またね
ランバ恒星系第5惑星 レード
モルビリ1号からレードに戻ったラヴリーフェマリス号は、タロ・オニジマのドック横の空き地にゆっくりと機体を着陸させた。
ヒミコとマーヴェットがビークルを降りると、戻ってきたことに気づいたオニジマがドックの外で待っていた。
「オニジマのおじちゃん、ただいま」
ヒミコが手を振りながらオニジマに駆け寄った。オニジマは姿勢を下げるといつものようにヒミコの頭を撫ぜた。
「危ない目に合わなかったか」
オニジマが心配そうに聞いた。
「うん大丈夫。パパが死にかけただけ」
ヒミコはそう言って、あははと笑った。
オニジマは驚いたように周囲を見渡した。ラグの姿が見えない。
「ラグが怪我したのか」
オニジマは顔を硬らせながらマーヴェットに聞いた。
「ヒミコちゃん、そんな言い方したらオヤジさんが驚くでしょ。ラグはピンピンしてるから大丈夫ですよ」
それならどうしてラグがこの場にいないのかとオニジマが聞こうとすると、それより先にマーヴェットが話を続けた。
「でも、オヤジさんの仕事をまた増やしちゃった」
すると、ラヴリーフェマリス号の後部ゲートが開き、格納庫からラグの地表用ビークルが出てきた。後には牽引ロープでフロントから助手席にかけて大きく潰れたマーヴェットのビークルが繋がっていた。
ラグが元気そうにオニジマに手を振る。
「また、直してもらわなきゃ・・・」
マーヴェットがもうしわけなさそうな顔をオニジマに向けた。
ラグのビークルは3人の前を通り抜け、潰れたビークルをドックの中へと引っ張って行った。
「被害はあれだけか?」
「ええ、あれだけで済みました」
「そうか、よかった」
オニジマは潰れたビークルを目で置いながら安堵の表情をした。
「オレはエネルギー伝導管の修理がある。潰れたビークルはお前たち二人で直せ。最後の確認はしてやるから」
「あ・・・、はい・・・」
マーヴェットは修理が終わるまでしばらくこの星で休息を取るつもりだったが、そのアテが外れてガックリと肩を落とした。
「まぁ、とりあえず今晩はゆっくり休むといい。無事任務完了の打ち上げだ」
オニジマはなんだかんだと理由をつけて酒を飲むのが好きだった。
「それじゃぁ、今のうちに必要なパーツのリストアップしておきます」
「午後3時までの注文なら、明日には届く」
マーヴェットは頷くと、ドックに入って行ったラグの後を追った。
「あたしは何をすればいい?」
ヒミコがオニジマに聞いた。
「そうだな。グズリ退治の話をしてもらおうかな」
「うん。いいよ」
オニジマは嬉しそうに応えるヒミコと手を繋ぐと、ドックの作業に戻って行った。
次の日。ツナギ姿のラグとマーヴェットは、朝食をとるとすぐに潰れたビークルの修理に取り掛かった。
使いものにならなくなったパーツは昨日の発注リストを作る際に既に外してあったが、大きく曲がったフレームを直すには全てのパーツを下さなくてはいけなかった。
細かなパーツはそれぞれが勝手に外し、エンジンのような大きなパーツは協力して降ろした。
ラグもマーヴェットもこう言った作業には慣れているので、昼前にはフレームだけにすることが出来た。
次にフレームを修正機に乗せる。スキャンをかけると歪んだ数値が表示される。信じられないほどの歪みだった。
「星間ビークルをぶつけても、グズリが勝つかもね」
マーヴェットが呆れるように言った。
ここまで来れば、あとは機械が勝手に修正してくれる。
「昼食の用意するね」
マーヴェットは機械のスイッチを入れると、奥のキッチンへと向かった。
ドック中央に置かれたマーヴェットのビークルの痛々しい爪痕の奥からは、オニジマとヒミコの話し声が時々笑い声と混ざって聞こえてくる。
どうやらヒミコはオニジマの助手をしているようだ。
オニジマが工具の名前を言うと、すぐに言われた工具を復唱しながら渡していた。
するとドックの外に黒と白の猫の絵が描かれた大きな貨物用ビークルが着陸した。
星間宅配便だった。
「毎度。くろしろヤマトです」
「ご苦労さん」
すぐにラグが対応に出た。
くろしろヤマトの配達員はビークルから大きなコンテナを下ろすと、急ぐように次の配達へと飛び立って行った。
「パーツが来たから、フレームの修正が終わればすぐにでも組めるな」
ラグがパーツリストを簡単に確認しながら呟いた。
「えー、マジぃ!」
突然、奥のキッチンからマーヴェットの驚く声が聞こえた。
そしてキッチンから飛び出したマーヴェットは、慌てた様子で端末を手にしてラグのもとに走ってきた。
何事かと、オニジマもヒミコも爪の穴から顔を出している。
「今、モルビリ興業から入金の連絡が来たんだけど、なんと、なんと、なんと、なーんと! 約束の金額をそれぞれに払うって!」
そう言って端末の画面をラグの顔に向けた。
「ほんとだ。すげー」
ラグは静かに驚いた。
「潰れた車なんか直すのやめて、新車買おうかな」
マーヴェットの頭の中には真新しい地表用ビークルが浮かんでいるようだった。
「早まるな。エネルギー伝導管は高価だぞ。そんなもの買って払えるのか」
ラグの言葉を聞いて、マーヴェットの表情が一瞬で曇った。
「そっか・・・」
肩を落としたマーヴェットが先ほど届いたコンテナに気付いた。
頭の中が現実に戻る。
「部品も届いたし、直すぞ!」
そう言って端末をポケットにしまいキッチンに戻ろうとすると、ラグが顔を寄せてきた。
「俺の取り分は、俺の分の7でいい。そんな約束だったろ」
「いいの・・・」
「ああ、ビークル潰したのは俺のせいだし。ヒミコには内緒だぞ」
「ありがとう・・・」
マーヴェットは潤んだ瞳をラグに向け、そして体を弾ませながらキッチンに戻って行った。
それから数日して、地表用ビークルと星間用ビークルの修理が完了した。
しかしそれは、別れの時でもあった。
ラグもマーヴェットも次の依頼先に出発しなくてはならない。
「オヤジさん、世話になったね」
「助かりました。ありがとうございます」
「おじちゃん、楽しかったよ」
3人がオニジマに別れの挨拶をする。
「たまには修理以外の時に来いよ」
オニジマは姿勢を下げるとヒミコに目線を合わせ頭を撫ぜた。
「危ないことするんじゃないぞ」
「パパと一緒だから大丈夫」
ヒミコが笑いながら言った。
「今回はありがとう。危険な目に合わせてごめんね。でも、助かった」
マーヴェットがラグの手を取り無理やり握手をした。
「お互い様さ」
ラグも手を握り返した。
次にマーヴェットは姿勢を下げヒミコと向き合った。
「素敵な時間を過ごせたよ。また一緒に料理作ろうね」
そう言って、ヒミコの頭に手を出した。
「あれ?」
ヒミコはマーヴェットの手を避けることなく素直に撫ぜられていた。
「どうして?」
マーヴェットが戸惑った表情を向ける。
「ま、たまにはいいかなって思って。今日は特別」
二人は笑った。
そして、ラグとヒミコはラヴリーフェマリスに、マーヴェットはクイーンホーネットに乗り込む。
少しして、手を振るオニジマを残し、同じ形をした2機の星間用ビークルは重力制御による砂塵を巻き上げながら地面を離れた。
このままマスドライバーへと向かい、宇宙に放たれる。
そのあとはすぐにバブルドライブが作動するだろう。
それぞれの目的地に向けて。




