ハンドガン
ラグは夜明けの方向に向かってビークルを走らせていた。
ちょうど日が昇る頃、ゼニガタの示した座標にパトランプをつけた数機の星間警察の恒星間航行用ビークルが見えた。
スピードを落としゆっくりと進み、その横にビークルを止める。
すると、ラグの到着がわかっていたように星間警察のビークルから一人の男が姿を現した。
ダークグリーンのトレンチコートを羽織った細身の中年男性、ロギム・ゼニガタだった。オールバックの黒髪はわずかな風でも乱れないようにワックスで固められていた。
「お待ちしていましたよ。ラグ・フィーマーさん」
相変わらず癇に障る声、そして喋り方だった。
おそらく周囲からはラグに銃口が向けられているだろう。ラグは自分の動きに注意しながらビークルを降りた。
「時間がないのだろう。すぐに現場に向かう。アジトの場所を教えてくれ」
「相変わらずせっかちですね。装備の確認をしたらすぐにお教えしますよ」
ゼニガタが右手をあげると、どこからともなく部下がひとり現れラグに近づいた。
「申し訳ありませんが、腰のハンドガン、マガジン、そしてブーツのナイフを任務終了まで預からせていただきます。その代わりにこれを」
そう言って手渡されたのは、星間警察の使用する9mm弾セミオートのハンドガンひとつだった。
「なるほど、警察の銃以外のものを使った痕跡も不味いわけか・・・」
ラグはゼニガタを睨みつけた。
ゼニガタはニヤリと笑うと・・・。
「それと、背中のリュックもお預かりしましょう」
「これは麻酔ガスだ。ハンドガンの縛りには影響ないだろ」
「いやいや。ガスを吸ってすぐに殺してしまうと麻酔ガスが十分代謝されずに体内に残ってしまいますからね。それは不可です」
部下がラグに向かって手を伸ばした。ラグは仕方なくリュックを渡した。
「腰のポーチは・・・」
ゼニガタの言葉に反応し、すぐに部下がラグのポーチを開きその中身を見せた。
「抗体ですか。まぁ、それくらいはお許ししましょう」
もう取り上げるものがないと判断したゼニガタは部下をさがらせた。
「予備マガジンもないハンドガンがたったひとつか。これで気が済んだか」
ラグは渡されたハンドガンのマガジンを抜いた。そこにはしっかりと10発の弾があった。
「そこまで縛るつもりはありませんよ。でも、ラグさんなら1発で仕留められると信じています。頭を1発で・・・」
ゼニガタは最後を強調するように言うと、クククと笑った。
「なぁ、もしも俺が失敗したら、どうするつもりなんだ。そうなれば、お前のミスも嘘も全てバレるだろう」
一瞬ゼニガタの表情が変わった。マーヴェットが調べたことに間違いはなさそうだった。
「・・・さすがですね。きっと全てご存知なのでしょう。でも、それだけあなたに期待していると言うことです。わたしのすべてを賭けて」
「そうだよな。こんなこと誰も引き受けない」
「あなたが引き受けてくださって、感謝しています。あなたは引き受けた依頼は必ず成功させる」
「成功したら俺の無免許に目をつぶるなんて言っていたが、お前の人生がかかっていると言うのにそれじゃぁ釣り合わないんじゃないのか」
「ほう、あなたからも交換条件ですか。わかりました。十分配慮して考えておきましょう」
「それと、そこまで俺を信用しているのなら、俺がいない間にヒミコに手を出すな。いいな!」
再びラグはゼニガタを怒りを込めた目で睨みつけた。
「わかりました。約束します。あなたがわたしの夢を守るために働いている間、あなたの夢には手を出しません」
「お前の夢なんて!」
ラグは吐き捨てるように言うと、手に持っていたハンドガンを空になっていたホルスターに収めた。
ラグのポケットの携帯端末が反応する。
「アジトの場所です。キメラが逃げると厄介です。中に入ったら必ず扉を閉めてください」
ラグは端末を取り出し座標を確認すると、そのままビークルに乗った。
そして、ゼニガタを振り返ることなく、アクセルを踏んだ。
『あいつのことだ。俺が失敗したときのことも既に考えているのだろう。
死んだ俺に全ての責任を負わすようないい方法を。
ならば、必ず成功させてやる。
それと、成功した後だ。あいつは必ずヒミコに手を出す』
完全に姿を現したプロンタルの太陽であるヘラは、まだ早朝の高さだと言うのに強い日差しを大地に浴びせていた。
その中をラグのビークルは砂煙を残しながら目的地に向かって疾走していった。




