約束
「パパ・・・」
不意にヒミコの口から言葉が漏れた。
それまでラヴリーフェマリス号のブリッジでラグからの連絡が来るのを楽しみに待っていたヒミコだったが、何故か急に不安が襲った。
それは徐々に大きくなり、体が震えた。
「パパ・・・」
不安にさらに恐怖が混ざりヒミコの心を締め付けた。
「パパ・・・」
ヒミコはラグのもとに向かうために、ラヴリーフェマリス号の操作パネルに手をかけた。
大気圏突入も数回経験している。ちゃんと出来る。
今までにもビークルで留守番していろと言われたことは何度かあった。でも、いつも抜け出してラグのもとに向かった。
今回も抜け出しちゃえばいい・・・。
どんな時もラグは笑顔で迎えてくれた。
しかし、今回は違う気がした。
優しく有無を言わさぬ命令をしたラグの顔が浮かんだ。
「ダメ。約束、守らなきゃ・・・」
ヒミコは泣き出しそうな顔でパネルから手を外した。
「でも・・・」
ラグのホントの優しい顔が何度も浮かぶ。
「パパ、きっと大変・・・」
ヒミコはウエストポーチから端末を取り出すと、星間測位システムの位置情報が表示されているか確認した。
「ここ・・・」
そして格納庫へと走る。
格納庫に着いたヒミコは、壁に固定してあるヒミコが3人は入りそうな大きさのカプセルを見つけるとそれに向かった。
固定してあるワイヤーを外し、体全体でカプセルを押す。
いくら台車に乗っているとはいえ、小さな子供の力ではなかなか動き出さない。
重力装置を切ろうかと考えたが、それではもっとややこしいことになってしまう。
ヒミコは押し続けた。
カプセルが少しづつ動き始め、目的の方向に向かって進み出した。
さらに力を込めて押す。多少スピードが出た。このまま目的の場所までいけるだろう。
しかし、今度は止めることが出来ない。
ヒミコはゆっくり進む台車に轢かれないように先回りすると、ダストシューターのハッチを開いた。
運良く、カプセルは台車ごとその中に突っ込んだ。
本来ならばカプセルだけを入れるのだが。
ヒミコはハッチを閉めると、その横の操作パネルを起動させた。
まず、位置情報を入力する。少し遅れてラヴリーフェマリス号がゆっくりと回頭を始めた。
「えっと、次は・・・」
ヒミコはラグのやっていたことを必死に思い出した。
パネルを何度も操作して、求める項目を探す。
「あ、これだ」
ヒミコはやっと見つけた『射出』の項目を選び、パネルに触れた。
ハッチの向こうで作動音がする。
急いで格納庫の壁にある小窓から外を見る。
しばらくすると、ラブリーフェマリス号の先端から先ほどのカプセルが台車と一緒に飛び出していった。
そのままプロンタルの大気圏へと落ちてゆく。台車はすぐに燃え尽きてしまうだろう。
カプセルが大気圏へ入ったことを確認したヒミコは場所を移動し、格納庫の壁を凹ましたような狭いスペースにあるシートに座った。
中央のパネルに端末を置き、位置情報をリンクさせる。
そしてゴーグルを付けると、左右にあるパネルに手を乗せた。
ゴーグルの中の真っ暗なヒミコの視界には、座標を示す数字とその方向だけが表示されている。
すると急に視界が明るくなった。
視界はものすごいスピードでぐるぐると回転している。
目が回り酔いそうになるのを耐える。
やがて回転が止まり、青い空と赤茶けた大地を映した。
「パパ、すぐ行くから」
ヒミコはラグに向けてローターレスドローンを最大に加速させた。




