未開の星
傭兵派遣会社、マシナリーテンプのロビー
しばらく3人は別々に派遣の仕事をしていた。
そして次に3人が揃ったのは、居酒屋での2度目の会社設立会議から1ヶ月ほど過ぎた頃だった。
「そろそろ、こんな大きなのが回ってくる頃だと思ってた。3人でやってもすごい報酬だよね。これなら、中古のビークルのそれも高年式のものが買えるよ」
マーヴェットが興奮しながら言った。
「それだけ、俺たちが評価されてるってことだ。こいつらの倒し方なら、以前に仕事で一緒になった爺さんから聞いたことがある」
ハダルはその依頼内容に自信あり気だった。
「どうする。引き受けるか?」
ラグが二人に確かめるように聞いた。
「当然」
「やるさ」
3人の意見は一致した。
そして、端末に表示される『undertake』をタッチした。
完了報告までの期限は1週間だった。
「爺さんから聞いた倒し方には準備が必要だ。まずそれを説明する」
ハダルはその作戦のをラグとマーヴェットに話し始めた。
それから2日ほどして、準備を終えた3人は会社から借りた薄汚れた星間用ビークルで依頼先の星へと向かっていた。
惑星識別番号000125-006。
豊富な鉱物資源が地下に眠っていると期待される惑星だった。
開拓企業が数週間前に基礎調査を行おうとしたが、惑星に降り立った直後に先住生物に襲われ計画が頓挫していた。
今回の依頼は、その調査場所に生息する先住生物の駆除だった。
よほどその企業はこの星の開発を急いでいるのだろう。そのため報酬が良いのだ。
調査隊の証言およびその時の映像により、先住生物はビゲストアントと呼ばれる巨大なアリ型生物だとわかっていた。
ビゲストアントは大きさこそ2メートルほどで、討伐が依頼される生物の中では小さな部類だったが、数にものを言わせ集団で襲ってくるので厄介だった。
3人を乗せたビークルは、1回のバブルドライブで目的の惑星を見下ろす位置に到着した。
惑星の表面は、ほとんど緑色で覆われていた。おそらくジャングルに近い状態だろう。
ビゲストアント以外にも未知の生物が生息する可能性がある。
宇宙へ戻るための巨大ブースターを抱えたビークルは、大気の中へ降下を始めた。
大気圏を抜け視界が回復すると、地表の状態がわかる。地表のほとんどは、高さは低いものの鬱蒼とした木や草で覆われていた。
すでに000125、つまり太陽の位置が低い。この星に時計があるなら、まもなく夕方だ。
最初の調査隊が降りた付近の地表に向けて、マーヴェットが地形のスキャンを始めた。
目的のものはすぐに見つかった。
「あ、あったよ」
モニターは地表から地下へと広がる直径が10メートルほどの穴を捉えていた。
「巣に間違いないな。どこか近くに降りられるか?」
ハダルが操縦席のラグに聞いた。
ラグは正面のスクリーン越しに地表を見渡した。
穴から一キロほど離れたところに、木々が無理やり押し倒されたスペースあった。おそらく、前の調査隊が降りた跡だろう。
「あそこに降りよう」
ラグはそのスペースに向けて降下を始めた。
地表に近づくにつれ、草木のない細い道が編み目のように広がっているのが見えてきた。
「何、あれ?」
気付いたマーヴェットがスクリーンを覗き込みながら言った。
「ビゲストアントの通り道だな」
ハダルが即座に答えた。
3人は依頼があると、必ず倒す生物の生態を詳しく調べるようにしていた。それが生きて帰ることにつながるからだった。
今回の作戦を提案したハダルは、いつも以上にビゲストアントに関して調べ上げている様子だった。
3人の乗ったビークルがさらに高度を下げると、重力制御エンジンの風圧で地表の木々が大きく揺れ出した。それに驚いた鳥たちが一斉に飛び立ち逃げていった。
そのままビークルは、木々を吹き飛ばしながら着陸した。
エンジンを止め、スクリーン越しに周囲を観察する。
少なくとも見える範囲に動くものはなかった。
「お出迎えの様子はなさそうだな。じゃぁ、始めるか」
そう言ってハダルは格納庫へと向かった。ラグとマーヴェットがそれに続く。
格納庫には一辺が2メートルほどの四角いコンテナが床に固定されていた。その中には表面を何かでコーティングされたような30センチほどの丸い物体が溢れるほどに入っていた。
「これをどこにおけばいいの?」
「通り道だよ」
固定のハーネスを外すマーヴェットにハダルが応えた。
「開けるぞ」
ラグは格納庫の後部ゲートを人が出入りできるくらいの高さまで開くと、ライフルを持って外に出た。
ハダルはフォークリフトに乗り、コンテナを持ち上げるとそのまま待機した。
少ししてラグが戻ってきた。
「外は何もいない。10メートルほど先に道があった」
「そこに置こう」
ラグはゲートをフォークリフトが出られる高さまで開いた。
ハダルがゆっくりとフォークリフトを進め、左右から二人がライフルで周囲を警戒する。
大きな木を避けながらを慎重に進む。
「ここでいいだろう」
ハダルは、木や草のない幅が2メートルほどの道の近くにフォークリフトを止めると、コンテナを下ろした。
その道は、穴のある方向に伸びているように見えた。
「ラグ、警戒をお願い」
マーヴェットはライフルを下ろすと、ハダルと一緒にコンテナから丸い物体を手渡しで下ろし始めた。
「これをアリさんが巣に運んで、どっかーんってわけね。何だか今回は簡単に終わりそう」
マーヴェットが丸い物体を眺めながら言った。
そう、この丸い物体は殺虫ガス入り高火力爆弾だった。表面にはビゲストアントが好む成分がコーティングされていた。
ビゲストアントは見つけた餌を巣に運ぶ習性がある。ビゲストアントの通り道に置いたこの爆弾を全て巣に運んだところで起爆させるのだ。爆発によって巣穴は塞がれさらに殺虫ガスが充満する。これで、巣の奥にいる女王アリまで仕留めることができる・・・、はず。
「これ、アリさんが巣に持っていく途中でかじってドカン・・・、なんてことにならないよね」
マーヴェットはハダルから爆弾を慎重に受け取り、そして慎重に地面においた。
「餌は女王さまへの献上品だ。傷付けるようなことはしないよ」
「あ、そっか。働きアリは女王アリから分泌される体液しか食べないって、ラグからもらった生態書に書いてあったね」
「働きアリは、おそらくそれによって行動がコントロールされているんじゃないのかな」
「ああ、特殊なフェロモンとか・・・」
「倒し方を聞いた爺さんの話だと、女王アリを失った集団は統制が崩れパニックとなるらしい。そして、見境なく周囲の仲間を攻撃し、殺し合いをした挙句自滅する、ってことだ」
「まさに女王さまにのみ操られてるって感じだね。怖い、怖い」
「つまり、運んでもらった爆弾を起爆したあとに巣を見に行って、周囲でビゲストアント同士の争いが見られれば、直接女王アリの死体を見つけなくてもやっつけたことになる・・・って爺さん自慢げに言ってたな」
「なるほど。崩れた巣を掘り返して女王アリを探さなくてもいいんだ」
そんな二人の会話を聞きながら、ラグは二人から少し離れた場所で周囲を警戒していた。
急に鳥の鳴き声が聞こえた。
その方向を見る。見たこともない鳥が木の枝から飛び立っていった。
「これで最後だ」
マーヴェットは最後の爆弾を受け取ると、優しく地面においた。
3人はすぐにビークルに戻った。ゆっくりしていると餌の匂いに惹かれてビゲストアントがやって来てしまうからだ。
ブリッジから置いた餌を観察する。
しばらくすると、1匹のビゲストアントが現れた。
まさしくアリをそのまま大きくしたような姿で、大きさは2メートルほど、外骨格は赤黒く光沢を帯びている。そして体のサイズには不似合いな巨大な顎を持っていた。
餌に近づき、頭にある2本の触覚で確かめている。そして触覚を伸ばし天を仰ぐように頭をあげた。まるで遠くの何かと会話でもしているようだった。
するとどこからともなくビゲストアントが集まって来た。
餌を囲み触覚を触れ合っている。そして、1匹が餌を巨大な顎で挟むと、次々と他の個体も餌を挟んだ。そのあと、隊列を組むように1列となりアリの道を巣に向けて歩き出した。
「何だか、こーいうの観察してると面白いね」
統制の取れたビゲストアントの動きに、マーヴェットは感心した様子だった。
「少ししたら陽が沈む。起爆は明日の朝にしよう」
「じゃぁ、夕ご飯にしようか」
「お腹すいたな」
3人は揃ってキッチンに向かった。ここに来る途中で買い込んだ食材を使って一緒に食事を作るのだ。
いつからだろうか、こうして3人で食事を作るようになったのは。
おそらくこの中の誰も答えることは出来ないだろう。
それほど以前から、そして自然にそうなっていたのだ。
他愛もない話をしながら、それぞれが分担して、そしてそれらがまとまり一つの食事を作ってゆく。
食事ができれば話の続きをしながら一緒に食べる。
食後はコーヒーを飲みながら、一人でやった依頼の失敗談を話したりもした。そんな時は決まって議論になった。
どうして失敗したのか。どこが悪かったのか。どうすれば良かったのか。
その議論は確実に3人のスキルを上げることに繋がった。
そして3人で片付けをしたあとは、銃器のメンテナンスを行う。
その日の仕事が終わっていれば、分解して各パーツを綺麗にし次の仕事に備えた。
今回は明日にビゲストアントの巣に行かなくてはならないということで、使用する武器の確認と装備を揃えた。
こんな時にも会話が始まる。
話題を振るのはいつもハダルだった。それを受けて話を続けるのがマーヴェット。ラグは楽しそうに相槌を打ちながら、時折ボソリと自分の意見を言った。
ハダルもマーヴェットもそしてラグも、こんな3人の会話を、3人の時間を、とても大切に思っていた。
傭兵の仕事はキツかった。さらに派遣という身分はつらさを倍増させた。
でも、こうして3人がいると、そんなことはどうでもよかった。




