第4話 護衛(中編)
早朝──商隊はブロンダルの北門を出立して、街道沿いに、大陸北部の港町、アルゲンティアを目指す。
商隊の護衛は、冒険者の一団──群狼隊が主導している。その一団だけでは足りない頭数を、俺のような冒険者で補っているのであろう、と思う。
ほとんどの護衛は歩きであるが、護衛隊長は馬に乗っている。馬で先行して、索敵をこなしているのであろうが──馬を巧みに操る様は、とても単なる冒険者とは思えぬ。今でこそ冒険者に身をやつしてはいるが、元は俺と同じく騎士なのではあるまいか、と邪推する。
俺たち補充の冒険者は、群狼隊の指示に従って、商隊の荷馬車を守るように歩く。一つの馬車を囲むように四人──多いようにも思えるのであるが、賊がどのように襲ってくるかわからぬ以上、最低でも二人組で配置するというのは、理にかなっていると言えよう。
「あんた──冒険者って言うより、傭兵みたいだな」
俺と二人組になった男が、のんきに話しかけてくる。男としては、索敵は群狼隊の仕事、自らは迎撃のみ、と割り切っているのであろう、周囲を警戒する気配すらない。
「まあ、そんなところだ。冒険者としては、日が浅い」
俺がそう返すと、男は得意気に笑う。
「俺も昔は南方で傭兵やってたからよ、同じような奴は匂いでわかるんだよ」
男はロルフと名乗り、俺も名乗りを返す。
「まあ、護衛の依頼で出くわすとしたら、魔物でなく賊だろうからな。生粋の冒険者よりも、傭兵崩れの方が頼りになるってもんよ」
言って、ロルフはその禿頭をなでながら、くしゃりと笑う。
気安い男である。左目を閉じて線を見るに、それほどの使い手ではないのであるが、傭兵時代につちかったであろうその気性で、長生きしてきたのやもしれぬな、と思う。
「ところで、ラガンは何で冒険者に? あ、いや、事情は人それぞれだよな。立ち入ったことを聞いて、すまん」
質問から謝罪まで、こちらが口を挟む間もなくやってのけるのであるから、まったく騒々しい男である。
「聞かれて困ることでもない。手っ取り早く稼ぐにはこれが一番と教えられてな──」
言いかけたところで──不意に、俺は気配を感じて振り向く。
「──賊だ!」
と同時に、後方の誰かが叫んで、賊の襲来を知らせる。
「盗賊団だぞう!」
群狼隊の警戒をかいくぐっての不意打ちである。
「おいおい、まったく、索敵は何やってんだよ!」
ロルフは悪態をつきながら、腰の剣を抜く。傭兵として、それなりに場数を踏んでいるのであろう、賊を前にしても、臆する様子はない。頼りにはならぬまでも、足手まといにはなるまい、と思う。
襲われているのは、どうやら俺たちの後方の馬車である。護衛はすでに斬り倒されており、次いで賊は前後の護衛にも──つまり俺たちにも襲いかかってくる。
俺は左目を閉じて。
「俺は右をやる」
ロルフに宣言して、右の賊に相対する。右の賊──線を見るに、賊の中でもそこそこの腕前である。ロルフには申し訳ないが、任せるには不安が残る。
俺は曲刀を抜いて、大上段に構えて──賊の出方を待つ。賊は、俺のがら空きの胴めがけて、必殺の刺突を放つ──が、見えみえの隙に釣られた突きなど、打ち落とすのはたやすい。賊は必殺の一撃を防がれて、驚愕に目を見開く。俺は返す刀で、賊を両断──しては、いささかまずい。鎧ごと両断などしてしまえば、ラガンとはいったい何者かと騒ぎになろう。そうなれば、リメルスからの追手の目にも留まるやもしれぬ。俺は賊の突き出した腕の線をなぞって──右腕を斬り落とす。あまりにも美しい断面ではあるが、それほど不自然でもあるまい。
「ラガン!」
呼び声に振り向けば、どうやらロルフは苦戦しているようで──急ぎそちらに加勢に向かう。賊は、ロルフを仕留めることに躍起になっているようで、背後から忍び寄る俺には気づかない。俺は賊の背後から襲いかかり、肩口から心臓にかけて斬る。身体を両断してしまわぬように、と加減するのが難しい。
「──お見事」
言って、ロルフはその場にへたり込む。
そうして、賊を二人、斬り捨てたところで──ようやく群狼隊の主力が到着する。そこからは、加勢の必要もなかった。賊は瞬く間に蹴散らされる。
おそらく──群狼隊の主力は、賊に索敵を誘導されて、縦に長く伸びる格好となっていたのであろう。賊としては、その隙に手薄となった馬車から略奪するという算段だったのであろうが──数合わせの護衛の思わぬ抵抗にあって、奇襲はあえなく失敗に終わったというわけである。
「逃げたものは追わずともよい! 追ってもただ働きになるぞ!」
見れば、いつのまにやら隊に戻っている護衛隊長が、馬上から剣を振るいながら、声を張りあげている。乱戦に慣れている。剣の腕では俺の方が上であろうが、出会い頭に剣を交える戦場であれば、どう転ぶやらわからぬ怖さがある。ブロンダルでは、バルドに次ぐ実力者であろう、と思う。
護衛隊長の戦いぶりを興味深く眺めていると、あちらも俺の視線に気づいたようで──全身に返り血を浴びたまま、こちらに馬首を向ける。
「ラガンと言ったか、よい働きだった。おかげで助かった」
護衛隊長は、兜の庇をあげながら、礼を述べる。よい働きとは、つまり──賊を二人斬って、ロルフを助けたことを指しているのであろうが──敵に釣られて前線にいたはずの隊長がそれを見ていようとは、まるで鷹のような目である。
「俺は群狼隊の隊長──ベオルフという」
護衛隊長──ベオルフは下馬して、騎士の辞儀をする。元騎士であることを隠そうともしていないあたり、周囲に公言しているのであろう、と思う。
「バルドに認められているというのは本当か?」
言って、ベオルフは俺の顔をしげしげとみつめる。髭面からのぞくその瞳は、意外に優しげに映る。
「認められているかどうかは知らんが、腕は保証された」
そう答えると、ベオルフは、ほう、と感嘆の声をもらす。群狼隊の隊長たる男をして、そう反応せしめるのであるからして、ブロンダルにおいて、バルドが腕を保証するというのは、よほどのことなのであろう、と思う。
「群狼隊は護衛を中心に依頼を受けている。バルドに認められた男なら、いつでも歓迎する」
「──厚意に感謝する」
ベオルフの誘いに、今度はこちらが礼を述べる。
ベオルフは満足そうに笑って──再び馬上に戻り、隊の皆に指示に出す。
「アルゲンティアまで、もう二日! 警戒を怠るなよ!」




