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ずっと母と妹に搾取されていたことに気付けたので縁を切りました  作者: 朔晦 月陽


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3/11

辺境伯家からの釣り書


ロベルト様が来て3ヶ月程経った。仕事を少しずつ引き継いでいるが、父が見抜いていたようにロベルト様は書類仕事においてとても優秀だった。

おかげで仕事の合間に休憩時間もしっかりとれるようになっていた。


「オルデアお嬢様、少しよろしいでしょうか?」


それは庭で気分転換をしていた時だった。家令のフレッドが神妙な面持ちで話しかけてきた。


「フレッド、どうしたの?」

「出過ぎた事と承知ではありますが、お嬢様は今後のことをどうお考えですか?」


はっきりと言わないが、今後とは結婚のことだろう。


「そうね、正直まだ考えていないのよ」


引き継いでいるとはいえそれはほんの僅か。まだ領地経営は私の手の中にある。

まだ守ると決めた領地を、領民を、侯爵家を、手放す決心がついていない。


しかしリリーとロベルト様が結婚することは決まっていて、私が次期侯爵になることはない。

手放す決心がついていようがいまいが、私の気持ちなどお構いなしにいつか私の手から離れるのだ。


「その……」


珍しく次の言葉を迷う様子のフレッドに首を傾げれば、コホンとひとつ咳払いをした後に意を決したように口を開く。


「お慕いしている方等はおられないのですか?」


意外な質問に目を見開いた。


「ええ、だって私3ヶ月前までロベルト様と婚約してたのよ?5年も。領地経営で忙しくて夜会も行ってないし、この3ヶ月だってお茶会と視察以外外出もしてないわ」


ロベルト様のように不貞でもしなければ3ヶ月で慕っている人など見つけられないだろう。


「いえ、確認しておきたかっただけですのでご容赦ください。もしかしたら幼き頃に運命の出会いを果たしている等万が一にもあるかもしれまんので」

「ふふ、別に怒っていないし、そんな物語のような出会いをしたこともないわ」


それでは、とフレッドは書類の入った封筒であろうものを差し出した。

中身を説明する気はないのか、開ければ分かると言いたげにフレッドは1歩下った。

訝しげに中身を見ると、出てきたのは所謂釣り書だった。


「これは?」

「シュルベスト伯爵からの縁談でございます」

「まぁそれは見たら分かるのだけど」


ルカルディ・シュルベスト、21歳という若さで辺境伯として見事に辺境の難しい土地をおさめているとの噂の人物。

幼い頃に母を亡くし、3年程前に父を亡くした。前辺境伯が若くして身罷ったことにより隣国がにわかに戦闘態勢をみせたが、現辺境伯の隣国への牽制は見事なものであり大きな戦にならなかったと聞いている。


「なぜフレッドがこの釣り書を?というかなぜお会いしたこともない辺境伯様が私に釣り書を送ってくるのかしら?」

「実は私とルカルディ様は親戚に当たるのです。先日ルカルディ様から縁談についてご相談をたまわりました。内容としましては、前辺境伯様の喪が明けた後、周囲の縁談の勧めが凄まじく、どうにか抑える手はないかというものでした」


若くして後継人もつけず立派に領地を守り、国王からの覚えも良いと噂で聞いている。

なにより見た目が麗しいと社交界で女性達がきゃあきゃあ言っていた。

婚約者を探す必要もなく夜会にめったに行かなかった私と、国防を担う辺境伯としてめったに夜会に来ない辺境伯様。

当然お見かけしたこともないので実際の所は知らない。


「夫人方にも人気があるような方だから縁談も凄まじそうなことは想像できるわね」

「はい、辺境の地へ訪れた公……いえ、貴族を邸に泊めた所その娘が夜にほぼ裸同然の格好で寝所に潜り込んでくることもあるとか」

「それは……お気の毒ね」


好色な人間ならまだしも、まともな人は痴女に襲われて恐怖だろう。


「少々女性嫌いになっているのです」


まだ見ぬ辺境伯様を不憫に思う。


「周りとしてはこのまま結婚しないのも困りますし、なにより安全な、まともな婚約者がいれば変なのも近寄っては来ず、女性嫌いも治るかと」

「まぁ確かに私はそんな事はしないから安全かもしれないけれど。でもそもそもどうして婚約者がいらっしゃらないの?」


この国では12才〜15才ぐらいには婚約者が決まり18才〜20才頃に結婚するのが普通だ。辺境伯様は21歳、お父様が亡くなったのが3年前だとしても結婚はまだしも婚約者がいないことはおかしい。


「それが、15才の時より1年婚約していた方がいらっしゃるのですが、相手の方の家が没落したため婚約は解消となり、その後隣国との争いが激化し、収まったと思ったら前辺境伯が亡くなったりとそのままとなっていたのです」

「そうなのね。大変でしたのね、辺境伯様は」

「ええ、その通りでございます。ルカルディ様には幸せになっていただきたいのです。そして、わたくしめはオルデアお嬢様にも幸せになっていただきたいのです」


寂しそうにそう笑うフレッドの顔に、なぜか似てもないのにお父様が重なった。


「オルデアお嬢様はここにいてはいけません。決してお嬢様を追い出したい等の意味ではございませんよ?」


その言葉にこくりと頷く。フレッドの顔も声も私に対する愛情を感じる。


「オルデアお嬢様が全てを背負うことはないのです。ましてや領主となってこの地を守ろうという立場まで奪われたのです。不敬と承知で申し上げますが、この家は少々歪になってしまいました。オルデアお嬢様はここを離れて、離れた所から家族を見てみた方が良いでしょう」


フレッドが何か言葉をのみこむように、言いたいことを隠すように話す。きっと今の私では理解できないとの判断なのだろうなと思った。


「物理的に距離を開けれる辺境伯へ向かうのはよろしいことかと。豊穣な領地を持つローゼンフィル侯爵家と圧倒的武力のシュルベルト伯爵家が縁づけば、こちらは戦時の食料を、向こうからはいざという時の戦力を、互いに良い縁になることと思います」


それに、とフレッドは一度チラリと邸の方に目を向ける。その視線の先は見えはしないが執務室があり、そこには引き継ぎ仕事をしているロベルト様と、執務室に私とロベルト様が2人になるのは嫌だと言って、何もせずロベルト様の隣でお茶をしているリリーがいる。

それもあって私は最近休憩時間には庭に出ていることが多かった。2人を見ているのがツライ、なんてことはなく、単純にうざったい。


「旦那様から頼まれていたのです」

「お父様から?なにを?」

「はい、もしもロベルト様がオルデア様に相応しくない場合には、良き相手を見つけてやって欲しいと」

「お父様がそんなことを?」


ロベルト様との婚約を勧めてきたのはお父様だ。そんなお父様がそんなことをフレッドに託していたとは驚きだった。


「ロベルト様が成績の面で優秀であることは旦那様も分かっておりました。ですが内面までは精査できないと。時間をかけて見たかったが、もう自分にはその時間がないから、どうか頼むと。もちろんリリエンヌお嬢様にも良縁を見つけて欲しいとお願いされましたが……まさかこんなことになろうとは思いませんでした」


それはそうだろう。まさか妹が姉の婚約者を奪い、婚約者もあっさりと妹に乗り換え罪悪感もなく、それを母が良しとする。だれが想像できただろうか。


「ルカルディ様の人柄はわたくしめが保証致します。相性はあれどお嬢様に対して失礼な態度をとるような愚か者ではございません」

「この釣り書はシュルベスト辺境伯様の許可を得ているのよね?」


フレッドが私を辺境伯に行かせたいのは理解したが、だからと言って結婚したくなさそうな辺境伯様が私に釣り書を送ってくる意味はわからない。


「もちろんでございます。わたくしめがオルデアお嬢様の良きお人柄をとくと説明したところ、結婚にギラついた他家のお嬢様方とは違うと理解し、わたくしがそこまで言うならと釣り書を渡して欲しいと言付かりました」

「どんな説明をしたのよフレッド」

「ありのままのお嬢様を」


なんだか盛大に盛られていそうな気配を感じる。大方妹に婚約者を取られたことを哀れに思われたのだろう。まだ婚約者に未練があると思われているのか、そもそも侯爵家が辺境伯に嫁ぐメリットはそこまで大きくない。よって私がギラつく意味もない。

いや、他のお嬢様方は辺境伯様の美貌にギラついているのだろうが。ただ伯爵家としては戦時に1番確保したい食料援助が見込めるこの縁談は悪くないのだろう。


私としても国境を守ってくれる伯爵家の援助をすることに異論はない。私が嫁ぐことで援助がしやすくなる。

たとえ国境を守っている家に対してでも、何の縁もないのに援助をするのは貴族にとって色々とややこしく、縁談というのは実に楽に大義名分を得る方法なのだ。


「分かったわ。前向きに検討します」


そう言えばフレッドはホッとしたように笑った。この家令には随分心労をかけているようだ。


「まずはお母様に相談しなくてはね」


続けてそう言った私の言葉にフレッドはとても悲しげな顔をした。

お母様に相談せず縁談等決められるはずもないのになぜそんな顔をするのか私にはわからなかった。





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