第66章:しめやかな通夜と、お葬式の準備(4)
・・・次にぼくは、前章の終わりにかけて述べたように、
矢板市の葬儀社のひとつを訪問した。
この会社だが、
ぼくとは、ちょっとした因縁があった。
以前、職が見つからずに苦労していた時期に・・・
面接を受けにいったこともある、同系列の葬儀社。
実際に、ぼくが面接を受けたのは、
矢板市北部・・・矢板中学校付近にいまもある、某葬儀社の本社だ。
その日は、ぼくと、もうひとり、受験者がいた。
どこかの工場でいっしょに働いたこともある男だったが、名前も顔も、もう忘れた。
そこの女性面接官は・・・
とてもキツイ目をした方で、
こういってはナンだが、あきらかに独身で、男にはまったく縁もゆかりもなさそうな人、という印象の中年女性だった。
当時ぼくは、
遊郭の洋子ちゃんに入れあげていた時期でもあったので、ここで、面接の動機を訊かれ、
「彼女と生活するのに、安定した職業と結婚資金が欲しかったからです。自分・・・いつか、彼女と結婚するんです!」と、
明るく元気よく答えたものだ。
ところが、その面接官は、
それがどこか気にさわったのか、それからあとのぼくの話を、
さらにみにくい、魅力の「カケラ」もない形相をして・・・恨みのこもったような目と、まるで「般若」のような独特の表情でもって聞き流し、
ずっとぼくをにらみつけた格好のままの構図にて、
いつのまにか、面接は終了していた。
ぼくはその時点でもう、
結果は、すでにわかりきっていた。
もちろん、
「不合格および不採用」である。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「・・・ふん。きっと、あの人、幸せじゃねぇんだな。カネはあるかもしれんけど、あんな人と付き合ったり、ましてや結婚する男なんて、この世には存在しねぇって。
察するに、きっと、一事が万事、そんな調子じゃあ・・・どうせお宅は、一度だって男に優しくされたことがないんだろ? だから、心が卑屈に成り下がってしまって、顔も目も、そうやってみにくくゆがんでるんだよ。はん! それって、ハッキリいって自業自得なのサ。
ね、茶太郎ちゃん。君も、そう思うっしょ・・・?
まぁ・・・俺には、洋子ちゃんがいるし、美絵子ちゃんとのきれいな想い出だって、いっぱいあるからね・・・。」
その系列の分店・・・2号店が、
ぼくの自宅から北へ、500mほど行ったところの交差点付近にできたのだった。
そこでぼくは、
茶太郎ちゃんの骨壷用のケース箱と、専用の風呂敷を求めて入店していったのだが・・・
そこは実は、別の葬儀社のすぐ近くにあり、
あきらかに、商売敵のつもりで、わざとそこに店舗をかまえたのであった。
そんないやらしい魂胆ミエミエの店で、
かつての「因縁」も忘れてぼくは、
目的を果たそうとしてしまっていたのだ。
・・・もちろん、予想通り、
箱も風呂敷もなかった。
ただ、ひとつだけ「救い」があったとするならば・・・
対応した従業員が、
比較的、低姿勢でぼくに接してくれたことだったな。
あの、キツイ目つきの幹部女性の面接官も、この2号店にはいなかったしね・・・。




