第26話
「あああああの! すみません! うちの瀬奈がお世話になっております! リンドブルムの渉外担当をしてます島村夏樹と申します!」
現れた島村夏樹の魂は慌てながら何度もぺこぺことお辞儀をし、ローブをまさぐって何か探している。……どうした? 忘れ物か?
「アンタ、死んでんのに何で名刺交換しようとしてる訳? もう渡す名刺が無いし、渡したところで何の意味もないでしょうが」
遺体の顔付きから性格が悪そうだと睨んでいた柳原絵梨奈がムスッとした顔で島村にツッコミを入れる。
「はわわ……そうでした、やっぱり癖になってると死んでもやっちゃうんですねぇ」
「全く……ほら、言う事あるんじゃないの?」
肘でつつかれた島村が、一つ二つ咳払いをして本題に入る。
「……僕達二人は……その、出来れば瀬奈ちゃんの力になりたくて……あの……そのですね……」
「あーもー何うだうだやってんのよ! 馬鹿じゃないの!? そんなんでよく渉外担当とか名乗れたモンよね、呆れるわ! ……アンタ、スキルが成長して手持ちスキルの譲渡と魂への干渉が出来るようになったんでしょ?」
「あ、ああ……それで?」
「だからアタシ達のスキルを魂ごと瀬奈に移しなさいって事! 魔素のほとんどをあのいけすかない魔物に持ってかれたけど、アンタならアタシ達の魂をそのままブチ込めるでしょ? ほら、さっさとやんなさいよ」
「いや、だが……いいのか? お前は、その……瀬奈の事を恨んでたんじゃ?」
俺が恐る恐る尋ねると、柳原は尊大に腕を組んで鼻で笑った。……やっぱり性格悪いなコイツ。
「当然よ、今でも大っ嫌いだわ。瀬奈のせいで拓也が欲に目が眩んで予定より下に潜ってくし、瀬奈は瀬奈で自分は拓也に連れて来られて巻き込まれただけですーみたいなツラして、ホンットに腹立つ! 死んだらいいのよ! アタシみたいに!」
「……死んで欲しいくらい嫌いなのに、スキルを渡すのか?」
「そうよ? アタシが隠し持ってたのは『魔素視』よ。アンタも見たんだから分かるでしょ? 天井一杯の青い光を。アタシなんか腰抜かすかと思ったわ。そういやゲーゲー吐いた死番虫もいたかしらー? 瀬奈の肩を持つからそうなんのよ、いい気味ー!」
頬に手の甲を当てて高笑いをする柳原の姿はもはや悪役としか思えない物だった。
ここまで出来るのは一種の才能だと思う。あとさりげなく俺をディスるのも勘弁してくれ。
「……だからくれてやるのよ、アレを見る目をね。瀬奈もあのバケモノを目の当たりにして、腰抜かしてゲーゲー吐いて、泣いて許しを乞えばいいのよ」
「もー……柳原さんは相変わらずツンデレですねぇ、デレがあまりにも表に出ないから彼氏イナイ歴と享年が一緒になっちゃうんですよー」
「誰がツンデレよ、誰が! あと享年って言うのやめなさい、アタシだってヘコむ時はヘコむのよ!?」
島村の鋭い指摘がクリーンヒットした柳原がギャースカ騒ぐが、島村は柳原を無視して俺に種明かしをする。
「柳原さん、何だかんだ言って瀬奈ちゃんの事を心配してるんですよ。瀬奈ちゃんがあの魔物にやられるんじゃないかって……前園さんが乗っ取られたのって、アイツの魔素を取り込んじゃったからですしね」
「……妙だとは思ってたのよ。ボス部屋だってのに変な黒い霧は漂ってるけどボスが出てくる気配は全く無いし、天井には訳わかんない量の残留思念……アタシがビビってる間に拓也が黒い霧を吸っちゃって、いきなり変になって襲って来るんだもの。完全にテンパったわ」
「あと一息でセーフゾーンって所で僕が殺されて、逃げた柳原さんも殺されて……って感じでしたもんね。死んでるボス……というか、魂だけの魔物は流石に僕達じゃ殺せませんから」
「……死番虫。どうせアンタじゃなきゃ、あの魔物は倒せないんでしょ? 魔素が見えないからって瀬奈が足を引っ張ってるようじゃ迷惑だって言ってんの」
柳原が不機嫌そうに顔を背けて吐き捨てるように呟く。……なるほど、ツンデレだ。
「分かった、【伝承者】で魂を瀬奈に渡そう。……島村の方は? 何かあるのか?」
「……死んで知ったんですが、どうやら僕の魂には【癒しの御手】ってスキルがあるみたいです。回復魔法の効率がアップするっぽいですね。瀬奈ちゃんは何でも出来る子だから、回復魔法だけでも手伝いになれるなら……嬉しいです」
「……分かった。二人とも、瀬奈に伝えて欲しい事はあるか?」
「そうね……アタシが顔を見ずに済むから、なるべく時間を掛けて地獄に落ちて来なさいって言っといてもらえるかしら?」
「……幸せに生きてね、って伝えて下さい」
俺は小さく頷き、二人の魂に手を伸ばして一旦自分の中に取り込み、瀬奈へと魂を送り込んだ。
止まったままではあるが、島村と柳原の魂を吹き込まれた瀬奈の身体が淡い金色に発光している。
「……さて、歩。そろそろ時間だ。父さんから一つだけ助言をしよう」
金色の魂もほとんどが俺の体に収まり徐々に世界に色が戻り始めていた最中、滑るように親父が俺の前まで浮遊してきた。
「魔物に取り憑かれているあの男には、目一杯手加減をしなさい。まだ生きてるからね、無駄に命を散らせる必要は無い」
「前園の事? ……分かった」
「……やるべき事は分かっているな?」
「もちろん」
満足そうに親父が頷くと、ボス部屋に光が満ちていく。
瀬奈を、俺を、親父を、前園を……全てを飲み込むように、光の奔流が駆け巡る。
「……さあ、戻りなさい。短い間だけど、歩と話せて良かった。父さんはいつでも、歩の事を誇りに思っているからな──」
親父の声が、消えた。
意識が白い光に溶け込んで──




