↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
31/79

第29章:高久コーポでの、唯一、僕と会話した老人のお話

 ぼくがこの、まるでお化け屋敷のような不気味なアパートに引っ越してきてから、数ヶ月たったころ。


 けたたましいサイレンが鳴り響き、


 わが高久コーポに、救急車が横付けされた。


 「なんだ? 急病人か? まさか、死体でも見つかったんじゃねーだろうな??」


 救急隊員が踏み込んだ部屋・・・それは、


 となりの2号室だった。


 部屋を覗こうと、ドアに近づくと、


 「すみません、どいてどいて!!」と怒鳴られ、一人の老人男性が、虫の息でストレッチャーに載せられ、病院へ。


 ちらりと見た限りでは、白髪のやせた人だった。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 ・・・2週間後。


 部屋のドアをノックする音が。


 「はい・・・?」


 そこには、誠実そうな、おだやかなたたずまいの老人が。


 「隣の2号室の吉田と申します。先日は、あのような騒ぎになってしまい、誠に申し訳ありませんでした。謹んで、おわびいたします。」


 「吉田さん・・・いったい、どうされたんですか? なにか、ご病気にでも?」


 すると彼は、ちょっと恥ずかしそうな表情で、こう述べた。


 「お恥ずかしい話なのですが・・・私、身寄りもない、一人暮らしの年寄りですので、少し体調が悪くなると、料理も作れず、買い物にも行けず、寝てすごすことも多いのです。

 今回は、実はしばらく続いていた栄養失調とエネルギー不足の関係で、その・・・」


 「そうだったんですか・・・。そんな厳しい状況だったとは・・・ごめんなさい。そんなおつらい状態でいらしたのに、ぼくはまったく気づかず、あなたが苦しむ中、自分だけ卵焼きやらバンバン焼いて、2号室に、料理のにおいなんか送ってしまって・・・。」


 「いえいえ。何をおっしゃいますか。その、あなたのお優しい気遣いのお言葉だけで、じゅうぶん、私は幸せです。今後とも、ぜひ、よろしくお願いします。」


 「はい! でも吉田さん。料理に限らず、何か困ったことがあったら、遠慮なく私に頼って下さいよ。隣どおしのよしみじゃないですか。これも、何かの縁だと思いますし・・・。」


 「ありがとうございます。では、失礼します。」


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 ・・・吉田さんは、礼儀正しく、常識をわきまえた紳士だった。


 普段から、物音ひとつ立てず、静かに慎ましやかに生きておられる、まるで聖人のような人だった。


 これ以降、彼とは最後まで交流というものはなかったが・・・


 いまも、どうされているか気になっているひとりだ。


 吉田さん・・・


 お元気でいらっしゃいますか・・・?


 m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。