第17話
【レムナント・イーター】はユニークスキルだ。それはつまりワンオフ……同一の物を誰も持ち得ないスキルだ。
事前申請のデータを見るに、こんな深い階層に来る可能性があるのはSランクパーティのリンドブルムだけだ。他のパーティはもっと浅い階層を回る予定になっていた。
ユニークスキル持ちは瀬奈だけであり、他にレムナントに干渉するスキルを持つような冒険者の存在は……状況的にありえない。
もし、レムナントを吸収出来る魔物がいたとすれば、事態は厄介な事になる。
Sランクパーティのメンバーを殺せるような魔物がレムナントによって強化されている可能性がある。
ここより下の魔物を倒してきた……いや、倒したのは主に瀬奈だが、かなりの余裕をもって切り抜けてきた俺達なら、ここいらの普通の魔物に苦戦することはないだろう。
だが、島村の魔素を吸い上げた魔物と戦うとなると話は別だ。スキルの残滓が見当たらなかった点を鑑みるに、恐らくその魔物が魔素と一緒に持って行ったのだろう。
自身を強化しつつ、強力な攻撃を叩き込んで来る魔物……想像すると嫌になる。
「瀬奈、地下墓地エリアは初めてじゃないんだよな?」
「う、うん。先月行ったよ」
「どんな魔物が出る?」
「えっとね……実体のないゴーストでしょ、ゾンビ犬に人型のゾンビ、スケルトン……くらいかな」
「レムナントを吸い取るような魔物に心当たりは?」
「分からないよ……そもそもレムナントの存在を知ったの、一昨日だもん」
俺の問いに、瀬奈の声に困惑の色が滲む。
いや、それは確かに瀬奈の言う通りだ。これまでなかった概念が急に湧いて出てきたんだから分かるはずがない。
「それもそうか……しかし、魔物のラインナップとしては微妙だな。そいつらって強いのか?」
「ううん、全然。夏樹君のメイスでも倒せるくらい……光属性を付与しないと完全には死ななくて、時間経過でまた動き出しちゃうけど……でも、そんなに苦戦はしなかったよ」
「ここの魔物のラインナップが瀬奈が教えてくれたのと同一とは限らないが……警戒しながら進んで行こう」
俺の提案に瀬奈が小さく頷き、俺の三歩先くらいを歩き始めた。
§ § §
「……強い奴、いなかったね」
「ああ」
慎重かつ念入りにこの階層を周ってみたが、特段気になる魔物はいなかった。
ゾンビやゴースト、スケルトンといった瀬奈が教えてくれた魔物ばかりだった。
こんな深い階層に出現するだけはあって、どの魔物もかなり強い。一昨日までの俺なら瞬殺されていただろう。
だが……何か違う。こいつらが島村を殺したとは思えなかった。
「どうかな……? 夏樹君を殺した魔物って、いたのかな……?」
「……正直、分からない」
島村の死因は刃物で斬られた傷で間違いないと思う。だから、ゾンビやゾンビ犬でないことは確かだ。
あいつらは噛んだりひっかいたりするだけだ。あれほどまで大きな刀傷は発生しない。
ゴーストは魔法を使ったり良く分からない方法で生気を吸うタイプで、物理的な傷を負わせる方法が無い。
スケルトンには刀剣類を持つ個体もいたが、恐らく違う。
島村の傷は手入れを欠かしていない刀剣でメッタ斬りにしたような滑らかな傷口だった。
しかし、スケルトンの持つ武器はどれも錆の浮いたなまくらばかりだった。
あんな刃物で斬られたら、もっと傷口が浅くガタガタになっていただろう。
つまり、この階層にいる魔物では、島村を斬殺する事は不可能だ。
「一体どうやって島村を……」
ふと、最悪の事態を想像してしまった。
島村の致命傷と凶器から考えても、よく切れる刃物を持っている魔物が島村を襲った事になる。
ここの魔物では無理だ。攻撃手段が刃物じゃなかったり、錆びた刃物を持っている奴ばかりだからだ。
かと言って、トラップのセンも無さそうだ。
この階層では矢と毒ガスのトラップは見つけたが、刃物が飛び出る類のトラップは見当たらなかった。
このままでは、島村を殺した方法が分からない。凶器になりそうな物が無い。……普通に考えたなら、そこで行き止まりだ。
だが……一人だけ、いるじゃないか。手入れの行き届いたよく切れる刃物をこの階層に持ち込める、片手剣Lv.8のスキルを持つ冒険者が。
「……前園?」
思わず声に出てしまった。……しまった、一番やってはいけないミスだ。憶測で犯人を決めつけたりしたら、瀬奈がショックを受けると分かりきっていたはずなのに。
瀬奈の喉がヒュッと空気を飲む音を発した。
「拓也おじさんが……夏樹君を?」
「いや、そうと決まった訳じゃない。状況的にここの魔物では島村の殺害が無理で、島村を斬れるような刃物を持ってるのが前園以外いないってだけの話だ」
「そんなの……そんなの、ありえないよ。だってここはダンジョンの深層だよ? 私がいるならともかく、みんなで協力しないと帰るのも難しいとこだよ? 何で仲間の夏樹君を殺す必要があるの?」
「瀬奈、落ち着いて……」
「おじさんは! 確かにお金にがめつくて、私を無理やりパーティに入れたりする勝手な人で! パーティの空気が悪くても何もしない人だけど! 人を……仲間を殺したりなんかする人じゃない!」
瀬奈が俺に詰め寄りながらボロボロと涙をこぼしながら抗弁する。
「分からない……分からないよ! 私どうしたらいいの!? 何で夏樹君が死ななきゃいけなかったの!? もう何も分かんないよ……!」
顔を覆ってその場にしゃがみ込んで泣き始めた瀬奈にかける言葉が見つからない。俺は瀬奈の近くに寄って、魔物の襲撃を警戒しつつ……チラッとよそ見をした。
確かに、前園は片手剣のスキルを持っている。……しかし、他にも刃物を持っている人間がいる。
もし、テレポーターに引っかかったと言うのが嘘だったら? 上から降りてきて、島村を切り殺して、ドラゴンのいる階層で倒れたのであれば?
今、こうして泣いているのが演技だったら?
「そうだな……俺もよく分からなくなってきた」
俺は、瀬奈の腰にぶら下がっている鞘付きの剣をもう一度だけ一瞥した。




