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冒険稼業  作者: マリオン
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第17話 荒稼ぎ(三)

 大男は、俺と同じく腰の長剣の柄を握っていたのであるが、すぐに警戒を解いたようで、豪放に笑う。

「あんたら──たった二人で迷宮に潜ってんのか? 豪気なこったなあ!」

 そう言う大男はというと、どうやら四人組である。大男を含めて、三人が男で、その全員が剣士──そして、驚くべきことに、残る一人は女である。身体の起伏がわかるほどの軽装で、何と武器すら持っていない。


「うん? その隻眼──」

 女を眺める俺の、つぶれた左目を目に留めて、大男は思案するように顎髭をなでる。

「確か、バルドの連れの──」

「──ラガンだ」

 大男が思い出すよりも早くそう名乗ると、彼は人懐っこい笑顔を見せて。

「そうそう、売り出し中の冒険者、ラガンだったな! 俺は、アクスってんだ!」

 と、自らも名乗りを返す。


 アクスは、どうやら冒険者同士の交流が、ことのほか好きなようで、聞いてもいないのに、自身のことをぺらぺらと語り出す。彼は、自らを中堅どころの冒険者である、と評するのであるが──ちらと左目を閉じて見るかぎり、それがかなりの謙遜であるとわかる。実際のところは、剣を交えてみなければわからぬが、上級に近い実力者であろう、と思う。


 俺はロルフの隣に腰をおろし、アクス一行もその向かいに腰をおろす。迷宮からは空が見えぬから、正確なところはわからぬが、腹具合からすれば、ちょうど夕食時であろう。俺たちは、互いに食料を取り出して、語らいながら休憩する。


「ここは──いったい何なのだ?」

 俺はアクスに尋ねる。


 迷宮の中層でありながら、噴水は美しく、魔物の気配もない。何か特別な場所なのであろうか、と疑問を抱くのも、無理からぬことであろう、と思う。


「何のためにつくられたのかはさだかじゃねえが──俺たちゃ()()()って呼んでる」

 アクスの言に、言い得て妙である、と頷く。

「どういう理由だかわからねえんだが、魔物はこの水を嫌うんだよ」

「ほう」


 アクスの言が真実であれば、四方に水のはりめぐらされているこの部屋には、魔物は近づくことができぬのであろう。魔物が入り込まぬとなれば、確かに休息にはもってこいの部屋である。


「じゃあ、この水をぶっかければ、魔物は逃げていくのか?」

「そこまでじゃねえ。いくらかは怯むっていう程度だ」

 ロルフの問いに、アクスは苦笑しながら答える。彼の苦笑を見るに、その問いは、この泉を訪れたことのある冒険者ならば、誰しも一度は抱くものなのであろう、と思う。


「この水さえあれば、迷宮も楽勝かと思ったんだが──そんなうまい話はないもんだなあ」

「そういうこった!」

 アクスは豪放に笑って、向かいのロルフの肩を叩く。それは、彼にとっては、軽く小突いた程度のものだったのであろうが──ロルフにとっては、思わぬ一撃となったようで、顔をしかめて、苦笑いでもって返す。



「じゃあ、俺たちゃ、もう一稼ぎしてくるぜ」

 しばしの歓談を楽しむと、アクスはそう宣言して立ちあがる。続いて、彼の仲間たちも立ちあがり、そろって休憩所の奥の通路に向けて歩き出す。彼らは、引き続き砦を探索するのか、それとも六層に足を踏み入れるのか──わからぬが、ずいぶんと気楽な様子である。


 もしかすると、死して二度と会うことさえないかもしれないというのに、出会いも別れも淡白なもので──それがかえって、迷宮で出会う冒険者の作法のようにも思えて、小気味よい。


「あんた──ずいぶんと軽装だな」

 俺は、目の間を通り過ぎる女に、思わず声をかける。武具を身に着けぬこの女は、いったい何者であるのか、ずっと気になっていたのである。


「魔法使いを見るのは初めてかい?」

 女は、俺の奇異の視線に気づいていたのであろう、問われるなり苦笑とともにそう返す。

「ああ──見るのは、初めてだ」


 リメルスにも魔法使いは存在したのであるが、俺の知るかぎり、彼らはすべて宮廷に属しており、ついぞお目にかかる機会はなかったのである。


 魔法使いと言えば、国の要職に就くもの──リメルスの常識ではそうであったのに、まさか一攫千金を求めて冒険者の道を選ぶ特異な魔法使いがいようとは──まったく、世界は広いものである。俺は、ある種の畏敬の念をもって、目の前の女を見あげる。


「魔法使いってのは、鉄を身に着けないんだよ」


 彼女──ラキと名乗る魔法使いの語るところによると、鉄は魔法に干渉するとのことで、身に着けていると魔法の構成の難度があがるのだという。


「だから、魔法使いは軽装なの」

 言って、ラキはひらひらと手を躍らせて──アクスに、早くしろ、と急かされて、休憩所を後にする。


 迷宮の、さらに奥に進む、アクス一行の背中を見送って──俺とロルフは、知らず、ふう、と息をつく。彼らは気のよい連中であったが、いつぞやの()()()のこともあり、どこかで緊張していたのかもしれぬ、と思う。

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