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冒険稼業  作者: マリオン
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第12話 娼婦(後編)

「不愛想なのがいいっていう、変わった男が意外にいるもんなのよ」


 イリーナの語るところによると、彼女には()()の悪い常連客がいるのだという。自らを上級の冒険者とうそぶくその男は、言動が粗暴で、行為においても相当に乱暴なため、男を相手にした娼婦の中には、身体を壊すものも少なくなかったという。店からも注意はしているものの、男は聞く耳を持たず──さりとて、出禁にしてしまうと、その報復に何をされるやらわからぬ怖さがあるという、何とも迷惑な客である。


「先ほど扉の陰に隠れるようにしておったのは、そやつのことで脅えておったからか」

 なるほど、と得心がいった俺に、イリーナは首肯で返す。


「バルドの旦那のお連れなら、旦那もお強いんでしょう? それなら、またあいつがやってきて、無体を働いたときにも助けてもらえるかなって──」

「そんなことでよいのなら──」

 イリーナのすがるような視線に、俺は頷いて応える。


 男が本当に上級の冒険者であるならば、安請け合いできるようなことではないのであろうが、そもそも上級の冒険者ともあろうものが娼館通いをするはずも──いや、待て、バルドはしているな──と、そんなとりとめのないことに思いをめぐらせていると──。


「イリーナを出せ! 俺は客だぞ!」

 不意に階下から声が響いて──イリーナは、俺の腕の中で、びくりと震える。

「──()か?」

 俺の問いに、イリーナは脅えた顔で頷く。

「俺がついておる。怖がらずともよい」

 言って、俺は起きあがり、脱ぎ捨てた服を着て、曲刀を持つ。


 俺は個室から顔を出し、男を視界にとらえて──左目を閉じる。その線の多さときたら、どう見ても上級の冒険者などではありえない──駆け出し並の小物である。


 俺は、溜息をつきながら、個室を出る。男は、俺の背に隠れるイリーナの姿を認めて、さらに激昂する。

「手前! 俺のイリーナに手を出しやがって!」

「お前だけのものにしたければ、身請けでもすることだ」

 俺は、男を挑発するように、イリーナの肩を抱きながら返す。イリーナにも、相手を怒らせようとする俺の意図が察せられたのであろう、彼女はわざとらしく俺にしなだれかかる。


「──殺してやる」

 つぶやいて、男は懐から短刀を取り出す。その目はすわっており、もはや正気でないことが見て取れる。

「そんなことをしては、冒険者どころか、もはやならずものではないか」

 あきれるようにつぶやいて──俺は、イリーナを残して、階下に下りる。


「短刀をおさめろ。今ならば見なかったことにしてやる」

「うるせえ!」

 なだめる俺に、男は罵声を返して──そのまま、短刀を腰に構えて、こちらに突進する。


 さすがに娼館で刃傷沙汰に及ぶわけにもいかず──俺は、曲刀を鞘から抜くことなく、そのまま突き出して、柄で男のみぞおちをえぐる。


「て、手前、この俺様に──」

 言いながら、男はその場に倒れ伏す。反吐を撒き散らす様を見るに、すぐには立ちあがれまい、と思う。


 男の醜態に同情の余地はないのであるが──かといって、その報復の矛先が、娼館に向いても困る。俺は、倒れ伏した男の顎を、足先でくいとあげて、隻眼で見すえる。


「俺はラガンという。折れた剣亭におるゆえ、仕儀に不満があれば、いつでもくるがよい」

 言い放って、足先を外す──と、男は顎を床に打ちつけて、うめき声をあげる。この程度の手合いであれば、不覚をとることもなかろうから、俺が狙われる分には問題あるまい。

「隻眼の──ラガン」

 俺の眼光に射抜かれた男は、恐れとともにつぶやいて──地べたを這って、俺から離れる。


 どうやら、俺の名は、バルドのおかげもあって、意外に有名なようである。俺の立場からすると困ったものであるが──あのような輩が仕返しを断念する程度に有名であるというのであれば、それもわるくはない。


 男は地べたを這いながら、ほうほうの(てい)で店から去る。暴漢の姿が消えて、店は張り詰めた空気から解放されて、少しずつもとの喧噪に満たされる。


「旦那! 大丈夫!?」

 恐れから解放されて我に返ったものか、イリーナは慌てて階下に下りてきて、俺の身を案じる。

「あの程度の輩に後れはとらぬ」

 そう返すと、イリーナは安堵のあまりか、大きく息を吐いて。

「ありがとう!」

 言って、俺に飛びつく。

「詫びの代わりだ」

 俺はイリーナを抱き返しながら、苦笑でもって返す。


「あら──旦那」

 イリーナは、腹に触れる感触で──今さらながらに、俺が硬くなっていることに気づいたのであろう、背に回していた手を下ろして、股間をやわらかくまさぐってくる。

「暴力で興奮するなんて、いけない旦那だねえ」

 イリーナは、俺の耳もとで、そっとささやいて──その吐息が耳にかかって、ぞくり、と震える。

「たっぷりとご奉仕してあげる」


 そんなわけで──結局のところ、俺は久々に女を抱くに至ったわけである。

「娼婦」完/次話「魔窟」

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