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冒険稼業  作者: マリオン
29/33

第13話 魔窟(後編)

 扉の向こうには、薄暗い部屋が広がっている。


 部屋には、そこかしこにテーブルがあり、薄明りに賽子や遊戯盤が照らし出される。そこに集うのは、見るからに堅気ではない連中で、賽子の出目に一喜一憂しては、金銀の貨幣が飛び交い、悲喜こもごもの声があがる。どう見ても──()()である。


 なぜに迷宮の、しかも四層に賭場があるのか──まったく事情のわからぬまま、あたりを見回しながら、奥に進もうとする俺たちの前に、不意に男が立ちはだかる。見るからに、腕っぷしに自信のありそうな、大柄な男である。


「お前ら、どうやってここに入った?」

「二層の骸が鍵を持っておったのだ」

 男の問いに、素直に答える。何ら後ろ暗いところはない。


 懐から取り出した鍵を見せると、男はそれをしげしげと眺めて。

「これ──フロウの鍵じゃないですかね?」

 振り向いて、奥に座る髭面の男に問いかける。


 その髭面の男の眼光ときたら──左目を閉じて見るに、この中でもっとも強いというわけでもないというのに、その圧力は明らかにこの場を支配しているのである。おそらくは、この賭場を仕切る顔役なのであろう、と思う。


「あの野郎──最近、顔を見せねえと思ってたら、おっ死んでやがったのか」

 髭面の男は、鍵を一瞥するなり、そう告げて。

「俺は、ヴィレルってもんだ。ここを仕切ってる」

 と、俺の顔を興味深そうに眺めながら続ける。


「あんた──相当に腕が立つようだなあ」

「──そこそこだ」

 髭面の男──ヴィレルは、俺の実力を肌で感じ取ったように告げるのであるが──俺は謙遜で返す。俺としては、あまりかかわりあいになりたくない手合いである。


「その鍵は、あんたが持ってるといい」

 しかし、ヴィレルの方は俺とお近づきになりたいようで、親切顔でそう続ける。


「ようこそ──黒黥(こくげい)へ」

 言って、ヴィレルは、腕を高く掲げる。その腕には、咎人であることを示す、黒い入れ墨がある。


 なるほど、黒黥とはその入れ墨のことであり──つまるところ、この場に集うものは、皆、咎人なのであろう、と察する。まったく、迷宮街も相当にいかがわしい場所であったが──ここは完全に犯罪者の巣窟である。


「ロルフ、出よう」

「でもよう──」

 俺はロルフの手を引いて、入口に戻るようにうながすのであるが──ロルフはといえば、大勝ちしたであろう男が、懐に金貨をしまうのを、物欲しそうに眺めている。


「金は真面目に稼ぐにかぎる」

「そりゃあそうだけどよう──」

 それでも名残惜しそうにするロルフの首根っこをつかまえて、引きずるようにして入口に戻る。


「──待て」

 と、ヴィレルが何かに気づいたように、声をあげる。

「あんた──もしかして、()()()()()()か」

「だったら──どうする?」

 突然の問いに、俺は足を止めて、曲刀の柄を握りながら問い返す。俺のことを知っていて、しかも呼びとめるとなると──最悪の場合、リメルスからの追手とつながっていることも考えられる。


「腕利きの冒険者に、頼みたいことがある」

 しかし──ヴィレルの口から出たのは、意外な言葉である。

「俺にも依頼を選ぶ権利はあるぞ」

 俺は、曲刀の柄から手を放して、あきれながら返す。どこに犯罪者からの依頼を受ける冒険者がいようか。


「あんたに利のある報酬を約束できる」

「──ほう?」

 自信ありげなヴィレルの言に、俺は顎で続きをうながす。


「あんたの暗殺を依頼された」

 ヴィレルは、何でもないことのように、とんでもないことを言う。

「依頼は断ったが、その依頼を受けたであろうもののことを教えられる」

「そんなことを本人に話してもよいのか? いや──そもそも、なぜ断った?」

「あんた、バルドの連れだろ。あいつの連れの暗殺なんて、引き受けるやつはこの街にはいねえよ」

 俺の問いに、ヴィレルは、何を当たり前のことを、と返す。


「バルドがそんなに怖いのか?」

 バルドの名に、まさかこれほどの悪党までもがおののこうとは思ってもおらず、少なからず驚く。ヴィレルは、そんな俺にあきれるように続ける。


「知らんのか。バルドはな──()()()()()()()()()()()()()()

「魔窟」完/次話「貧民街」

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