第2話
「よーし、三課全員集合ー! 仕事だぞー! 捜索伝票読むから聞けよー! えー、今回の捜索対象はSランクパーティ『リンドブルム』! 帰還予定日時は本日13時半だが、戻ってないし連絡も無い!」
片岡課長から任務の情報が読み上げられる中、俺はいつものようにロッカーから長剣を取り出す。勤務時間中はヘルメット以外の防具を常に装着するルールになっているので、武器だけ用意すればいい寸法だ。
俺がステータスを取った時にもらったスキルは【剣術Lv.1】だけだ。これが盾のスキルもあればタンク職の真似事が出来たかも知れない。
この四年、公休の日曜日以外毎日しっかり働き、トレーニングも兼ねたダンジョンの討伐巡回で魔物をシバき続けて到達した俺の剣術レベルは……1だ。つまり変わっていない。
そもそも魔素を吸収しにくい体であるのもそうだが、トレーニングとして潜るのも浅い階層だ。
有名どころのRPGで言えば、城の周りをぐるぐる回ってスライムばかりを倒す毎日といった感じだ。強くなれる訳がない。
「捜索対象者のデータは業務端末の方に送っておくから、装備の点検が済んだら確認するように! 仁科ー! お前弱いんだから積極的に前に出ようとすんなよ!」
待機室に湿った愛想笑いが響く。わざわざみんなの前で言う事じゃないだろうに……これだから片岡課長は苦手なんだ。
健康診断で魔素を十分に吸収できない体質だと判明してから、ほぼ毎日こうしてイジられる。
入社してすぐの頃には皆川班長が「あの人はあれでも部下思いだから、仁科君に怪我して欲しくないんだよ」とフォローを入れてくれていたが、今では何も言われない。慣れたと思われているんだろうか。
無視したい所だが、あれでも上司だ。俺は短く「はい」とだけ答えて、業務端末に視線を落とした。
捜索対象者、Sランクパーティ『リンドブルム』。
所属は東京冒険者協会。実績は……典型的な腕試しパーティだ。
日銭稼ぐ為……と言うよりは、鍛錬して強い魔物を倒したいパーティだろう。各地のダンジョンの最高到達階層をいくつも更新している。羨ましい限りだ。
このダンジョンでも40階層を目指すと申請しているが、これは最高到達階層を3階層分更新する事になる。
何とも剛毅な事だ、帰って来られなかったのであれば何の意味もないが。
パーティメンバーは四人。ステータスは本人にしか見られないので本人申告による公称値だが、なかなかに凄まじい。
片手剣・盾使いの前園拓也。恐らくタンクだ。写真を見るにチャラチャラした陽キャといった風貌をしている。片手剣Lv.8、盾Lv.7。能力値も生命力・筋力の値が70を超えている。
四年頑張っても筋力が5を超えない俺からしたら相当なバケモノだ。
長杖使い……キャスターの柳原絵梨奈。性格がキツそうな綺麗めな女性だ。地水火風の魔法スキルが全部Lv.7で統一されている。
魔法使いは体内の魔力保有量によってスキルの伸びも変わってくる。Lv.7はかなり高い方だ。
気の遠くなるような修練をこなす努力だけでなく、人並外れた魔力保有量と言う才能を持っている証左だ。嫉妬で脇腹が痛くなりそうだ。
棍棒使いの島村夏樹は……写真だけ見ると女顔だが、性別は男だ。名前も顔も中性的でややこしい……いや、これは人の事を言えた義理でもないか。
回復魔法Lv.6と補助魔法Lv.4を操るようだ。ゲームならクレリックとか僧侶とか呼ばれそうだが、生憎現実のステータスにジョブなんて物はない。
回復魔法は適正があり、慈愛に溢れた優しい人物が得られるというのが定説だ。……俺には一生生えないスキルだろう。
最後の一人は白神瀬奈。銀髪が一際目を引く人懐っこそうな美少女だ。俺と同い年なのか、こいつ。
こいつは……何だこれ、ステータスが全く書かれていない。
ステータスの公称値が無い場合は二種類ある。一つ目は公表する程の価値もない場合だ。……俺みたいにな。
もう一つは、公表したらドえらい騒ぎになるから隠さざるを得ない場合だ。常軌を逸したステータスだったり、ユニークスキルが生えていたりといった事情だ。
今回の捜索対象者はSランクだから、前者はあり得ない。となると後者だろう。
……これで今回の最優先救助者は決まったようなモンだ。こいつが最優先だ。
他は確かに強いが、何だかんだ言って替えが利く。だが、この白神瀬奈はユニークスキルを所持している可能性がある。これは替えが利かない。
最悪、他は見殺しにしたとしてもコイツだけは生きて帰さなければならない。一・二課は他のメンツを後回しにしてでも白神瀬奈の確保に向かうはずだ。
そう予測を立てていると、片山課長の指示が続いた。
「今回、一・二課は超特急で遭難が危惧されている階層に向かうから、お前らもいつも以上に頑張るように! 特に捜索リストの白神瀬奈! これに関しては何があっても発見、保護するように! まあ、三課が回るエリアにいるとは思えないけどな!」
ほらな、思った通りだ。
俺は内心でため息をつきながらヘルメットを被ってバイザーを降ろし、まるで死番虫のような茶色い防具を纏った同僚たちと共に、三課待機所を駆け足で出て行った。




