ふたりとひとり
セントラル恒星系の第4惑星、トント。傭兵派遣会社、マシナリーテンプ。
緊急の依頼を除き、朝の決まった時間にその日の依頼が傭兵達に配られる。
会社のロビーは、依頼を受ける傭兵でごった返していた。
いつもの3人は人混みを避けるようにロビーの隅の椅子に座り、次の依頼が表示された端末を見ていた。
「ホワイトレイブンか・・・、3人でやるほどのものでもないよね」
「そうだな」
「じゃぁ、俺ひとりでこっちやるよ。続きの依頼だから」
そんなわけで、ハダルとマーヴェットはホワイトレイブン(シロ巨大カラス)の討伐。そしてラグは惑星の地質調査の護衛再依頼に向かうことになった。
「帰りは一緒くらいかな」
「早く終わった方が待ってて、そのあとまた飲もうよ」
「おう」
「今日はわたしが操縦するね。先行ってエンジンかけとく」
マーヴェットは配車係から星間ビークルのキーを受け取ると、駐機場へと走っていった。
「代わってやろうか」
ハダルがニヤリと笑いながらラグに言った。
「なんでだよ。マーヴェットが待ってるぞ、早く行け」
ラグはハダルを睨み付けた。
「お前はいつも俺には冷たい態度をとるなぁ。寂しいぞ。まぁ、変なやつと一緒に行かせるよりは、俺の方が安心だけどな」
「無駄口叩いていないで、お前が行動不能になってもちゃんと連れて帰ってこいよ」
「当然だ」
ハダルはラグのお尻を軽く叩くと、駐機場へと向かった。
「仲がいいですね」
そう言って笑う配車係からラグはキーを受け取った。
「お気をつけて」
「ありがとう」
ラグはビークルの機体番号を確認すると、駐機場へと歩いていった。
惑星識別番号000088-003。
そのほとんどが海を示す濃淡豊かな青に覆われた惑星。その一部にわずかに緑の部分が見える。そこが陸地だ。
ハダルとマーヴェットの星間用ビークルは、その緑に向けて大気圏へと入った。
惑星の上空に降りると、鬱蒼と木々が繁る光景が広がっていた。木々の間からは空に向かって突き出す岩山がいくつか見える。その中には見覚えのある形の岩山もあった。
「ここって、前に一度来たことあるよね」
ブリッジの操縦席に座るマーヴェットはスクリーン越しにその岩山を見ていた。
「ああ、そうだな。レッドレイブンの駆除の時だったかな」
「で、今回はホワイトレイブンなんて、ちょっと笑える」
「レイブン同士、縄張りが重なっているからな。どっちかがいなくなると別のがすぐにやってくるのだろう」
「あ、あそこに降りられそう。目的の場所にも近いよ」
マーヴェットは着陸の準備にかかった。
ビークルを降りた二人は、背丈を超える木々の中を目的の岩山に向かって歩き出した。
それぞれの肩にはロングレンジのスコープ付きスナイパーライフルがかかっており、手にはアサルトライフルを持っている。
急に動物の影が動き、反射的に二人はライフルを構えた。
それは、二人の突然の侵入に驚いて逃げる小型の生物だった。こちらに危害を加える様子はない。
警戒の声が遠くでいくつも聞こえた。
「今日はラグじゃなくて残念だったな」
生物の気配がなくなったことでライフルを下ろしたハダルが、先を歩きながら唐突に言った。
「はぁ? 何言ってるの」
と、言いつつもわずかに顔を赤らめたマーヴェットは、ハダルの後ろを歩いていてよかったと思った。
「まぁ、俺は諦めたから、もう気を使わなくてもいいからな」
「え・・・」
マーヴェットは驚いたように動きを止めた。ハダルの言葉が頭の中を巡る。
「ひょ、ひょっとして、ハダルはわたしのことが好きだったの?」
「はぁ?」
今度はハダルが驚いて振り返った。
「え?」
お互いの考えが噛み合っていないことに気付いた二人は、動きが止まったまま顔を見合わせていた。
しばし沈黙。
「いや、俺は別にお前のことは見てないから」
先に喋ったのはハダルだった。
「え?」
マーヴェットはハダルが何を言っているのか全く理解できていない様子だ。
「ラグは俺には興味ないってさ。ちょっと寂しいよ」
ハダルはそう言って笑うと、また歩きだした。
「え?・・・」
そこでやっとマーヴェットは理解した。
「ハダルって、そうだったの。知らなかった。ごめんね、今まで気付かなくて」
マーヴェットはハダルの後を追った。
しばらく進むと、木々の葉の隙間から目指す岩山がはっきりと見えてきた。
甲高い鳴き声が聞こえる。ホワイトレイブンの警戒の声だ。
「この辺りが限界かな」
ハダルは双眼鏡を取り出すと、岩山の頂上へ向けた。
「つがいで2羽いるって話だが・・・ 」
マーヴェットも同じように双眼鏡を覗く。
10メートルほどの高さの岩山の頂上付近に、2メートルほどの大きさの白い羽根を纏う2羽の鳥が見えた。ホワイトレイブンだ。おそらく羽を広げれば5メートルを超えるだろう。
ホワイトレイブンは縄張り意識が強い。巣に近づいてくる侵入者にはまず警戒の声を出す。そして警戒を無視してさらに近づけば、鋭い爪とくちばしで上空から襲いかかってくる。人であっても襲われれば一撃で致命傷を負い、そのまま巣に運ばれ餌となる。
「じゃぁ、ここから狙おうか・・・。あれ?」
マーヴェットはその2匹に違和感を感じた。
「どうした?」
「これ、両方オスだよね」
ホワイトレイブンのオスは、頭に1本だけ長く伸びた羽根があるのが特徴だった。巣にいる2羽にはどちらにもそれがあった。
「縄張りの取り合いか?」
「争ってる感じじゃないよね。ひょっとして一緒に暮らしてる?」
確かに2羽は寄り添うように岩の端に止まっていた。
「まぁ、そーいうのもいるってことか・・・」
ハダルは苦笑い。
「あ、一方が何かちょっかい出してる。でも相手は無視してる。なんだか笑える」
「身に染みるな・・・」
「情が移る前に、一気に終わらせようよ。どっち狙う?」
「じゃぁ、俺は自分を」
「わかった。わたしはラグを撃つ」
二人は双眼鏡からスナイパーライフルに持ち替えた。
表情を変え、狙いを定める。
「いいよ。合図して」
「3、2、1、今!」
重なった銃声が響いた。
依頼を終了させたハダルとマーヴェットが会社の駐機場に戻ると、ちょうどラグも戻ってきたところだった。
「おう、どうだった?」
ラグに気付いたハダルが先に声をかけた。
「どうって、もう同じ場所で3度目だからな、何も出なかったよ。荷物持ちだけ。そっちは?」
「1発、ズドンで終わったさ」
「そう、ハダルとラグにズドン」
マーヴェットがケラケラと笑いながら言った。
「なんだ、それ」
「なんでもないさ。さぁ、飲み行こう。第2回会社設立会議だ」
ハダルは任務終了のタイムカードを押すと、先を歩いて行った。
「相変わらず仲がいいですね」
そう言って微笑む配車係に、ラグとマーヴェットはビークルのキーを返した。
そしてタイムカードを押す。本日の消費弾薬の数が表示された。マーヴェットは1発、ラグは0だった。
「何があったんだよ」
ラグが気になる様子で聞いた。
「別に何もないよ。ただ、ホワイトレイブンがハダルとラグになんとなく似てただけ」
マーヴェットはまたケラケラと笑うと、ハダルを早足で追いかけた。
ラグは理解できないまま、どうせ酔っ払えば話し出すだろうと、それ以上考えるのをやめた。
そして会社を出ると、いつもの居酒屋に向かった。




