3人の会社
マシナリーテンプのロビー
ハダル・アルシャイン、ラグ・フィーマー、そしてマーヴェット・サラサの3人は、ロビーの椅子に座り、同じ依頼内容が表示された自分の端末を覗き込んでいた。
依頼はそれぞれの能力や経験によって会社から配られる。
それは単独で受けてもグループで受けてもよかった。しかし、報酬は一定で、グループで受けたからと言ってその人数分が増えるわけではなかった。
依頼内容が自分に合わないとか、報酬に不満があればキャンセルも可能だったが、あまりそれを繰り返すと会社からの評価が下がる仕組みになっており、次から良い依頼が来なくなったりするのだ。
「コズミックドラゴンか。一度は戦ってみたいよね。この前の分も挽回しなきゃいけないし」
3人で行くはずだった前回の依頼を、マーヴェットは体調不良を理由にドタキャンしていた。結局ハダルとラグとで完了させてくれたが、2人に迷惑をかけたことを気にかけていた。そのこともあり、今回の依頼にマーヴェットは目を輝かせ、やる気満々のようだ。
「ラグはどう思う?」
しばらく考え込んでいたハダルがラグに意見を求めた。
「そうだな。一人じゃ絶対に無理だと思うけど、この3人ならやれる・・・、かな」
「よし決まった。やろう」
ハダルが即座に決定した。
コズミックドラゴンは、太古の肉食恐竜を思わせるような爬虫類系の生物だ。生息数はかなり少なく生態はあまりよくわかっていないが、通常は星一つを縄張りとし、発情期以外は単独で暮らしている。そして発情期になると相手を求めて星を渡ると言われていた。
体の大きさは天の川銀河において最大級であり、全長は長い尾を含めると50メートルをゆうに越し、筋肉の発達した後肢で立ち上がればその高さは30メートルほどにもなった。
性質はかなり凶暴で、星一つが縄張りということが示すように、コズミックドラゴンの生息する星に一歩でも足を踏み入れればその侵入を瞬時に感知し襲いかかってくるのだ。危険度は星5つの最高レベルだった。
「この依頼をこなせばわたしたちの評価も上がって、もっと報酬の良い依頼が来るようになるよね。う~、ワクワクする」
「で、どんな作戦で行くんだ」
興奮気味のマーヴェットを無視してラグがハダルに聞いた。
「そうだな・・・」
ハダルは依頼先の星の地形図を見ながら考え込んだ。
それから2日後、3人は会社の星間用ビークルで依頼のコズミックドラゴンが生息する惑星識別番号000092-002に向かっていた。
会社のあるトントからは、2回のバブルドライブで目的の星をブリッジのスクリーン越しに捉えることができた。
その惑星は002という数字が示すように太陽である000092に近く、地表の温度はかなり高いことが予想された。それでも大地の半分以上が緑を示しており、植物の生育やコズミックドラゴンの餌となる生物の生息には問題ない環境と考えられた。
3人のビークルは冷却シールドを広げ、大気圏へと入って行った。
大気圏突入を終えるとそのまま上空で待機する。
コズミックドラゴンは発情期になると星を渡るために翼が生えることが確認されており、その場合は空にいても襲われる危険性がある。しかし、今は発情期から外れており、少なくとも上空で襲われる心配はなかった。
それでも、ビークルの侵入はコズミックドラゴンにはわかっているだろう。迂闊に降りればすぐに襲ってくるはずだ。
3人はブリッジ側面の壁に設置されたモニターの前に立ち、これからの作戦について確認を始めた。
「大地に降りたものは一人も戻っていないので上空からの観測データだが、大気成分、重力は問題なし。よって、地表でも普通に動けるはずだ」
作戦の指揮をとるのは大抵ハダルだった。
「気温は35度、湿度は60%。太陽に近いのに思いのほか気温が高くないのは、この星に自生する植物の強力な蒸散効果によるものだと思われる」
ハダルはモニターに地形図を表示させた。
「で、ここに絶好の場所を見つけた」
3Dで表示された映像は、左右に切り立った崖に挟まれ乾季によって干上がった川の跡を進んでいった。そしてしばらくすると広い空間に出た。
「直径が1キロほどで周囲が崖に囲まれた場所だが、かつての湖か何かの跡だと思う」
「ここに追い込んで仕留めるというわけか」
ラグがハダルの考えをすぐに理解した。
「そうだ。ひとりが地表用ビークルでコズミックドラゴンを誘い込み。この広場に入るところでミサイルランチャーで左右の崖を崩壊させる。運よく行けば崩落した岩がコズミックドラゴンを潰してくれる」
「そんなに上手くいくかな」
マーヴェットは疑心暗鬼の様子だ。
「まぁ、確率は低いな」
ハダルもそれにはあまり期待していなかった。
「崩落をかわしたコズミックドラゴンは、おそらくそのまま地表用ビークルを追うだろう。そこを今度は後ろからミサイルランチャーで撃つ。崖の上からなら確実に狙える。さらにビークルに注意を向けていれば、狙われていることに気付かないはずだ」
「地表用ビークルはどうやって逃げるの?」
マーベットが心配そうな顔をハダルに向けた。
「ここに崖の上に登れそうな道がある」
ハダルはモニターの一部を指で示した。
そこには確かにビークルで登れそうな道があった。
「なるほど」
マーヴェットが納得したように頷いた。
「と、いうわけで、今度はそれぞれの担当だ」
「俺がビークルに乗ろう」
すぐにラグが名乗りをあげた。大抵ラグはいつもこうした役回りだった。
「じゃぁ、頼む。マーヴェットは?」
「わたしはこの位置でコズミックドラゴンが入って来たタイミングで崖を崩落させる。だから、ハダルが直接コズミックドラゴンを狙ってね。その後は万が一ハダルがミスしたときのサポートに回るよ」
「了解した。俺はコズミックドラゴンが通過したあと、ここからから狙おう。しっかりと当たれば1発で倒せるはずだ」
「でも、地表にはどうやって降りるの? すぐに気付かれるよね」
「まず、ラグのビークルを下ろす。コズミックドラゴンはすぐに襲ってくるだろう。ラグが気を引き誘い込む間に広場の崖上にこのビークルを着陸させる。その後はそれぞれの作戦ポイントまで必死で走る。忙しいぞ」
3人はお互いの顔を見合わすと大きく頷いた。
「30分後に作戦開始だ。マーヴェット、ランチャーの確認を頼む。俺とラグは地表用ビークルを下ろす準備をする」
「わかった」
マーヴェットはすぐに武器庫に向かった。
ハダルとラグは、マーヴェットが見えなくなったことを確認すると顔を寄せた。
「それじゃ、またいつものように」
ハダルが言うと二人は声をそろえた。
「「もしも俺たちのどちらかが行動不能になり危機が迫ったら・・・、動ける方がマーヴェットを連れて逃げる。もしも、マーヴェットが行動不能になったら、俺たちがマーヴェットを担いで逃げる」」
言い終わったところで、二人は拳を合わせた。
これは、3人で仕事を始めた頃にハダルが提案したことだった。そう、マーヴェットには内緒で。
いつも作戦の前には二人でこれを確認し合った。
幸いなことに、今までそんな危険な状況に陥ることは一度もなかった。毎回任務を完遂し、3人とも無事に戻って来ることが出来ていた。
そしていつしかこれは、二人の間の確認ではなく、無事に戻ってくるためのおまじないになっていた。
たとえそれがどんなに簡単な依頼であっても、おまじないを省くことはなかった。
二人は格納庫へと向かった。
「この間は悪かったな。お前の趣味に合わなくて」
途中の廊下で、ラグがハダルにすまなそうに言った。
「気にするな。今までと同じように付き合ってくれて助かるよ」
その後、二人の笑い声が廊下に響いた。
準備を終えた3人は、ハダルの操縦で干上がった川近くの丘陵地帯に星間用ビークルを向かわせた。
そこで一気に高度を下げる。
「来た!」
地表の探索レーダーを見ていたマーヴェットが叫んだ。
ビークルの高度はまだ500メートルほどあったが、コズミックドラゴンはすでにビークルを捉えていた。
ブリッジのスクリーンからも、2時の方向に砂煙が上がっているのが見えた。
ハダルは高度をさらに下げながら、干上がった川の入り口に向けてビークルを加速させた。
高度が50を切った。それでもハダルはさらに降下を続けた。背の高い木がビークルに当たり吹き飛ばされる。
「後ろに回ったよ」
「ラグ、開けるぞ」
ビークルの後部ゲートが開いた。格納庫内には会社所有の地表用ビークルに乗ったラグが待機していた。
「いつでもいいぞ。お前のタイミングで降りろ」
「了解!」
ラグは地表用ビークルのギアをバックに入れた。
ラグのビークルは進行方向を向いている。バックで地面に降りるつもりだ。
ラグが振り返ると、巻き上がる砂煙の向こうに小さくコズミックドラゴンの姿が見えた。
地面が迫る。
「出る!」
アクセルを思いっきり踏む。
スキール音とともにラグのビークルは格納庫を飛び出した。
空中ですぐにギアを切り替え、アクセルは全開。
ビークルはサスペンションを底付きさせながら地表に着地すると、2、3度跳ねたのち干上がった川に向けて加速した。
ハダルとマーヴェットの乗った星間用ビークルは加速しながら高度を上げ、ラグよりも一足先に戦いの場となる広場へ向かう。
ラグはアクセルを床まで踏みつけながら、何度もバックミラーで後方を確認していた。
コズミックドラゴンは確実に近付いて来ていた。
前方に草を食べている草食動物の群れが見えた。このままではぶつかるかと思ったが、ラグのビークルに気付くと一気に散っていった。
そのまま両脇が崖に挟まれた川の跡に進入する。
続いてコズミックドラゴンも入って来た。バックミラーではっきりとその姿を見る事が出来るくらいの距離まで迫っていた。
頭部を覆う鱗板が変化して角のように伸びている。4つある目は赤く光っていた。やや開いた口には大きな牙が目立ち、よだれが飛び散っている。
風で砂煙が流れた瞬間に全身を見る事が出来た。
前肢は体に比べるとやや小ぶりで、完全に地面から浮かしていた。2本足で走っているのだ。
後肢は筋肉質で大きく太い。その先の大きな爪は大地を削るように蹴っていた。
また、体表の鱗板もトゲのようになっており、まるで鎧を纏っているようだ。
ラグはアクセルを戻す事なく猛スピードでビークルを走らせた。
やがて広場への出口が見えた。
その頃、配置についたマーヴェットはミサイルランチャーを構えていた。まだ、肩で大きく息をしているが、トリガーを引き崖に照準をロックしていた。
呼吸が落ち着き始めた時、広場に入ってくるラグのビークルが見えた。
タイミングを図るようにトリガーを離した。
ランチャーからミサイルが飛び出す。
同時にコズミックドラゴンが見えた。
「でか!」
ミサイルが着弾し、爆発とともに大きく崖を崩落させた。
しかし、コズミックドラゴンはすでにその位置を通過していた。
「ごめん、逃した」
マーヴェットはすぐに次の装填を始めた。
コズミックドラゴンは崩落を気にかけることなくそのままラグのビークルを追っていた。しかし、周囲が囲まれた場所に入ったことにより、そのスピードが急に落ちた。
ラグは上へと続く崖の道を登り始めていた。
それを追うコズミックドラゴンをハダルが狙う。
頭に照準を合わせ、トリガーを引きロックした。
「ラグのビークルが!」
ヘッドセットを通してマーヴェットの叫ぶ声がした。
ラグのビークルが崖の途中でスタックしていたのだ。
「大丈夫だ、撃て」
ラグの声を聞いて、ハダルはトリガーを離した。
ビークルを飛び出すラグの姿が見えた。
その直後、推進薬の燃焼の尾を引くミサイルがコズミックドラゴンの頭に命中した。
頭部で爆発が起こり、剥がれた鱗板が飛び散った。
しかし、コズミックドラゴンは岩の陰に飛び込んだラグを狙っている。致命傷を与えられなかったのだ。
「マーヴェット!」
ハダルが叫んだ。
「当てる!」
マーヴェットの構えたランチャーからミサイルが放たれた。
白い排気煙を伸ばし飛翔したミサイルは、鱗板の剥がれたコズミックドラゴンの頭部に吸い込まれるように命中した。
頭の半分が吹き飛ばされ大きくのけぞる。そして響き渡る音とともに後ろに倒れ込んだ。
立ちのぼる砂煙の中、コズミックドラゴンはしばらく痙攣していたが、そのうち完全に動かなくなった。
「ラグ、大丈夫」
マーヴェットが心配して声をかけた。すると少し間を置いて。
「ああ、大丈夫だ」
元気そうなラグの声が返って来た。
「ビークル動きそうか?」
崖の上のハダルが聞いた。
「あー、多分プロペラシャフトがねじ切れてると思う。自走は無理だな」
隠れていた岩陰から這い出したラグが、ビークルをの下を覗き込みながら言った。
「じゃぁ、吊るすからビークル持って来る」
ハダルは着陸させてあるビークルに向かった。
「倒した証拠はなんだっけ?」
ラグは倒れているコズミックドラゴンに近付いた。
「鱗板か、もしくは皮膚のDNAサンプルだよ」
マーヴェットが答えた。
「わかった。どちらも採っておく」
「今回も、無事成功って感じだね」
マーヴェットはランチャーを担いで撤収を始めていた。
「ラグがビークル壊したから、報酬から引かれるぞ」
ハダルだった。
「マジっ」
「仕方ないだろ。かなり無視させたんだから」
「赤字にはならないよね」
「そうだ。帰りにオニジマさんの工場に寄って行こう」
「それいいね」
「報酬から引かれる修理代よりは安く済むだろう」
「でも自分で直せって言われるよ」
「ラグが直すよ」
「・・・」
3人の会話は尽きなかった。
その後、動かなくなった地表用ビークルの回収。その修理。そして、会社に戻りビークルの返却と完了の報告。
全て終わった頃には、3人はヘトヘトになっていた。
会社を出る。重い体を引きずるように向かうのは、いつもの居酒屋だ。
ところが、焼き鳥の盛り合わせを前にして、ビールで乾杯をする頃にはいつの間にか体の重さは消えていた。いつものことだ。
このいつものことで3人はホッとすることができた。
「まさかコズミックドラゴンを倒せるなんて、この仕事を始めた頃には考えられなかったね」
マーヴェットはいつものようにももの串から食べ出した。
「まぁ、3人の力があってだけどな」
ラグは喉が乾いていたのかジョッキをすでに空にしていた。
「いっそ、3人でエクタの会社でも作るか」
ハダルもジョッキを空にした。ラグと一緒にすぐに次を注文する。
「それいいね。そしたら、ビークルもひとつで済むもんね」
確かにそれはいい考えだった。エクタを始めるための最も大きな問題は、個人で高価な星間用ビークルを用意しなくてはいけないことだった。
いくら高価なものでも3人ならば手が届く。
「真剣に考えてもいいかもな」
ラグがねぎまをくわえながら言った。
「そうだ。会社の掲示用モニターにエクタの試験の案内が出てたの見た?」
マーヴェットもジョッキを空けると、すぐに次を注文する。
「気付かなかったな」
「俺も」
「まずね、試験には実技と筆記があるみたい」
「エクタに筆記なんて、何を書くんだよ」
ラグが絶望的な顔をマーヴェットに向けた。
「筆記は、一般的な野生生物の生態と、エクタの法律に関することだって」
「法律・・・」
ラグがすでに諦めたように肩を落とした。
「実技はさ、わたしたちの傭兵の実績からすると多分免除になると思う。だから筆記だけやればいい。みんなで勉強すれば大丈夫だよ」
そう言ってマーヴェットはラグの肩を叩いた。
「まぁ、エクタのテストは資格試験だから、一定のレベルがあれば落ちることはないだろう」
ハダルはそう言って2本目のレバーを手に取った。
「一人でも落ちたら、二人でビークル買わなきゃいけなくなっちゃうよね」
そう言ってマーヴェットは横目でラグを見た
「俺かよ!」
視線に気付いたラグはそれ以上言い返せなかった。筆記試験が大の苦手なのだ。
「ラグだって、生物の生態くらいは頭に入ってるだろ? エクタの法律にしたって大した内容じゃないと思うぞ」
「わかったよ。ビークルの頭数に入るように頑張るよ」
「じゃぁ、会社の名前は何にする?」
「気が早いな」
ハダルが呆れたようにマーヴェットを見た。
「こういうのは早い方がいいの。そしたらそれに向かって頑張れるでしょ」
「そうだな」
3人は思い思いの名前を挙げ、会社設立への話し合いは続いた。
しかし、酔いが十分に回った3人に、笑えるアイデアは出ても、使えるものが出るはずもなかった。
そんなわけで、次回持ち越しということで3人は居酒屋を後にした。




