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ずっと母と妹に搾取されていたことに気付けたので縁を切りました  作者: 朔晦 月陽


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当たり前の違い


ヨーゼフじじさまを連れて森に行けば、近くに住む領民達が待っていてくれた。

ヨーゼフじじさまはあっという間に領民達と馴染み、領民達は余所者のヨーゼフじじさまの言うことをしっかり聞いて作業してくれた。

そのうちの、一番森に近い場所に住んでいる領民の家に泊まることまで決めてしまい、結局辺境伯邸には泊まらなかった。


「ここの方が森にも近いですしな。まだ明日もくるみを拾わにゃならん、毎度毎度辺境伯邸から通うんじゃ老体には厳しいんじゃ、オルデアお嬢様は気にせんでくださいな」


平民のヨーゼフじじさまからしたら辺境伯邸に泊まる方が気疲れしてしまうだろう。私は領民にヨーゼフじじさまをお願いした。

ルカルディ様もヨーゼフじじさまの意思を汲んでくれた。


「我が家から夕食を届けさせよう。ささやかだが皆で味わってほしい」


また様子を見に来るし、いつでも辺境伯邸を訪ねてほしいと約束し、ヨーゼフじじさまを置いて私達は辺境伯邸へと戻った。


その日の夕食後、皆でサロンでお茶をしていると、話題は今日いただいたサムソンのワインの話になった。


「本当に美味しかったわ、あのワイン。フルーティーなのに甘すぎなくて、食事に合うからついすすんでしまって」


片手を頬に当て少し困ったように微笑むベルリナ様。


「ええ、軽くて私でもとても飲みやすくてびっくりしましたわ」


お酒を飲み始めのアリア様が嬉しそうに両手を合わせる。


「え?そんな軽いかい?私は少し重めで気に入ったんだがな?」


フィリオ様が首を傾げる。


「あ、それはグラスのせいですの」


私は自分とベルリナ様とアリア様には香りが際立ち、飲み心地が軽くなるグラスを用意した。ルカルディ様とフィリオ様にはしっかりとした重みが味わえるグラスを用意したのだった。


「グラスだけでそんなに変わるのかい?」


ルカルディ様が私達との感想の違いに驚いた。


「ええ、グラスの形で香り方や口当たりが変わることはご存知かと思いますが、このワインはそれがより鮮明に分かるのです。まだワインはありますので、明日は2つのグラスを用意してもらいますね」

「本当に素晴らしいワインね。購入できないのが残念だわ」


紅茶も好きなベルリナ様は香りの良いサムソンのワインを大層気に入った様子だった。


「ええ、このワインに使っているぶどうは手間がかかりすぎて多くは栽培できないそうなんです。ワインを作っているサムソンが、研究して美味しいワインを作りたくて趣味で作ったものなんだと言っていましたわ」

「そんな貴重なものを味わえるなんて、オルデア嬢に感謝しなければ」

「私はなにも。ワインを作ったサムソンが素晴らしいだけですから」

「サムソンはオルデア嬢だからとこのワインを贈ってくれたのだろう?あなたが頑張ったから今このワインを私達は飲めている。だからあなたにお礼を言いたいんだ」


ルカルディ様の言葉に他の皆もうんうんと頷いている。


「ありがとうございます」

「うん?違うかな、私達がありがとう、だ」

「ふふっ。では、どういたしまして?」

「正解だ」


私の努力をちゃんと評価してもらえる。それがこんなにも嬉しい。


「あ、そうだわアリア様。ヨーゼフじじさまが、商会に頼んでいたシャルフラワーの香水を一緒に届けてくださったの。頼まれていた3本用意しましたので、帰りにライナから受け取ってくださいね」

「え、もう?こんなに早くご用意くださったの?」

「今回はヨーゼフじじさまが来てくださったからとても早く辺境まで届けてもらえましたの。でも確認した所香水瓶に傷ひとつないし、こちらに運ぶのは大丈夫そうですわ。定期的に送ってもらう予定ですので、必要な時はお声がけくださいね」

「ありがとうございます!オルデアねえさま!さっそくお友達にお茶会のお手紙を書かなきゃだわ!」


はしゃぐアリア様の本当に嬉しそうな様子に、ついついリリーからはお礼も言われないのになと考えてしまった。ねえさまと呼ばれるせいかアリア様とリリーを比べてしまっている自分がいる。


「喜んでいただけて良かったわ」

「本当にありがとうございます!それで、運搬費用もこざいますでしょう?おいくらお渡ししたらよろしいのでしょう?」


さも当然と、にこにこしたままアリア様が尋ねてくる。


「え?」


驚きで固まる私に、アリア様が不思議そうに首を傾げる。


「オルデアねえさま?」

「あ、ごめんなさい。いいのよ、それは差し上げるつもりで用意した物ですから」


お金を払ってもらえるとは露とも思っていなかったので驚いた。それにアリア様からお金をもらうつもりなど端から無かった。


「そんな!私へのプレゼントは有り難くいただきましたけど、これは私がお友達にプレゼントするものですもの、それをオルデアねえさまから頂くことはできませんわ!」

「そうだよ、オルデア嬢。娘のわがままを聞いてくれただけでも有り難いと思っているんだ。商売なのだから代金を受け取るのは当たり前だ。あなたの商会に迷惑をかけるわけにもいかない」

「あ、いえ、私が代金は支払っておりますので商会には迷惑をかけておりませんわ。私の個人資産から支払っておりますので遠慮なく受け取ってください、その……」


家族なのだから、と続けたかったが、今の私は婚約者であって妻ではない。家族だからと言うのは躊躇われた。

横から伸びてきた手が、私の手を優しく握った。


「オルデア嬢、家族だからと言って金銭のやり取りはしっかりやるべきだ。あなたの優しさを否定したいわけじゃない。本来辺境の地では用意することが難しい香水を用意してくれた、それだけで十分なんだ。アリアの友人へのプレゼント代をあなたが払う必要はないんだよ」


家族じゃないから、ではない。家族であっても、だとルカルディ様はひどく優しい声で教えてくれた。


「わかりました。でも輸送費はいりません。ヨーゼフじじさまが運んでくださったし、今後も私への香水は定期的に届くので、必要であればその時一緒に送ってもらいますので。ですので、香水の代金だけ、いただきますわ」

「分かりましたわ、ではお言葉に甘えて香水の代金だけ後で私の侍女からライナに届けさせますわ。ああそうだ、もしオルデアねえさまがよろしければお茶会に参加していただけませんか?私の大好きなお友達に憧れのオルデアねえさまを紹介したいのです。駄目かしら?」


ちょっと上目遣いに、眉を下げてお願いしてくるアリア様は可愛くて、私はもちろん参加させていただくわとお返事した。

家族だから何かをして当たり前、そう言われて生きてきた私は、心の中がざわざわしていた。この感覚がなんだか分からなかったけれど、ルカルディ様がずっと優しく握ってくれている手が温かくて、ざわざわはいつの間にか気にならなくなっていた。



お読みいただきありがとうございます

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