family register
5つの星の国家の中で、天の川銀河の最も端にある第4星の国家モナミ・・・、があるエンド恒星系からさらに端っこに200光年ほど進んだ本当に端っこの端・・・。
この辺りまで来ると、天の川銀河の中心方向には星がたくさん見えるのに、その逆側は真っ暗で目を凝らして探さないと輝くものはほとんど見つからない。
そんな位置にあるエッジ恒星系、その第5惑星ブレイク、またの名を『秘湯の星』。
この星は地殻変動が激しく、地表には煙を吐き続ける活火山がいくつもあった。それによっていろいろな効能を持つ良質な温泉が所々に湧いており、それを利用したホテルや宿屋がいくつも建っていた。
傷ついた野生動物が山奥に湧き出た温泉で傷を癒すように、仕事で傷ついたエクタや傭兵たちが頻繁に利用していた。
その中の古びた温泉宿で、ラグとヒミコは休暇を楽しんでいた。
そして、仕事を終えたマーヴェットが合流した夜・・・。
「もう、どれだけ昼間に遊んでたの。一瞬で寝たよ」
ヒミコを寝かし寝室から戻ってきたマーヴェットは、ラグに向かい合うように座布団の敷かれた座椅子に座った。
「ブーツ履いていないのもリラックスできていいね。こんな部屋をビークルに作ろうかな」
この宿は大昔の日本の温泉宿を模した造りで、二人の部屋も畳敷きだった。
テーブルの上には刺身、天ぷら、根菜の煮物など、酒のつまみも大昔から伝わる日本料理だ。
当然飲んでいるアルコールも日本酒だった。
宿屋の主人は、大昔の製法をそのまま再現して作っている酒だと自慢していた。
「ほい」
ラグが徳利をマーヴェットに向けた。
マーヴェットがそれをお猪口で受ける。そして、一口飲んだ。
「ちょっと甘くて美味しいね」
今度はマーヴェットがラグのお猪口に注ぐ。
「傷は大丈夫?」
「まだ出血するけど、抗生物質が当たったのか、今のところ酷い化膿はない」
ラグの腕に巻かれた包帯には少し血液が滲んでいた。
「あれから、あいつはちょっかいを出してきてない?」
「ああ、もう何もしないだろ。もしも次に連絡があるとしたら、正式な依頼の時だろうな」
するとラグはテーブルに置かれた端末を持つと何度か操作して、その画面をマーヴェットに向けた。
「別に要求したわけじゃないんだけど・・・」
画面を見たマーヴェットの顔が驚きに変わった。
「すごいじゃない。エクタの正式な免許。それもプラチナランク」
プラチナランクとは、最高のスキルを持つことの証明で、エクタの中でも数名にしか与えられていなかった。
「本物なんだよね?」
マーヴェットはラグから端末を取り上げ、画面をなんども覗き込むように見た。
「それはどうでもいいんだけど・・・」
ラグはマーヴェットから端末を取り返すと、再び操作し別のものを表示させた。
「これ・・・」
そう言ってマーヴェットに渡した。
「family register・・・」
マーヴェットはその見慣れない画面を確認するようにまじまじと見た。
ヒミコ・フィーマー、これは本人の名前。その左右に、ラグ・フィーマー。そしてマーヴェット・サラサと記入されていた。これは両親を示すものだ。
それはヒミコのいわゆる戸籍だった。
「勝手なことをしてくれる・・・」
ラグが呆れた様子で言った。
「あれ? わたし変なこと言ったかな」
星間警察のビークルを追い払ったときのことを思い出し、マーヴェットの表情が引きつった。
「俺たちには記載の変更ができる権限付きだけど、マーヴェットだけ消そうか。困るだろ」
ラグはマーヴェットに申し訳なさそうな顔を向けた。
「でもね。こう書かれていることであの子を少しでも守ることができるなら、わたしは構わないよ」
マーヴェットの少し嬉しそうな表情に、ラグは気付いていない。
「ありがとう。でも、まぁ、いつ抜けてもいいからな」
「うん。わかった・・・」
そう言ってマーヴェットは少し寂しそうにお猪口を口に運んだ。
「てかさ、部屋同じでよかったのに。わざわざもう一つ取らなくてもさ」
「そーいうわけにもいかないだろ」
「ねぇ、隣に行っていい?」
マーヴェットはラグの返事を聞く前に立ち上がると、自分のお猪口を持ってラグの横に座った。
すると扉の開く音がした。
「おしっこ出る・・・、トイレどこだっけ」
ヒミコが眠そうに目を擦りながら立っていた。
「はい、はい」
マーヴェットはすぐに立ち上がると、ヒミコの手を引いてトイレへ向かった。
ラグはそんな二人の後ろ姿を見て、穏やかな気持ちになった。
しかし、それと同時に、昔のことが思い出され、すぐにその心地よい感覚は消えてしまった。




