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第24話

 瀬奈と前園の戦闘が本格的に始まった。目で追うのがやっとな攻防が薄暗いボス部屋で繰り広げられている。

 俺はとにかく瀬奈の邪魔にならないように広く間合いを取りつつ、あたりの白骨死体や腐乱死体に手を伸ばし、レムナントの吸収を試みる。

 ……だが、何もない。悲しい程に出涸らしだ。あの魔物は案外食い意地が張っているようだ。それで出す物を出した結果が天井の残留思念の塊か、ふざけるなよ。

 何か瀬奈の戦闘の役に立てそうな物はないかと探してみる。……使い込まれているが、上等な剣が一本見つかった。

 俺も戦闘に参加しろってか? 冗談はよして欲しい。今の俺が介入しようモンなら一瞬で叩き伏せられてしまう。



 ドラゴンから手に入れたスキルは使えないだろうか? とステータスを開いてみたが、どれも「使えませんよ」と言う意味の灰色で表示されている。

 ……しょうがないか、俺はドラゴンじゃないからな。ブレスも吐けないし、竜の威圧なんかも使えない。人間の体でどうやって空を飛べばいいんだ。

 魔物から手に入れたスキルで使えそうなのは……スケルトンからコツコツ集めた剣術とゴリラとキンシコウのハーフみたいな魔物から取った筋力増加スキルと【剛力Lv.3】。

 後はゾンビ犬から取得した【ダッシュLv.3】と【体当たりLv.2】くらいだろうか。



 ……やっぱり役に立たない。破格の価値がある【レムナント・イーター】だが、活かせるだけの時間が無かった。

 もっと多種多様な魔物から魔素を吸い取れれば、切り札を多数揃えられていたかも知れない……が、後悔してもしょうがない。

 いっそ、高ランクで強いスキルを保持している冒険者の遺体が落ちていれば……いや、それを望み始めたら前園に取り憑いてる魔物と何ら変わりない。

 人間性を、尊厳を投げ捨てて強くなったとしても、俺は両親に顔向け出来ないし、瀬奈と肩を並べる資格を失う……そんな気がする。



 それでも何か、出来る事があるはずだ。そう信じて骨の山をかき分けて探しても何も出てこない。

 焦りと悔しさに頭がおかしくなりそうになりながら、瀬奈の様子を伺うと……押されていた。いや、押し込まれている。

 攻め手に欠け、防戦一方になっている。壁際に追い込まれて回避して、また追い込まれの繰り返しだ。

 このままだと、近いうちに瀬奈は倒されてしまう。そうすれば次は俺……二人揃って魔物の餌になり、天井の青い光がちょっと濃くなって終わりだ。

 どうにか打開策を用意できないかと悩んでいる最中……その時は思ったよりも早く来てしまった。



 瀬奈が後ずさる中、足元の骨を踏み砕いてしまった。それに気を取られた一瞬の隙を逃さず、前園が肉薄する。

 俺は思わず【ダッシュLv.3】で前園の後ろに駆け寄り、【剛力Lv.3】と【体当たりLv.2】を仕掛ける。

 完全に戦力外として眼中になかった俺がいきなり襲いかかった事で、多少なりとも混乱した前園の動きが鈍る。

 俺の体当たりは避けられ、瀬奈に態勢を立て直すだけの一時の猶予が生まれた。……だが、それが前園の、魔物の怒りを買った。



 前園のターゲットは迅速に俺に移った。高速の刃が俺に襲いかかる。体当たりを避けられた時に身をよじっていたおかげで、刃が真っ直ぐ当たる事は無かった。

 だが、恐るべき膂力から繰り出された一撃は、それでも俺を吹き飛ばすには十分な威力があった。

 瞬きするほどの間に俺の視界がすっ飛び、渇いた骨の山に突っ込んだ。



「歩君!」



 瀬奈の悲痛な叫び声のすぐ後に刃を打ち鳴らす金属音が響き、視界の端に吹き飛ばされてドームの壁面に叩きつけられた前園の姿が映る。

 ……だが、あの程度で終わるような敵じゃないはずだ。すぐに立ち上がって、戦闘が再開するだろう。

 なのに……瀬奈、何で俺を抱き起こそうとしてるんだ? そんな余裕があるはずないだろ?



「歩君! 歩君! ……酷い傷……待ってて、すぐに回復魔法を……」



 言われて気がついた。……息ができない。胸部に強烈な一撃をもらったからだろうか?

 据わらない首を傾けて下を見ると、アーマーを切り裂いて、ばっくりと胸に深い傷が出来ている。血も吹き出していて、どうやって止血したらいいのか分からない。

 痛みは全く感じない……ジンジンと痺れているような感覚がうっすらと全身を包んでいる。

 妙な寒気を覚え、それでも瀬奈に逃げろと伝えようと口を開くと、血が溢れてきた。……喋れないのか。



「歩君! 駄目だよ! 一緒に上に帰るって約束したのに! 上に戻るまでは仲間だって言ったじゃん! ねえ、しっかりしてよ! まだ──」



 耳が音を捕まえなくなった。瀬奈の声が遠く、遠く聞こえている。

 寒い。寒い。……目が見えない。視界がぼやけて瀬奈の顔も見えない。

 頬に当たる水滴の感覚だけが最後まで残り……俺の意識は、途絶えた。

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