第7話
「どっっせーーーい!」
元気な白神の声がダンジョン内に響き渡り、その銀髪に似た美しい白刃が超高速で舞い踊る。
俺達の行方を塞いでいたゴリラとキンシコウのハーフみたいな魔物が縦に真っ二つに裂けた。
血と共に吹き出す金色の粒子が白神の体に吸い込まれ……それでも魔物の身体には結構な量の粒子が付着していた。
俺は魔物の遺骸に手を向け、粒子を吸収した。自然に吸収するよりも遥かに効率がいい。
俺の素の無能さとレムナント・イーターの有能っぷりが対極的過ぎて泣けてくる。
「ふー……これでこの階層は終わりかな? 歩君、大丈夫? そっちに攻撃飛んでない?」
「ああ、大丈夫だ」
「おっけー! あ、歩君疲れてない? もし疲れてるようだったら休憩しよっか?」
「俺は疲れる程戦ってる訳じゃないからな。……白神さんの方こそどうなんだ? ずっと戦いっぱなしだが……」
「こんくらいだいじょーぶ! 腕力ゴリ押しでいけるタイプの魔物ばっかりだから、別にそこまで大変じゃないしね!」
流麗な動作で剣についた血を振るい落としてから鞘へ納刀する……行き着く所まで行き着いた達人のような無駄の無い機能美を感じさせる白神の姿を、俺はどこか遠くを眺める目で見つめていた。
白神の回収地点から、既に3階分は登って来た。
俺や金森君だったら瞬殺されそうな強力な魔物が山ほど襲いかかって来たが、全て白神の手によって屠られた。
それもそのはずだ、白神の【勇者】があまりにも強過ぎる。何せ全てのスキルの集合体なんだから。
全ての能力値が底上げされ、様々な技能スキルによってバフがかかり、複数の武器スキルの組み合わせで高度な応用技と化した剣撃は受け流しすら許さず、居並ぶ魔物を次々になます切りにしていく。
俺も長剣を握りしめて、いつでも闘えるように準備していたが……これまでの討伐数はゼロ。
出番は全く無く、白神の役に立っていなかった。もう全部白神一人でいいんじゃないか?
一体何なんだこのチートは? ここまで強いとドラゴンに痛めつけられていた理由が分からないくらいだ。
後ろをついて行くしかない俺は、ただただお残しの魔素を頂戴するだけのパワーレベリング状態になってしまっている。
出番が全く無いとは言ったが、出番があったとしても活躍できたかは怪しい。体のキレに感覚が追いついていないからだ。
スピードアップアイテムを大量に取ったシューティングゲームみたいに制御が出来ない。狙ったように動けないし、感覚の方がワンテンポどころか4テンポ遅れているように思える。
ドラゴンの魔素を吸収した時よりは上がり幅は緩やかだが、それでもステータスは上昇している。
体が慣れる端から強化されるのだから、いつまで経っても慣れない。永遠に能力を追いかけ続けている状態だ。
そこがどうにも気持ち悪いが、贅沢は言っていられない。無能な俺に与えられた、千載一遇の強化のチャンスなのだから。
「あ、そうだ。一つ気になってる事があるんだけど」
「何だ?」
「私は歩君って呼んでるのに、なんで歩君は私の事を白神さんって呼ぶ訳? 心の距離感遠くない?」
ほっぺたを膨らませながら白神が睨みつける。威圧的な物ではなく、ただただ不満を表明するためのメンチ切りだ。
「……要救助者には節度を持った態度で接し、失礼な言動はこれを厳に慎む事。就業規則だ」
「えー? 呼び方は他人行儀なのにタメ語はいいのー? 瀬奈って呼んでよ、ほらー」
「申し訳ありませんでした。白神さんのお気持ちを損ねました事を深くお詫び申し上げます。今後は馴れ馴れしい声掛けを控えるよう留意いたします」
「やだー! 今更やめてよそんな丁寧な喋り方、気ー持ーちーわーるーいー! 仲良くしようよー! 瀬奈って呼んでよー! 瀬奈ちゃんでもいいからー!」
地団駄を踏みながら駄々を捏ねる白神を宥めようとするも「瀬奈って呼ばなきゃ許さない」と譲らない。
こんな危険な場所で痴話喧嘩のような真似をしたくはない。
そもそも、うちの職場は女っ気が全く無い。これまでの人生で浮いた話も全く無く、女性を下の名前で呼んだ事なんて一度もない。
ハラスメントになるかも知れないってのもあるが、ただ純粋に小っ恥ずかしい。
同僚ですら苗字で呼ぶ奴ばかりなのに、何で一歩踏み込んだ関係性を求められなければならないのか……これが分からない。
しかし白神は俺が折れなければテコでも動かないと言いたげな表情でボッ立ちのまま居座るつもりのようだ。
俺はこのダンジョンよりも深い溜め息をついて、仕方なく白神に……いや、瀬奈に声を掛けた。
「分かった。こんな所で立ち止まっててもしょうがないから先に進もう……瀬奈」
「……もっかい」
「……瀬奈」
「おっけー! これで私と歩君は仲良し! 仲間だー! よーしじゃんじゃか魔物倒してバリバリ階段登ってさっさと帰るよー! あ、ここから出たら一緒にご飯食べに行こうねー! 楽しみだなー!」
これまでの膨れっ面から瞬時にニッコニコなご機嫌顔に変わる。それも俊敏のステータスの高さが為せる技なのか?
俺は先程よりも三割増しになった瀬名の進軍スピードに負けないよう、必死に足を動かして追い縋った。




