第十七話 前編 暗黒皇帝、授業をうける
精神世界での修行を終えてから、初めての学校。
……正確には、学校に来ること自体がほぼ一か月ぶりだった。
精神世界での修行。
戻ってからの疲労。
防人とのあれこれ。
猿飛さんと雉子谷さんとの模擬戦。
気づけば、まともに学校へ来られない日が続いていた。
(……僕、マジで出席日数やばくない?)
『強者への道に、そのような些事を気にする必要があるか』
(あるよ! 留年したらどうするの!?)
『もう一度、二年生をやればよかろう』
(絶対イヤだよ!)
そして。
約一か月という空白は、僕が思っていた以上に大きかった。
◇
一時間目。
数学。
カツ、カツ、とチョークが黒板を叩く音がする。
「では、この問題を……」
先生が黒板いっぱいに数式を書いていく。
僕はそれを眺めながら、そっと教科書を開いた。
…………。
数ページめくる。
………………。
さらにめくる。
(知らないところまで、めちゃくちゃ進んでる……!)
『先ほどから何を慌てておる』
(僕が休んでる間に授業が進んでるんだよ!)
『ならば学べばよかろう』
(今まさにその最中なの!)
「じゃあ……陰山」
「はいっ!?」
突然名前を呼ばれ、椅子から腰が浮いた。
教室のあちこちから小さな笑い声が漏れる。
「久しぶりの登校早々悪いが、これ、解いてみろ」
「えっ」
先生がチョークで黒板を軽く叩いた。
よりによって。
そこには、さっきから僕が見なかったことにしようとしていた数式がある。
「…………」
「どうした?」
「あの……」
分からない。
見事なくらい分からない。
(皇帝)
『なんだ』
(助けて)
『断る』
(即答!?)
『貴様の学業であろう。余に何の関係がある』
(お願い! 一か月ぶりに登校して最初の授業で公開処刑は嫌だよ!)
『知らぬ』
薄情者!
「陰山?」
「い、今考えてます!」
もう一度、黒板を見る。
やっぱり分からない。
そのとき。
『……待て』
(え?)
皇帝の声色が変わった。
『シュウ。この記号は何を意味する』
(これ? えっと……こういう意味だけど)
頭の中で、分かる範囲だけ説明する。
しばらく沈黙があった。
『なんだ。その程度か』
(その程度!?)
『随分と回りくどい書き方をするものだ』
(分かるの!?)
『呼び方も記号も余の世界とは異なる。だが、理そのものは変わらぬ』
皇帝が鼻を鳴らす。
『魔導術式の構築に比べれば児戯よ』
(魔法に数学使うの!?)
『当然であろう。座標も角度も距離も定めず、どうやって大規模術式を制御するつもりだ』
言われてみれば、なんとなく納得できる。
『よい。立て』
(え)
『余の言う通りに書け』
(ちょっと待って。本当に大丈夫?)
『誰に物を言っておる』
その自信が一番怖いんだけど。
でも、もう逃げ道はない。
僕は席を立ち、黒板の前へ向かった。
先生からチョークを受け取る。
『まず、それを移せ』
(これ?)
『違う。そちらだ。愚か者』
(分かってるよ!)
言われるままに数式を書いていく。
一行。
二行。
三行。
途中から僕には、自分が何を書いているのかすらよく分からなくなってきた。
「……ん?」
背後で先生の声がした。
チョークを持つ手が止まる。
(やっぱり間違えた!?)
『続けよ』
(でも先生が)
『構わぬ』
仕方なく続きを書く。
「陰山、ちょっと待て」
「は、はい!」
終わった。
一か月ぶりの登校。
数学教師の前で謎の数式を書き散らして終了。
そんな僕の予想とは裏腹に、先生は黒板をじっと見つめていた。
「お前、その解き方……どこで習った?」
「え?」
振り返る。
先生は怒っていなかった。
むしろ、不思議そうな顔をしている。
「あ……えっと……」
(皇帝!)
『知らぬ』
(そこまで考えてなかったの!?)
「独学……です」
嘘ではない。
たぶん。
「独学?」
「はい……」
先生がもう一度黒板を見る。
「いや、でもここは違うな」
先生がチョークを手に取り、僕の書いた式の一部を指した。
「ここでは、この項を先に処理しないと……」
『違う』
皇帝が即座に言った。
(え?)
『その教師が間違っておる』
(ちょっと!)
「こうして……」
『違うと言っておる』
(先生なんだけど!?)
『だからなんだ』
(数学の先生だよ!?)
『余は皇帝だ』
(数学では何の権威にもならないよ!)
『シュウ』
皇帝の声が低くなる。
『教師とやらに言え。そこでは順序を変えても結果は同じだ。むしろ奴の方法では、この条件を一つ余分に仮定しておる』
僕は黒板を見る。
分からない。
さっぱり分からない。
でも、皇帝の声には一ミリの迷いもなかった。
「あ、あの……先生」
「ん?」
「そこ……違うと思います」
教室が静かになった。
…………。
言っちゃった。
「陰山が先生にダメ出ししたぞ」
「皇帝つよ……」
後ろから小声が聞こえる。
やめて。
煽らないで。
「違う?」
先生が眉を上げた。
「じゃあ、説明してみろ」
(皇帝ぃぃぃ!)
『狼狽えるな。説明してやれ』
(僕が!?)
『余が教えてやる』
そこからは、ほとんど皇帝の言葉をそのまま僕が翻訳する作業だった。
「えっと……ここを先に固定すると、この条件まで必要ってことになって……でも、こっちから考えれば……」
自分で話していても半分くらいしか理解できない。
それでも説明を続ける。
やがて。
「…………」
先生が黙った。
黒板を見る。
僕を見る。
また黒板を見る。
「……あ」
小さく声を漏らした。
「ほんとだ」
教室がざわついた。
「マジ?」
「先生負けた?」
「皇帝すげえ!」
(やめてぇぇぇ!)
『フン』
頭の中で皇帝が満足そうに鼻を鳴らした。
『当然だ』
先生はしばらく黒板を眺めたあと、ゆっくり僕を見る。
「……陰山」
「はい」
「お前、この一か月、学校休んで何してたんだ?」
「…………」
異世界の暗黒皇帝に殺されながら修行してました。
とは、もちろん言えるはずもなく。
「……自主学習?」
「なんで疑問形なんだよ」
教室に笑いが起こった。
僕は逃げるように自分の席へ戻る。
(もう絶対、皇帝には聞かない)
『何を言う。見事な采配であったろう』
(僕、何にもしてないじゃん!)
『余の知識を伝える器として役立ったではないか』
(器って言うな!)
席に座ったところで、後ろの男子が僕の肩を軽く叩いた。
「さすが皇帝」
「やめてよ……」
『だから貴様は皇帝ではない! 皇帝は余だぞ!』
(そっちも面倒くさいな!)
◇
そして二時間目。
英語。
「じゃあ陰山。ここ、読んで訳してみろ」
(皇帝……英語はさすがに無理だよね?)
『読めるぞ』
(…………え?)
『貴様が普段使っておる端末や書物から、とっくに覚えた』
(いつの間に!?)
結果。
「……正解。発音も妙にいいな」
なぜか正解。
続けて当てられた問題も正解。
その次も正解。
「皇帝、英語までいけんのかよ……」
後ろからそんな声が聞こえた。
僕が一番そう思ってるよ。
◇
三時間目。
古文。
ここまで来ると、ちょっと試したくなってきた
(これは?)
『読める』
(やっぱり!?)
『むしろ先ほどの言葉より、こちらのほうが理解しやすい』
(なんで日本の古文まで……)
『言葉とは移ろうものだ。古い言い回しほど、時代や世界が違えど似た理を持つ』
分かったような、分からないような。
「陰山。ここの意味は?」
『極めて趣深い、という意味だ』
「えっと……とても趣深い、です」
「正解」
「…………」
僕は悟った。
この人。
学校の授業と、めちゃくちゃ相性がいい。
(皇帝……もしかして僕、これから勉強しなくてもいけるんじゃ……)
『愚か者』
(え?)
『余の知識を己のものとせず、答えだけを盗もうとするな』
(うっ)
『学べ。余が教えてやる』
「…………」
ちょっとだけ。
皇帝が格好よく見えた。
『ただし、余の教えについて来られぬ愚鈍は知らぬ』
(前言撤回)
◇
そして四時間目。
体育。
一時間目から三時間目まで。
数学も。
英語も。
古文も。
無双していたのは、全部皇帝だった。
だから、このときの僕はまだ気づいていなかった。
変わっていたのは。
頭の中にいる皇帝だけじゃない。
僕自身もまた、精神世界へ行く前の僕とは違っていたことに。
僕は、体育館のコートに立っていた。
キュッ、キュッ、とバッシュが床を擦る音が響く。
今日の体育はバスケットボール。
別に嫌いじゃない。
嫌いじゃないけど、得意かと聞かれれば話は別だ。
というか、僕はそもそも体育全般が苦手だった。
走れば遅い。
跳べば低い。
球技をやれば、だいたいボールより僕のほうが先に転がる。
中学の頃、サッカーでボールを蹴ろうとして空振りし、そのまま尻もちをついた僕を見て、体育教師が真顔で「陰山、大丈夫か」と駆け寄ってきたことがある。
身体ではなく運動神経を心配されたのだと思う。
『くだらぬ』
頭の中で、皇帝が鼻を鳴らした。
『球を籠へ放り込むだけであろう』
(その「だけ」が難しいんだよ)
『敵兵の首を城壁の内側へ投げ込むより容易い』
(比較対象がおかしいよ)
そんな会話をしている間にも、試合は始まっていた。
「皇帝!」
「え?」
呼ばれて振り向く。
『……気に入らんな』
(なにが?)
『その俗物どもが、貴様を皇帝と呼んでいることだ』
(まだそれ気にしてたの?)
『当然であろう。俗物は皇帝ではない。皇帝は余だぞ』
(はいはい)
クラスメイトが僕へパスを出していた。
ボールが飛んでくる。
その瞬間だった。
「…………え?」
遅い。
あまりにも、遅い。
回転するボールの縫い目が見える。
いや。
見えるどころじゃない。
どんな回転をして、どの軌道を通って、僕のどこへ届くのか。
それが手に取るように分かった。
僕は右手を伸ばした。
ぱしっ。
掌に、ボールが収まる。
(……なに、これ)
『何を呆けておる』
皇帝の声が響く。
『貴様の目が、以前のままだと思っていたのか?』
そうだった。
魔眼。
精神世界で何度も何度も敵の動きを見続けてきた。
剣。
爪。
牙。
魔法。
矢。
殺気。
それらを見切れなければ、そのたびに僕は死んだ。
そんなものと比べれば。
「皇帝! 後ろ!」
「え?」
振り返る。
相手チームの男子が僕からボールを奪おうと手を伸ばしている。
……遅い。
身体を半歩ずらす。
「うおっ!?」
男子の手が空を切った。
僕はその横を抜ける。
「え?」
もう一人。
左から来る。
見える。
重心が右へ寄っている。
なら、逆。
僕は左へ身体を振ってから、右へ切り返した。
「なっ!?」
抜けた。
(……え?)
自分でやっておいて、自分が一番驚いていた。
さらに前。
一人。
二人。
全員の動きが見える。
どこへ足を出すのか。
どちらへ身体を動かそうとしているのか。
まるで答えを先に見せてもらっているみたいだった。
『フン』
皇帝がつまらなそうに言った。
『ゴブリンどものほうが、まだ速かったぞ』
(比べないでよ!)
気づけば。
僕はゴール下まで来ていた。
「皇帝、打て!」
「えっ、あ、うん!」
シュートなんて得意じゃない。
だから、とりあえずリングを見て。
軽く跳んで。
ボールを放った。
ぱすっ。
ネットが鳴る。
「…………」
「…………」
体育館が妙に静かになった。
「……皇帝?」
「はい」
「お前、バスケやってた?」
「やってないけど……」
「嘘つけ!」
「ほんとだよ!?」
それからは、もっとひどかった。
パスが見える。
相手がどこへ走るのか分かる。
ボールを奪おうとしてくる手も見える。
シュートを止めようと跳ぶタイミングまで分かる。
そして何より。
身体が、思った通りに動く。
以前なら分かっていても追いつかなかった。
でも今は違う。
精神世界で何度も走った。
何度も避けた。
何度も踏み込んだ。
死ぬほど。
……いや、本当に死ぬほど。
「皇帝、こっち!」
「うん!」
パスを受ける。
相手が二人来る。
右。
左。
一瞬だけ空いた中央。
そこを抜ける。
「ちょっ!」
「速っ!?」
ゴールが見えた。
跳ぶ。
ボールを放る。
ぱすっ。
「また入った!」
「なんだよ皇帝!」
「覚醒してんじゃん!」
歓声が上がる。
僕はその場で固まった。
(……やばい)
『何がだ』
(これ、完全に反則じゃない?)
『何を言っておる。魔法すら使っておらぬではないか』
(魔眼使ってるよ!)
『目を使わず球技をせよと?』
(そういう意味じゃない!)
その日の体育で。
僕は生まれて初めて、クラスの男子からヒーローみたいに扱われた。
◇
「皇帝!」
体育の授業が終わり、更衣室へ戻ろうとしたところで声をかけられた。
(……このあだ名、完全に定着してるな)
『認めぬぞ』
(まだ言ってる)
振り返ると、同じクラスの男子が二人立っている。
一人はバスケ部だったはずだ。
「な、なに?」
「お前、マジでバスケやってないの?」
「うん」
「中学も?」
「帰宅部」
「もったいなっ!」
即答された。
「なあ、バスケ部来いよ」
「え?」
「今日だけでも分かったって。普通に戦力になるから」
「いやいやいや!」
僕は慌てて両手を振った。
「無理無理!」
「なんでだよ」
「だって……」
言えるわけがない。
異世界の暗黒皇帝に鍛えられて、魔眼でみんなの動きを見てました、なんて。
「これはちょっと……反則してるからダメだよ」
「は?」
「え?」
二人が顔を見合わせた。
「あ、いや! なんでもない!」
『馬鹿め』
(うるさい!)
結局、「気が向いたら見学だけでも来いよ」と言われ、僕は逃げるように更衣室へ向かった。
◇
昼休み。
「陰山くん」
「ひゃいっ」
変な声が出た。
振り向くと、桜井さんが立っていた。
長い髪を肩から流し、僕を見て少し笑っている。
「今日、一緒に学食行かない?」
「え」
一瞬、聞き間違いかと思った。
「……僕と?」
「陰山くん以外に誰がいるの?」
「ですよね」
心臓が急に忙しくなる。
『情けない男よ』
(急に話しかけられたらびっくりするでしょ!)
『先ほど十人近い敵兵の中を平然と突破しておったではないか』
(クラスメイトを敵兵って呼ばないで!)
そんなわけで。
僕は桜井さんと二人で学食へ向かった。
そして数分後。
僕は自分の目を疑っていた。
「…………」
桜井さんの前に並ぶトレー。
定食。
丼。
うどん。
小鉢。
さらにパン。
ざっと見ても。
五人前はある。
「……桜井さん」
「ん?」
「それ……全部食べるの?」
「うん」
即答だった。
「今日はちょっと控えめにね」
桜井さんが、ぺろっと舌を出した。
「…………」
『…………』
珍しく皇帝まで黙った。
(ねえ皇帝)
『言うな』
(控えめって)
『余にも分からぬ』
僕と暗黒皇帝の意見が、初めて完全に一致した瞬間だった。
……いや、待てよ。
そのとき、ふと以前ファミレスで桜井さんと食事をした日の光景が脳裏に蘇った。
テーブルを埋め尽くした料理。
次々と空になっていく皿。
注文するたびに増えていった空の器。
そして最後まで、幸せそうに食べ続けていた桜井さん。
僕はもう一度、目の前の料理を見る。
五人前。
……たしかに。
(あれに比べれば……控えめかも)
『納得するでない。基準がおかしい』
(ですよね)
「陰山くん?」
「あ、なんでもない!」
僕も自分のカレーを食べ始める。
向かいでは桜井さんが、信じられない速度で定食を消していく。
なのに食べ方は妙にきれいだ。
どういう技術なんだろう。
「あ、そうだ」
桜井さんが箸を止めた。
「今日の体育、すごかったらしいね」
「えっ」
「バスケ」
やっぱりもう広まってる。
「男子が話してたよ。陰山くんがめちゃくちゃ上手かったって」
「いや……あれは、その……」
「見たかったなぁ」
「え」
桜井さんが笑った。
「陰山くんがバスケしてるところ」
「…………」
顔が熱くなる。
カレーが辛いせいだ。
絶対そうだ。
『顔が赤いぞ』
(カレーのせい!)
『甘口であろう』
(うるさいな!)
僕は誤魔化すように水を飲んだ。
でも。
今なら聞けるかもしれない。
さっきからずっと、聞こうか迷っていたことがある。
「あの、桜井さん」
「ん?」
「ちょっとお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「その……剣道、教えてくれないかな」
桜井さんの箸が止まった。
「剣道?」
「うん」
僕は頷く。
防人との戦い。
そして精神世界での修行。
強くなった。
それは自分でも分かる。
でも僕には、決定的に足りないものがある。
武器を使う技術だ。
「部活に入りたいってこと?」
「あ、違う違う!」
慌てて首を振る。
「できれば、その……個人的に」
言ってから気づいた。
これ。
ものすごく変な頼み方じゃないか?
「いや、変な意味じゃなくて!」
「変な意味?」
「いやらしい意味とかじゃなくて!」
「…………」
桜井さんが目を丸くした。
(僕は何を言ってるんだ)
『余にも分からぬ』
(黙ってて!)
数秒後。
「ふふっ」
桜井さんが笑った。
「いいよ」
「……え?」
「剣道、教えてあげる」
「ほんと?」
「うん。というか、うち道場だから」
「……道場?」
「剣術道場」
僕は思わず聞き返した。
「桜井さんの家が?」
「そう」
さらっと言いながら、桜井さんはうどんを啜る。
「おじいちゃん、すごく強いよ。ちょっと厳しいけど、教えるのも上手いし」
「へえ……」
「陰山くんが本気で習いたいなら、私から頼んであげる」
「お願いします!」
思わず頭を下げた。
「そんな大げさにしなくても」
桜井さんが笑う。
「うちの道場、江戸時代から続いてるんだって」
「江戸時代!?」
「うん。私は小さい頃から聞かされすぎて、もうありがたみないけど」
そう言って、桜井さんは笑った。
江戸時代から続く、剣術道場。
僕には、その言葉が妙に引っかかった。
『ほう』
皇帝の声がした。
さっきまで食事の量に呆れていた声とは違う。
少しだけ。
興味を持ったような声だった。
『古より続く剣術か』
(皇帝も興味ある?)
『当然だ』
皇帝は静かに笑う。
『異界の剣技とやら、余が見定めてやろう』
(お願いだから、おじいさんに喧嘩売らないでよ)
『誰に物を言っておる』
(だから心配なんだよ……)
僕は小さくため息をついた。
その向かいでは。
「ごちそうさまでした」
桜井さんが五人前の食事を、きれいに食べ終えていた。
「…………」
『…………』
(皇帝)
『言うな』
僕はもう一度、空になった皿の山を見た。
どうやら桜井さんの胃袋だけは、魔眼でも見通せないようだ。




