3人
西暦2913年。
惑星識別番号が000104-004と表示されるまだ名前のない赤茶けた星。
その地表には網目のような無数の割れ目があり、深く長く惑星全体を覆っていた。
ここには人類の生活を示すようなものはまだ何もなかった。
「あと少し時間がかかる。絶対にここに奴らを入れるな!」
浅い割れ目の底から繋がる洞窟の中で、観測機器を操作しながらグレーの作業着姿の男がイラついた顔で言った。
洞窟の入り口では、背中まで伸びた青い髪を後ろで縛った若い女がライフルを持って割れ目の先を見ていた。
『残りはあと5匹。こちらで全て見えている』
『こちらでも確認。もうすぐ射程に入る』
女のヘッドセットに二人の男の無線のやりとりが聞こえた。
少しして割れ目に連続した銃声が響いた。
『1匹逃した!』
『だめだ、こちらからは見えない』
その直後、洞窟の前に立つ女の視界に、高さが15メートルほどの爬虫類のトカゲを思わせるような巨大な生物が映った。
「まかせて!」
そいつは4つ足を使い、凄まじいスピードで洞窟に向かっていた。
距離は500メートル。しかし、どんどん縮まる。
女は落ち着いた様子でライフルを構えると、トカゲの頭に照準を合わせた。
「ば、ばか。何してる。早く撃て! このノロマ! 化物が来てるじゃないか!」
作業着の男が女を罵るように叫んだ。
女はそんな言葉を聞き流し、ゆっくり息を吐くとトリガーを引いた。
銃声が響く。
地面を削るように倒れ込む巨大なトカゲ。緑色の体液が噴き出る頭にはライフルの弾が貫通していた。
「も、もっと早く倒してくれ。生きた心地がしないじゃないか。ばかたれ!」
作業着の男は吐き捨てるように女に言うと、観測機器の操作に戻った。
少しして、先ほど無線を送った二人の男がやってきた。
「すまなかった。マーヴェット」
グレーの髪をポニーテールにした細身の男が言った。
「無事倒せてよかった」
ブラウンの短髪で無精髭を生やしたやや筋肉質の男が言った。
二人の男は労うようにマーヴェットの肩を叩いた。
「ハダルは慎重すぎるから、撃つのがほんのちょっと遅れるのよ。逆にラグはせっかちだから急ぎすぎ」
マーヴェットは二人の問題箇所をいつものように指摘した。
「お前はどっしりと構えすぎだ。今のだって、ワンテンポ遅れたら突っ込まれてたぞ」
ハダルがマーヴェットに言い返した。
「ちゃんと倒したから、問題ないでしょ」
さらにマーヴェットが言い返した。
「二人ともそれくらいでやめておけ、依頼主が睨んでいるぞ」
ラグはいつもの調子の二人にいつものように呆れた顔を向けると、奥にいる作業着の男を小さく指差した。
洞窟の奥から作動音が聞こえた。測定の終了を知らせる観測機械からだった。
今にも文句を言いそうな顔で3人を睨んでいた作業着の男は、慌てて機械を操作し出した。
「よし、無事終了した。撤収だ」
作業着の男は機械をばらし始めた。
3人組はライフルの弾倉を確認した。まだ帰り道に危険が潜んでいるかもしれない。
「じゃぁ、先に行くから、船まで荷物を運んでくれ。精密機械だから乱暴に扱うなよ」
「了解しました」
ハダルが歩き始めた作業着の男に返事をした。
「俺が持つ」
ラグは自分のライフルをハダルに渡すと、大きなリュックに入った観測機械を背中に担ぎ、さらに細かいものを両手に持った。
「小さいの持とうか」
マーヴェットがラグに聞いた。
「みんなが余分なもの持っていたら、何か出てきたときに対応が遅れるだろ」
「まぁ、そうね」
3人は作業着の男を追うように早足で歩き始めた。
「いつも思うんだが、荷物運びも俺たちの仕事か?」
ハダルが小声で言った。
「サービスを心がけよ、って会社のおばちゃんが言ってたぞ」
ラグが言う。
「傭兵って聞くとかっこいいけど、所詮雇われの身だから」
マーヴェットがうんざりしたように言った。
やがて、歩く先にふたつの星間ビークルが見えた。
ひとつは真新しい綺麗なビークルで、もうひとつは汚れて傷だらけだった。
作業着の男は綺麗なビークルの後部ゲートを開くと、3人を振り返った。
「機械はここに乗せてくれ」
ラグが言われた場所に担いできた大きなリュックと両手の荷物を下ろした。
「今日はご苦労だった。データがしっかりと取れたのと無事に戻ってこれたので、評価は満点として送っておく」
そして男はまだ何か言いた気にマーヴェットに目を向けた。
その目にいやらしさを感じ取ったマーヴェットはすかさず応える。
「本日はありがとうございました。わたしたちへの対応は申し分なく、貴社への評価も満点として返させていただきます」
作業着の男はそれ以上何も言えず、名残惜しそうに綺麗なビークルへ乗り込んでいった。
3人は急いで汚れたビークルに乗り込んだ。
のんびりしていては隣のビークルが発進する時に舞い上がる砂埃を浴びなくてはいけなくなるからだ。
ブリッジに上がると、ちょうど綺麗なビークルが飛び立つところだった。
「じゃぁ、帰るか」
ラグが操縦席に座る。
そしてマーヴェットとハダルが横にあるそれぞれのシートに座ると、ラグは巨大なブースター付きの傷だらけのビークルを発進させた。
第5星の国家ディルパールがあるセントラル恒星系の第4惑星、トント。
ここには傭兵の派遣会社、マシナリーテンプがあった。
いくつも小汚い星間ビークルが並ぶ駐機場に仕事終わりのビークルを着陸させた3人は、配車係にビークルのキーを渡すとそのまま近くにあるタイムカードを押した。するとパネルに今回使用した弾薬の数が表示される。使った金額は報酬から天引きされる仕組みだ。
これで本日の任務完了である。
「さて、一杯飲むか」
「お腹すいた」
「いつものところでいいか」
そんな会話を残し3人は会社を出ると、近くにある行きつけの居酒屋に向かった。
居酒屋に入った3人は、いつもの席に座りいつものようにまずビールを頼んだ。つまみは焼き鳥の盛り合わせだ。ここの焼き鳥はうまい。
「じゃぁ、まずは無事に戻れたことに乾杯だ」
ハダルが音頭を取り乾杯をした。
皆がグイッとジョッキの半分ほどを一気に飲んだ。
「今日の弾薬は少なく済んだな」
ラグがねぎまに手を出した。
「この間なんて、マーヴェットがミサイルランチャー撃ちまくったから大赤字だったもんな」
ハダルはレバーを取った。
「何言ってるの。わたしが撃たなきゃ、みんな死んでたよ」
マーヴェットはももを選んだ。
「弾薬くらい会社持ちにしてほしいよな。手取りだって少ないのにさ」
この3人は、一応傭兵と名乗ってはいるが、正確には派遣会社~マシナリーテンプの登録社員だった。
この会社の仕組みは・・・。
まず、新しい星の開拓を始めようとする企業からマシナリーテンプに傭兵の依頼が来る。この依頼の主な目的は、調査に出向く社員を未開の星に生息する凶暴な生物からか守ることだ。
次に調査を行う星に生息する凶暴な生物に対処できるレベルを満たした登録社員が選ばれる。そして、選ばれ連絡を受けた登録社員が依頼場所に出向くことになる。
スキルのある傭兵は個人事業主として直接依頼が来たりするが、3人のような実績に乏しい駆け出しに直接依頼が来るようなことは全くなく、仕事を受けるためには派遣会社に登録しておくしかなかった。
企業からは一見高額に見える報酬が提示されているが、当然の如く依頼報酬のかなりの額が派遣会社にとられ、さらに使用した弾薬なども天引きされる。また、現場への往復に使用するビークルは貸し出しだが、万が一壊すと高額な修理代が請求される・・・。と、まぁ、実際に手元に来るのは、働きに見合った報酬とはとても言えぬ金額だった。
「俺たちが派遣ってのがわかっているから、護衛対象の奴らはいつも横柄な態度をとるよな」
ハダルは空になったジョッキを持ち上げ、次を注文した。
「1匹くらい野生生物を捕り逃して、アゴで使う奴らを怖い目に合わせてやりたいっていつも思うけど、評価に響くからな」
ラグもビールを追加した。
マーヴェットは残っていたビールを飲み干し、『わたしも』と同じく注文した。
「今日はさ、二人がいたからよかったけど、ひとりで行くとエロオヤジがお尻を触ってきたりするんだよね」
マーヴェットは串に残っていたももを口に入れると、串をナイフを投げるような仕草で串入れに放り込んだ。
「だから、いつも腰にナイフ付けてるのか」
ハダルが納得したように言うと・・・。
「さりげなく腰を動かして、触ろうとした手にナイフを当てるの。するとね、飛び上がるような勢いで手を引っ込めるよ」
マーヴェットがクスクスと笑った。
その横で、ラグが『こわ』と小さく呟いた。
「でも、まぁ、そろそろ企業相手の傭兵を卒業して、個人の相手をするエクタに代わった方がいいかもな」
そう言ってハダルは運ばれてきたビールを一口飲んだ。
「エクタの方が儲かるって聞いたよ。免許は傭兵経験がある程度あれば簡単に取れるって話だし」
マーヴェットはまたももの串をとった。
「そうなると自前で星間ビークルを買う必要があるだろ。最も大きな・・・、てか巨大な出費だ」
ラグはかわをかじっている。
「最初は中古しか無理だろうな」
ハダルの手にはなんこつがあった。
「中古は、特に低年式のはやめた方がいいって話だぞ。出先で動かなくなったら大変だ」
「IVF(Interstellar Vehicle Federation)に入っていればいいんじゃない?」
「それ、年会費いくらだと思ってるんだよ。それに去年からだったか、その場で修理できなくって牽引する場合は無料じゃなくなったぞ。牽引、1光年でいくらとか」
「そりゃ大変。まだまだ、派遣で過ごすしかないってことね・・・」
3人はこんな会話を続けながら、そのうちアルコールと焼き鳥で心と腹が満たされてゆく。
そして十分満足したところで、ほろ酔い気分で居酒屋を出る。
「じゃぁ、また、次の仕事で」
ラグは二人に軽く手をあげると、自分のボロアパートへ向かって歩き出した。
「送っていくよ」
ハダルはいつものように、帰る方向が一緒のマーヴェットに声をかけた。
二人は他愛もない話をしながら歩いていった。
マシナリーテンプで仕事をするうちにいつの間にか仲が良くなった3人は、いつもこんな感じで日々を過ごしていた。




