂が壊れる…か。
もし、出会った当初に今と同じことを言われたら、私は混乱して、その場から逃げたかもしれない。そういった事態にならないよう、ルウリはずっと私を見守りながら、告げるタイミングを計っていたんだ。
ルウリの目は真剣そのもの……私は死に異世界へ転生した。
なんだろう?
今まで欠けていた何かが、埋まったような感覚がする。
自分の死を受け入れなきゃいけないのはわかる。
でも……
「私は…死んだんだね。死を…受け入れたとしても…家族には…会いたい…せめて別れの言葉だけでも伝えたい」
「僕は霊鳥フェアリーバード、現世と常世を行き来できる鳥だ。だから、上の方とも繋がりがある。君の事情を話したら、前世と今世共に同じ10歳で大きな不幸に見舞われたことが考慮されて、特別な許可が下りた」
え、特別な許可?
「今、地球の日本は《お盆》という時期で、数日間だけ常世の霊は現世へ降りることができる。その道を利用して、君の霊体を12時間だけ家族の下へ行かせる。そこできちんと話し合い、今生の別れを告げてくるんだ」
それって、家族と会えるってこと!?
嬉しい…嬉しいよ。
でも…死んでしまったことを理解した悲しさと、家族と再会できる嬉しさが混在して、心が混乱してるよ。
でも、私が死んだのなら、どうして今になって記憶が蘇ったのかな?
私がルウリに質問すると、納得のいく答えが返ってきた。
「君のいた地球だと、転生したら前世の記憶は抹消される。でも、この世界の場合、[年齢が15歳未満][理不尽な死][魂の清浄度80以上]という3点をクリアすれば、記憶を現世の身体に移行できる。ただし、コレはあくまで【バックアップ】として脳内に保管されるだけなんだ。そこから記憶を表に引き出すには、《死に等しい事象が現世の心に起きた時》という条件をクリアしなければならない」
そうなると、現世の私に何かが起きて、前世の私が表に出てきたってことだよね? 誰も住んでいない山の上流から流れてきたのだから、相当な何かが起きたんだ。だから、生まれてからの記憶を無くしているんだ。
「現世の君が何者なのか、それは聞いてはいけない規則だからわからないけど、多分そのバックアップ機能のせいで、現世の君は酷い目に遭ったんだと思う」
え、どういうこと?
「バックアップが搭載されている者は、たとえ記憶がなくても、同年代の子供たちよりも優秀なんだよ。でも、それだと生まれた時点で、持っていない人と差が生じてしまう。だから、ハンデとして、祝福の効果が1~3年遅くなるよう設定されている。幅がある理由は、生活環境による差異だね」
「無能者であっても、3年以内に発現する。それって、どこの国でも常識なの?」
「うん、常識だね」
「それなら、両親はどうして私を捨てたの?」
ルウリは悲しい目で、私を見る。
「無能者であっても、成人する15歳までは、どこの家庭でも、様子を見守るものだ。平民、貴族、王族といった身分に関係なく、【子供を信じ見守る】という行為が、世間の常識とされている。でも、それはあくまで建前、王族貴族界隈となると、無能者を輩出した家は、敵対連中にその存在を利用され、良くない噂を広められてしまうんだよ」
まさか、両親は敵に利用される前に、私を捨てたってこと?
それも、誰も住んでいない山の上流に?
怒りが、湧き上がってくる。
私を捨てた両親の常識を疑ってしまうわ。
「私…記憶を思い出したとしても、絶対家に帰りたくない」
人の心を持たない両親、自分の本当の名前を知りたいという気持ちもあるけど、そんな両親から付けられた名前なんていらない。
「同感だね。君は、この近辺で生活するのが得策だと思う。さて話は戻るけど、日本の世界だと、今は午前11時50分だ。午後12時になった時点で、君を日本に送る」
私の滞在時間は、午後12時~深夜0時までの12時間。
それだけあれば、家族と色々なお話もできる。
最後のお別れの言葉も……私の口から言える。
でも、それを考えると、私の心が軋む。
12時間を超えたら、もう二度と会えないのだから伝えるしかない。
絶対に伝えるんだ!!
「君がそっちに行っている間、この身体は眠っているから、ベッドに寝かせておくね。この家に滞在中、ベイツをずっと監視していたけど、君を育てたい明確な理由があるし、その覚悟も本物だ。だから、昨日の時点で、君と僕の事情に関しては全て説明しておいた。その上で、彼はきちんと納得してくれたから安心してね」
良かった。
ベイツさんは私に対して、いつも親身になって考えてくれていたもの。
「ありがとう。ねえ、ルウリは、どうして私のことを、そこまで気にかけてくれるの?」
ベイツさんはルウリの抱える事情も聞いて、精霊契約にも納得しているとなると、私とルウリの間には、何らかの繋がりがあるんだ。
「ふふふ、君がここに帰ってきたら教えてあげる」
「約束だよ」
「うん、約束する」
ルウリの言葉を聞いたことで、私の覚悟が決まる。
「私、家族と会って、きちんとお別れの言葉を告げてくる!!」
死んだ私がいつまでも泣いていたら、お父さん、お母さん、悠太も絶対悲しむ。
みんなの涙だけは、見たくない!!
お互いが笑顔でお別れできるよう、精一杯楽しもう!!




