第14話
俺はアイテムボックスから段ボール箱とチャック付きのビニール袋、それからセロハンテープとハサミと小銭入れを取り出した。……俺の仕事道具だ。
「……何をしてるの?」
瀬奈が鼻をぐすぐす鳴らしながら俺に尋ねるが、俺は返事をせずに島村の髪を掴み、ハサミで切る。
切り取った髪はビニール袋に入れてしっかり封をして、段ボール箱に入れる。
「ねぇ、歩君……答えて、ねぇ」
遺体を検めて冒険者カードを探す……島村は財布ではなく免許証入れに保管するタイプの冒険者だったようだ。
冒険者カードを業務端末に読み込ませ、死亡処理の仮申請を行う。
これで電波が届く階層まで上がれば、自動的にバッドステータス判定装置の使用実績と共に本部にデータが飛ぶはずだ。
「歩君! やめてよ! ねぇ!」
財布や免許証入れやスマホ、それから島村が使っていたと思われる鉄製のメイスも段ボールに入れて回収する。
防具は……やめとこう。ただの服のようだし、素っ裸にひん剥くのは流石に忍びない。
アクセサリー類も無さそうだし、回収する物はもうない。
島村の手に六文銭を握らせたら、俺の仕事は終わりだ。三途の川の渡し賃と言う奴だ。
別の宗教だったら……まあ、信じてる神様が寛容である事を祈っておいて欲しい。
段ボールの上部にセロハンテープで冒険者カードを貼り付けたら、回収物の処理も完了だ。
「そんなまるで夏樹君が死んじゃった後始末みたいな事やめてよ! 歩君、お願い! 待って!」
「……『死んじゃった後始末みたいな事』じゃない。捜索部の規定に基づいた正式な死亡処理だ。……島村夏樹は、死んだんだ」
「そんなことない! そうだ、回復魔法かけたら治るよ! きっとすぐに治って、瀬奈ちゃんは心配性だなーって笑いながら起き上がって……」
「回復魔法は魔力で代謝を高めたり傷口の治癒力を増すって仕組みだ。……死亡判定が出てるのに、代謝も治癒力もある訳がない」
「何か……何か手があるはずだよ! そうだ、【レムナント・イーター】で何か出来る事があったり……」
「瀬奈!」
俺が声を張り上げると、瀬奈がびくっと震え、そのまま声を上げて泣き始めた。しまった、やりすぎた。
瀬奈を宥めようとしたその時、通路の奥から低い唸り声と正体不明の冷たい空気が流れ込んで来た。……魔物に俺達の存在を勘付かれたか?
これはマズい。瀬奈が前後不覚に陥ってる状態で戦闘なんか出来るわけがない。
俺は瀬奈を横抱きに抱えて、先程上がってきたばかりのアルミ階段を駆け降りてセーフゾーンにトンボ返りした。
§ § §
昨日泊まった部屋のベッドに号泣している瀬奈を下ろし、俺は部屋を後にした。
ドア越しの瀬奈の泣き声を聞きながら、俺は今後のプランを考え直す事にした。
今一番大切なのは、死んではいたものの要救助者がここにいたって事だ。
パーティリーダーの前園が攻略階層申請を無視してさらに下を目指したのが40階層。そして瀬奈がトラップを踏んだのが51階層だ。
しかし、瀬奈は先程の地下墓地エリアに対して初見に近い反応を示していた。
もし見た事があるのなら、「ここに繋がってたんだ」みたいな反応をするはずだ。
そして、恐らくリンドブルムはテレポーターで飛ばされた瀬奈を探して下に降りたに違いない。
テレポーターも落とし穴と同じく、行き先は下の階層だからだ。
とは言っても、ユニークスキル持ちである瀬奈を失ったリンドブルムはあまり無理は出来ないはずだ。降りても数階層分が関の山だろう。
だから、俺達が今いるのは……大体55階層前後くらいなんじゃないだろうか? 多分、大きく外れてはいないと思う。
現在位置の大まかなアタリが付くなら、状況は大きく変わる。先の見えない行き当たりばったりの遭難状態から、ゴールの見える帰還状態に様変わりする。
食糧を切り詰める必要が無くなったり、逆算的にペース配分を考えられる分、生還の公算が高くなった。
だが……これは瀬奈に言うべき話ではない。
仲間を失ったショックで泣き崩れている瀬奈に「お前の仲間の死体のおかげで現在地に目星がついた」などと誰が言えようか。
仲間の死で泣ける女の子にわざわざ聞かせる話じゃない。こんなのは、心がとうの昔にすり減った俺が墓場まで持っていけばいいだけの事だ。
俺がそう結論付けた所で、背後のドアが少しだけ開いた。隙間から瀬奈が申し訳なさそうに、泣き腫らした目をこちらに向けている。
「どうした?」
「……歩君と、お話……したい」
「……分かった」
俺が首肯で応じると、瀬奈はぱたぱたと足音を立てて奥に引っ込んだ。
俺は一分間だけ待ってから、ドアを開けて中へと入った。




