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第八話 悪夢


「———おい、ロウレン。寝すぎだぞー」


 その聞き覚えのある声に、ハッと目を覚ます。

 寝起きで滲む、全てが曖昧な世界は、時間と共に形を作っていく。

 やがて、ハッキリと輪郭が見えてきたとき。

 目の前には、金髪緑眼の男がいた。


 〈剣鬼〉ヨハン。


 〈黒獅子〉のパーティーリーダーだ。


「え?」


 あまりにおかしな状況に、そんな呆けた声を出す。

 辺りは平原。

 昨日は、森で寝ていたはずなのに。


「なぜお前が、ここにいる?」


 強ばった声で、俺はつぶやいた。

 足はひどく震えており、喉は今まで感じたことのないぐらい、乾いている。


 この状況は、いったいなんなんだ。

 俺は追放されて、シエスタと出会って、エルフの村へと向かっていたはずだ。

 それなのに、なぜ、ヨハンがここにいるんだ?


 俺の問いに、ヨハンは一瞬、なんともいえない顔をしてから、すぐに笑顔を見せて答えた。


「洒落にならないようなトーンだけど、どうしたんだ? まだ寝ぼけているのか?」


 追放したことなんて、まるで無かったことかのように、ヨハンは言っている。


 どういうことだ?

 俺は確かに、パーティーを追放された。

 それが、夢なわけあるか。

 あの絶望が、夢なわけ———


「………」


「おい、大丈夫か、本当に」


 ヨハンが心配そうに顔を覗きながら、肩を揺らす。


「………ああ、大丈夫だ」


 そう言って、俺はふぅっ、と一息吐いた。


 思えば。

 追放されたことが、夢じゃないわけ、ないじゃないか。

 彼らは今まで、俺のために色々としてくれた。

 俺の事を分かってくれていた。


 そんな彼らが、俺を追放するなんて、ありえるはずがないじゃないか。


「もう、寝すぎよ。神さまはいつだってあなたのことを見ているのよ」


 ヨハンの後ろから、〈魔女〉であるメアリーが言った。

 その顔は、その声は、あのときのような冷たいものじゃない。


「えー、なにそれ。かみさまのぞきまじゃん。ていうか、そのりろんだと、あんたのちたいぜんぶみられてることになるけど」


 メアリーの隣から、ひょっこりと〈聖少女〉ミーシャが顔を出す。

 こいつは、追放の時でもあまり変わっていなかったな。


「神は、私の欲望も罪もお許しになられます」


「かってだー。しかも、それとかせいじょのあたしがいうべきせりふでしょ」


「うるさい。貴方みたいなチビには、このセリフは似合わないよ」


「チビ!? いっちゃいけないこと、いったね! このびっち!」


「おだまり。本当のことを言って何が悪いのかしら?」


「まぁまぁ、二人とも。こうしてロウレンも目が覚めたことだし、魔物討伐に行くぞ」


 そのヨハンの言葉で、思い出した。


 あぁ、そうだ。


 俺は、魔物討伐に行っている途中で、思わず寝てしまったんだ。

 それで、追放される夢を見たんだ。


 考えてみれば、当たり前のことじゃないか。

 シエスタも、エルフの村も、馬車の少女も、魔物も、宿屋の少女も、全て夢だったんだ。


 そう気付くと、気が楽になった。

 ———あの胸の暖かさは、かなりリアリティがあったけれど。


 未だ寝転ぶ俺に、ヨハンは手を差し伸べた。

 俺はその手を握る。

 顔は、自然と笑顔になっていた。


 手が引っ張られて、俺は起き上がりそうになった。

 けれど。

 ヨハンは途中で、その手を離した。


 尻餅をつく。

 唖然となった。


「え…………?」


「ロウレン。君をこのパーティー〈黒獅子〉から追放する」


 辺りの風景は一転する。

 どこかの宿屋の部屋。

 そこで、俺は立ち尽くしている。

 目の前には、蔑むような目つきで俺を睨むヨハンが。


「あ………あぁ」


「追放されたことが、夢なわけないでしょう?」


「あんたみたいなかすをついほうしないはずがないよ」


 あのときと同じ状況で、三人は、俺を見ていた。

 足がすくんだ。


 あぁ、あぁ、あぁ。

 その目。

 その目が、俺をいつも———


 後ろの扉を押し退けて、俺は逃げ出した。



---



「———ぁああああ!!」


 叫びながら目を覚ます。

 全身にどっと汗をかいている。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 今のは、夢か?

 辺りを見渡す。

 森の中だ。

 すぐ隣には、急に起きた俺に、驚いたような顔をしているシエスタがいる。


 ということは、夢か。

 とんだ悪夢だ。


「…………うるさ」


「あ、すんません」


「あなた、ずっとうなされてたわよ。ヨハンって誰かの名前だとか、追放がなんだとか訳の分からないことを言っていたわ」


「あまりにもいやらしい悪夢をみた」


「きも。欲求不満?」


「そういう意味じゃない。意地の悪い悪夢ってこと」


「あら失礼。どんな夢かは、興味ないから聞かないでおくわ。それと、そろそろここを発つつもりよ。片付けして。私が荷物をもつ」


「悪いな」


「別にいいわよ。仕事分担。あなたがいれば、魔物もそこまで怖くはないわ。なにせ、魔力不足に陥る心配が消えるんですもの」


「魔力以外に取り柄がなくてすんまへん」


「そうね。もっと他のことにも研鑽を積みなさい」


 そんなやりとりをしてから、野営の後片付けをして、ここを発った。


 魔力以外に取り柄がない。

 自分の言葉ながら、深々と胸にその言葉は突き刺さる。


 今の俺には、〈無限魔力〉以外にいる意味がない。

 生まれもったスキルがよかっただけだ。

 俺が自分で掴み取ったものは、何もない。

 〈無限魔力〉というスキルを手にしたのも、ただ、運がよかっただけ。


 ここまで考えて、ハッとした。

 ヨハンの言っていた、「それくらい」っていうのは、そういうことなんだ。

 俺は今までスキルしか使ってこなかった。

 それ以外には何も無かったから。


 理解したころには、もう遅かった。

 あの悪夢が、そのことを俺に、ひどく痛感させた。



---



 昼間。

 太陽が真上にある時間に、ふと、俺はシエスタに言った。


「なぁ、俺達の関係性っていったいなんなんだ?」


 その俺の言葉に、彼女はどうでもよさそうな顔を見せる。


 しかし、これはけっこう深刻な問題だ。

 現状だと、うーん、なんで言えばいいのか。

 仕事をやるために故郷に行く関係?


「関係なんてどうでもよくない?」


「いやそんなことはない。こういうところから仲を深めていかないと」


「私は深めたくないんだけど。というか、イザナミ山脈ぐらい今の私達の仲は浅いわよ」


「そんなに?」


「そんなに」


 イザナミ山脈とは、標高六千メートルの山々が連なっている山脈である。

 あまりにも浅すぎないか。


「まぁ、せめて浅瀬くらいまでは深めたいかなって」


「あのね」


 彼女は急に、真面目なトーンで話し出した。


「言っておくけど、あなたが冒険者だったという事実は変わらないの。私は冒険者とは絶対に仲良くしないわ。今の関係も、ただあなたが私にとって役に立つ存在だと感じただけ。勘違いしないで。別に、あなたと仲良しごっこしたいわけじゃないから」


「………それも、そうだな」


 思い直した。

 今までよくしてくれたのも、それは彼女にとって必要なことだったからだ。

 彼女が必要としているのは、俺ではなく、俺のスキル。


 その日はそれ以降、彼女とは一言も会話を交わさなかった。

 やけに胸が痛んだ。



---



 翌日。

 俺達はついに、エルフの村に辿り着いた。

次回「第九話 エルフの村」

11月12日 同時刻 更新

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