手紙
それから手紙のやり取りは穏やかに続いた。
男性との初めての文通で何を書いたらいいのかと最初こそ悩んだが、シュルベスト辺境伯様は話題が豊富で楽しく文通は続いていた。
『先日オルデア嬢から教えてもらった芋が芽を出したと報告があった。まだこれから育ってくれるかは分からないがこの寒い辺境の地で芽が出たことを領民がとても喜んでいた。もちろん私も嬉しい。
オルデア嬢のおかげだ。本当にありがとう。あなたの博識さには驚いてばかりだ』
『芋の芽が出たこと私も喜ばしく思います。たまたま領地の視察の際に寒さに強い芋があると耳にしたのです。私が博識なのではなく、領民達が様々なことを教えてくれるおかげなのです。強く育ってくれることを祈っております。
こちらもシュルベスト辺境伯様が教えてくださいました、訓練後に食べると良いというメニューを侯爵家の騎士達の間食として出していたのですが、筋肉が増えたと昨日騎士達からお礼を言われました。
つい最近入った若い騎士で、思うように筋肉が増えず実は悩んでいたのだとこっそり教えてくれました。私の功績ではないですが、その騎士の笑顔に心が温まりました。
シュルベスト辺境伯様にもお礼を伝えて欲しいと頼まれましたので、代わりにお礼申し上げますね。ありがとうございます』
こんな風に領地や騎士団のことで情報を交換したり
『シュルベスト辺境伯様は珈琲という飲み物を飲んだことはございますか?
この前王都にいる友人から、今流行っているから飲んでみてと送られてきたのですが、飲んであまりの苦さに私驚いてしまいました。
妹は流行り物が大好きなので、すごく渋い顔をしながら美味しいわと言っていて、笑いを堪えるのに大変でした。
珈琲を送ってくれた友人が今王都で流行っているドレスのデザインも送ってくれたので同封します。従姉妹さんのデビタントが良き日になりますように』
『ドレスのデザイン画を渡したら従姉妹はそれはそれは喜んでいた。喜びすぎてうるさいくらいに。あのデザイン画のドレスを参考にドレスを仕立ててもらうと張り切っていて、叔父も最高のドレスを娘に仕立ててやれると君に感謝していた。オルデア嬢、ありがとう。
珈琲だが隣国でも流行っていて、うちの領地にも入ってきている。私も初めは苦くてなにが美味しいのかわからなかったが、甘いものと一緒に飲むと美味しいと教えてもらってからは珈琲が好きになった。
甘さと珈琲の苦さが意外な程に合うので是非試してみて欲しい』
こんなたわいもない話すら楽しく。
『オルデア嬢は辺境の地にしか咲かないミラフラワーという花を知っているだろうか?
水分を多く含むこの花は、朝花開いて夜は花を閉じる。その朝花開いた時にだけ花の表面に小さな水滴がついていて、朝日を浴びてキラキラと輝く。とても幻想的な風景をオルデア嬢にも是非見てもらいたい。
いつか辺境の地に招待させて欲しい』
『ミラフラワー、初めて知りました。そんな素敵なお花があるのですね。いつか是非この目でその素敵な花を見てみたいと思います。お招きいただけたら光栄です。
うちの領地では甘い香りのシャルフラワーという花を育てているのですが、最近ようやくその花の香りを香水にすることに成功したのです。有り難いことにとても好評で少しずつ注文も増えているので、辺境の地にもこの香りが届いたらよいなと思います』
お互い領地自慢をしてみたり。
次の手紙が早く届かないかとそわそわするようになった頃、フレッドから届けられたのは【調査報告書】だった。
【男爵男爵家次男調査報告書】
アルフレッド・ダナン
ダナン男爵家次男 現在25歳
コルディア公爵家騎士団所属
3年前に平民の商家の娘との縁談があったが断っている。頑なに相手を言わないが想い人がいる様子。しかし生涯独身でいると宣言しているため、相手は高い身分かすでに既婚している可能性が高い。
性格は真面目で面倒みも良く周りの騎士からの評価も高い。
【トルマーニ子爵家長男調査報告書】
ノエル・トルマーニ
トルマーニ家長男 現在13歳
爵位は低いが父親が領地経営が上手くかなりの資産を得ている。そのため暮らしは裕福で長男はかなり傲慢に育っている。最近では学園内で揉め事を起こしては金の力で黙らせており周りの評価はかなり低いとみられる。
詳しく書かれた所は読み飛ばし、完結に纏められた部分だけを見て、調査報告書をぱたりと閉じため息をつく。
どちらも厄介、それが感想だった。
しかしトルマーニ子爵家はあり得ない。傲慢に育っているご子息が、年上の何も持たない私を受け入れるとも思えない。そもそも傲慢な夫などお断りだ。
そうなるとダナン男爵家だが、継ぐ爵位もないため平民となる。平民となると言っても騎士としてそれなりに稼ぎはあるだろうから暮らしてはいけるだろう。性格も良くいい条件だが、想い人がいてはこちらも受けてはくれないだろう。
一応ダナン男爵家にお伺いは立ててみようか。釣り書を送って断られれば母も仕方ないと納得するかもしれない。
そうしたら、辺境伯へ嫁ぐことを許してくれるだろうか……ふとそんなことを考えてしまい、頭を振る。
家族を捨てるなんてそんなつもりないけれど、確かに遠い地ではなにかと対応は遅れるだろう。家族が困っていたら助けられる距離にいたい、それは母の望みであり、私の望みでもある。
お読みいただきありがとうございます




