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冒険稼業  作者: マリオン
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第17話 荒稼ぎ(二)

 俺たちは、高台から伸びる坂を下り、砦の前に立つ。そびえる門は巨大で、ロルフはその威容に気圧されているようにも見える。左目を閉じてみるが、砦門の奥に魔物の気配はない。


「この砦には、何が潜んでおるのだ?」

 俺は砦を見あげながら、意外に事情通なロルフに尋ねる。

「さすがに五層ともなると、情報も軽々しくはやりとりされてなくてなあ。バルドには聞いてないのか?」

「五層で稼ぐべきとは教えてくれたが、何が潜みおるかまでは──」

 と、答えかけたところで──不意に気配を感じて、抜刀しながら門の奥をにらむ。


「何か──()()()

 先まで気配などなかったはずの場所に、突然わいて出たかのように、複数の気配がある。見れば、門の先──奥に続く石畳の両側に並んだ石像が、もぞもぞと動き始めている。石像は、こちらに向き直り、明確な敵意を放つ。


「さっさと中に入ってたら、囲まれてるところだったなあ」

 ロルフは、のんきな調子で、そう言って──ここからはそちらの出番だと言わんばかりに、顎で石像を指す。


 まったく──俺だからよいようなものの、石を斬るというのは、並の冒険者には難事であることを理解してほしいものである、と内心で愚痴をこぼしながら──俺は、左目を閉じて、曲刀を構える。


 石像は、話に聞く悪魔の姿でも模したものであろうか、見たことのない不気味な姿をしている。石像に見える線の数は、さすがに石だけあって、人よりは少なめではあるが、なぞることに難はあるまい。


 まず、俺たちに近い位置の石像が、腕を振りあげて、襲いくる。その腕の先には、鋭い鉤爪がある。いくら石の鉤爪とはいえ、ああも鋭ければ、深手を負いかねない。俺は、万が一にもその一撃を食らわぬよう、まずは振り下ろされる腕を根元から斬り飛ばす。


 石像には、おそらく意思はないのであろう、片腕を斬り飛ばされたというのに、さして気にするそぶりもなく、残る腕を振り回す。俺は、もう片方の腕も斬り飛ばして、次いで無防備な石像を頭から両断する。左右に分かたれた石像は、それ以上は動かない。おそらく、殺せたということであろう、と判断して──遅れて襲いくる、もう一体に向き直る。


「ラガンにかかれば、石も紙みたいなもんだなあ」

 ロルフが感心の声をあげる──と同時に、俺はもう一体の石像をも両断している。


 石像は、線をなぞると、ただの石くれと化して地に転がり、再び動き出す気配はない。見れば、周囲には似たような石くれがごろごろと転がっており、これらはすべて石像の成れの果てということなのであろう、と思う。



 俺たちは砦門を抜けて、中庭に出る。中庭は、当然というべきか、年月に荒れ果てている。対蛮族用の砦なのであるからして、そもそも庭園であったわけでもあるまいが、それでも雑草に覆われた庭は荒涼としているように思える。


 俺は、かろうじて残った石畳の上を歩く。

「見たことのない植物ばかりだなあ」

 続くロルフは、周囲の植物を興味深そうに見やる。


 ロルフのことは、狩人としては信用している。そのロルフが見たことがないというのであれば、それはかなりめずらしい植物なのやもしれぬ、と思う。


「ロルフ、その植物、一株ずつ採集しておこう。もしかすると売れるかもしれん」

「了解」

 ロルフは短く答えて、植物を丁寧に、その根とまわりの土ごと採集する。俺だけであったなら、根など捨て置いて、茎と葉の部分だけを採集していたであろうから、ロルフのその知見に、ほう、と感心する。


「さて──どうする?」

 ロルフは、数種の植物の採集を終えて、俺に問う。先に進むか否かという問いである。


 俺は、ふむ、と思案する。先の戦いでは、それほど消耗はしておらぬし、植物を採集したとはいえ、荷物にも余裕はある。何より──まだ、左目は痛んでいない。


「もう少し奥に進んでみよう。危なそうであれば、すぐに引き返す」


 俺たちは、中庭を抜けて、砦の奥に踏み入る。砦は、侵入者を迎え撃つべく入り組んでおり、魔物が大挙して押し寄せてくるようであれば、かなり危険なつくりであると言える。しかし、当の魔物はといえば、時折通路に立つ石像が襲いくる程度──どうやら、すでに砦としての機能は失われているのであろう、と思う。


 迷路のように折れる通路を慎重に進んで──突き当たった扉に耳を当てる。中からは、水の流れるような音が聞こえる。魔物の気配がないことを確かめてから、俺はおもむろに扉を開く。


「これは、何と言うか──」

 俺は思わず声をあげる。


 扉の向こうは、ちょっとした広間のような大部屋である。部屋の中心には、見事な浮き彫りの細工された噴水がある。噴水からあふれた水は、床に掘られた水路を伝って、四方に流れている。何のための場所やら判然としないのであるが、左目を閉じてもみても、魔物の気配はどこにもない。


「どうやら──()()な場所のようだな」


 俺たちは、警戒を解いて、部屋に足を踏み入れる。ロルフは、我先に、と噴水に駆け寄り、止める間もなく、水面に顔を浸して、喉を潤す。こやつ、いつか毒水を飲んで死ぬのではあるまいか、といくらか心配になる。


「はあ、やっと休憩できるう」

 喉を潤したロルフは、噴水の浮き彫りにもたれるようにして、床に座り込む。


 その様に、いつもならば、油断が過ぎる、と苦言を呈しているところなのであるが、確かにこの場には冒険者をして安心させるような何かがある。魔物はおらぬに違いない、と警戒を解いてしまうのも、無理からぬことのように思える。


 俺は、ロルフと同じく気を抜きかけて──不意に背後に気配を感じて、曲刀の柄を握って振り向く。探るような気配ではあるが、殺気まではなく、こちらも左目を閉じるまではしない。おそらく、魔物ではない。人間──冒険者であろうが、だからといって油断はできぬ。俺は、いつでも抜刀できるよう備えたまま、気配の主が現れるのを待ち構える。


「お、新顔か?」

 やがて──通路の奥から顔を出したのは、重そうな鎧に身を包んだ大男である。

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